【読まないラブレター】

【読まないラブレター】


「悟飯―。・・・って、居ねぇのか。どこ行っちまったんだろうな、アイツ」


修業を終えて悟飯の部屋を訪ねてみれば、肝心な悟飯は留守。
会いたかったのに、と、毎日顔を合わせているのに我が儘な心が少しだけ拗ねる。
勉強机に視線を投げれば、そこには悟飯のスクールバッグ。
どうやらハイスクールから帰宅した後、再度外出したらしい。
また例の、正義のヒーローの出動か。


「悟飯のヤツ、学校ってとこで、どんな勉強してんだ?」


気になって、スクールバッグを開けてみた。
うっかり、息子の秘密を覗いてみることになるとも知らずに・・・。


「・・・!」


中には女の子からのたくさんのラブレター。
しかし、開封されたものは極わずかで、殆どのものが贈り主に目を通してもらえていなかった。
そのどれもが差出人は不明。
成る程、これらは返すアテもなく、捨てるにも忍びなく、かといって読んでいる時間もなく、スクールバッグの奥底に仕舞われたままになっていたものばかりらしい。
と、悟空は、難しい教科書やら参考書の間に挟まれた、無地のレターセットを発見した。
忙しい合間を縫って、可能な限りは返事を書いていたのか。
悟空は勉強机の椅子を引いてそこに腰かけると、レターセットから便箋と封筒を一枚ずつ引き抜いた。
ペン立てから悟飯愛用のペンを手に取り、下手くそな字で昔覚えた字を、心を篭めて書き綴る。


『好きだぞ、悟飯』


あまたのラブレターと同じに、差出人の名前は記入せずにしっかりと封を閉じた。
そしてそのまま、悟飯に読まれることのない手紙を、スクールバッグの奥底に忍ばせる。


悟空の想いは、大勢の女の子達の手紙の中に、紛れて消えた。



END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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