【希望的観測】
【希望的観測】
逢いたい。
けど叶わない。
せめて声を聴きたい。
そうしてダイヤルしかけては、挫けた勇気に手を止める。
何の用もないのに突然電話なんかしたら、相手は不審に思うだろう。
彼の弟になら、真夜中だって遠慮なんかしないのに。
気兼ねなく電話をかけられる関係になれないのが恨めしい。
切なくて、切なくて、やるせなくて。
嫌悪の溜め息と共に、ベッドの上にぽんと携帯を放り出した。
サイドテーブルには昔の写真。
幼なじみと自分に挟まれて、恋しい彼が優しく笑っている。
子供の頃には大人びた人だと思っていた彼が、あの頃の彼と同じ歳になった自分から見たら、随分と可愛いかったのだと思う。
恋は多分、この頃から始まっていた。
あれから8年の歳月が過ぎ、時があの人を変えてしまった。
黒縁の眼鏡があの人の綺麗な顔を隠し、外出先では目立つのを嫌うかのように派手な外見の父親の影となり、落ち着き払った口調と物腰が、見知らぬ人々に彼を実年齢より年上に見せていた。
だが、彼の根本は何も変わらない。
外見も内面も、昔のまま、綺麗なままだ。
逢いたい。
無性に逢いたい。
逢って、彼が誰よりも綺麗な人なのだと、確かめたい。
さきほど放り投げた携帯を拾いあげると、また、彼の名前を探す。
こんなことばかり、もう数時間も繰り返している。
もう嫌だ、もういい加減終わりにしたい。
今度こそ、と決意してダイヤルボタンを押そうとした瞬間、サイドテーブルのパソコンのTV電話が作動した。
受信モニターに切り替えたパソコンの画面に映る人物に、何の奇跡かと神に感謝したくなった。
「やあ、トランクス」
昔と変わらぬ優しい笑顔に、少しだけトランクスは希望を見出した。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。
逢いたい。
けど叶わない。
せめて声を聴きたい。
そうしてダイヤルしかけては、挫けた勇気に手を止める。
何の用もないのに突然電話なんかしたら、相手は不審に思うだろう。
彼の弟になら、真夜中だって遠慮なんかしないのに。
気兼ねなく電話をかけられる関係になれないのが恨めしい。
切なくて、切なくて、やるせなくて。
嫌悪の溜め息と共に、ベッドの上にぽんと携帯を放り出した。
サイドテーブルには昔の写真。
幼なじみと自分に挟まれて、恋しい彼が優しく笑っている。
子供の頃には大人びた人だと思っていた彼が、あの頃の彼と同じ歳になった自分から見たら、随分と可愛いかったのだと思う。
恋は多分、この頃から始まっていた。
あれから8年の歳月が過ぎ、時があの人を変えてしまった。
黒縁の眼鏡があの人の綺麗な顔を隠し、外出先では目立つのを嫌うかのように派手な外見の父親の影となり、落ち着き払った口調と物腰が、見知らぬ人々に彼を実年齢より年上に見せていた。
だが、彼の根本は何も変わらない。
外見も内面も、昔のまま、綺麗なままだ。
逢いたい。
無性に逢いたい。
逢って、彼が誰よりも綺麗な人なのだと、確かめたい。
さきほど放り投げた携帯を拾いあげると、また、彼の名前を探す。
こんなことばかり、もう数時間も繰り返している。
もう嫌だ、もういい加減終わりにしたい。
今度こそ、と決意してダイヤルボタンを押そうとした瞬間、サイドテーブルのパソコンのTV電話が作動した。
受信モニターに切り替えたパソコンの画面に映る人物に、何の奇跡かと神に感謝したくなった。
「やあ、トランクス」
昔と変わらぬ優しい笑顔に、少しだけトランクスは希望を見出した。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。