【伝えているけど】




わかっているのか、いないのか。
伝えているけど、伝わらない。




「まだ宿題終わらねぇんか?」

ドアをノックすると同時にするりと室内に体を滑らせ、悟空は机に向かう愛息子の背中に問うた。

「ええ。でも、もうすぐ終わりますから」

椅子をくるりと半回転させると、いつもの柔らかい笑顔で返事をする悟飯。

「そっか。高校生になってから忙しそうだな、おめぇ」

そうなのだ。
学生でありながら正義のヒーローとして活躍する悟飯は、普通の高校生では考えられない多忙な生活を送っている。

「はは、もう慣れました」

そう言って笑うけれど。
力を押さえてただの高校生のフリをするのは、何かと神経を使うだろう。
その上、興味本位で何にでも首を突っ込みたがる好奇心旺盛なパートナーに振り回されて、いらない苦労も多そうだ。

「いろいろと大変そうだなぁ。無理してねぇんか?」

父親らしい気遣いを見せれば。

「そうですね。大変だって感じる時もあるけど・・・平気です。僕は今とっても幸せですから、多少の無理だってへっちゃらなんです」

と思いがけない返事が返ってきた。

「ならいいんだ。あんま無理すんなよ。好きだぞ、悟飯」

心配が杞憂に終わったと知り胸を撫で下ろしつつ、さりげなく想いを告げた。

悟飯は一瞬きょとんとして、でもすぐにいつもの笑顔を見せて。

「僕も好きですよ、お父さん」

と至極当然のように応えた。

「僕もお父さんのこと好きだよ」

いつの間に現れたのだろう、弟の悟天がにこやかに二人に近付いて来る。

「お兄ちゃんも大好き」

「ありがとう悟天。兄ちゃんも悟天のことだーい好きだぞー」

不在だったチトやの代わりに母と共に弟を育てた悟飯は、今度は破顔して悟天に応える。

「お母さんがね、もうお風呂が沸いたから入れってさ。ねぇ、お兄ちゃん、久し振りに一緒に入ろう」

「いいぞ、悟天。お父さん、お先にお風呂いただきます」

「おう!」

二人の子供の微笑ましいやり取りに、悟空は明るい笑顔で送り出す。
横をすり抜け部屋から出て行く悟飯の気配を追い、扉が閉まると同時に姿が見えなくなった息子の背中にぽつりと呟いた。



「そうじゃねぇよ、悟飯・・・」



わかっているのか、いないのか。
伝えているけど伝わらない。








(びっくりした・・・!)

後ろ手にドアに凭れながら悟飯は、今だに忙しく高鳴る胸に手を当てた。

突然の父の言葉に何とか平静を装って返せたものの、内心ドキドキものだった。
一般家庭では当たり前の、幼い頃には難無く口にしていた言葉も、父を意識している今の悟飯にとってはハードルが高い。
それに、相手からの好意も勘違いしてしまいそうで。

「どうしたの?お兄ちゃん」

「何でもないよ、悟天。さぁ、行こうか」

頬の火照りを自覚しつつ、弟を促してバスルームに向かう。

「お兄ちゃん、顔が真っ赤―!」

からかう弟の言葉に、悟飯は今度こそ耳たぶまで真っ赤に顔を染めた。



わかっているのか、いないのか。
伝えているけど伝わらない。





END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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