【願わくば】
悟空は、先程から自分の指を握って離さないベビーベッドの中の小さな赤ん坊を
眺めていた。
丸い顔の輪郭を。
透き通った黒い瞳を。
まだ喰むことも適わない小さな口を。
「悟空さ、ちょっと抱っこしてみるだか?」
あんまり悟空が眺めていたからか、横からチチが声をかけた。
「えっ!オラ、抱き方なんてわっかんねぇぞ」
驚いた悟空に、チチは「大丈夫だ」と言うと、赤ん坊をそっと抱き上げて手渡してくる。
片腕を首の下に、もう片方の手をお尻の下からと、抱き方の手ほどきを受けながら受け取る。
「う、うわ!何だこれっ!?グニャグニャだぞ!」
「まーだ骨が固まってねぇからなぁ」
とチチが笑う。
小さくて軽い、まだ自力では生きることも出来ない自分の息子。
だが、その手に感じる重みは命の重さだ。
悟空は再び、先程まで自分の手を握っていた小さな手に目を遣った。
出来ることなら、この小さな手に幸福を握らせてあげたい。
自分の中に、今まで感じたことがない不思議な感情が湧き上がってきた。
これは親のエゴだろうか。
「なぁ、チチ」
「どうしたんだ、悟空さ」
「オラ、なんだか欲張りになっちまったみてぇだ」
そう言う悟空を、チチは不思議そうに見上げた。
自分でも不思議でたまらない。
だが、こう思わずにはいられない。
この子を、誰よりも幸せにしてあげたい、と。
― 願わくば、世界中の幸福をこの子の手に。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。
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