【悟飯の後悔②】

【悟飯の後悔②】


父の失踪から時間が経てば経つほど、悟飯の思考は段階を追ってネガティブさを加えていった。
『たまには戻る』と言った父が、待てど暮らせど悟飯のもとに事情の説明に現れなかったのも、悟飯の精神の不安定さを助長させる原因となった。
そんなある日、母から弟の試験勉強をみてやって欲しいと頼まれた悟飯は、久方ぶりに弟の部屋の扉をノックした。
勉強嫌いな弟を叱りつけてやるつもりで悟飯が扉を開けると、天真爛漫で自由奔放な弟は予想を裏切って既に勉強机に向かって熱心に鉛筆を動かしていた。
多忙な兄の手を煩わせてしまうことを真っ先に謝罪した殊勝な弟に、わからない問題でもあるのかと尋ねると、弟は『どうしても解けない問題がある』と述べた。

『失恋したらさ、大抵の人はまず落ち込むだろ、自分に自信が持てなくなっちゃってさ。人によっては、落ち込みから回復する為に対象者に怒りを感じるケースもあるんだってね。でも、時間が経って自分の恋が終わった事実を受け入れられるようになると、少しずつ立ち直っていけるんだって』

これを聞いた悟飯は、弟が何を言っているのか理解できなかった。
否、何を目的として弟がこんな話を兄である己に語るのか、弟の心理を読めなかったのだ。

『・・・何の話をしてるんだ、お前・・・?』 

『兄ちゃんの話をしてるんだよ。いつになったら、お父さんがいなくなったショックから立ち直れるのかな、って』

『お父さんがいなくなって僕がショックを受けるのと、さっきの失恋の話といったい何の関係があるんだ?』

『失恋の話は例えだよ。つまり、お父さんとは終わったんだって現実を受け入れらない限り、兄ちゃんはいつまで経っても立ち直れないんじゃないか、って話だよ。兄ちゃんの性格からして、お父さんが出て行ったのは自分のせいなんじゃないかって、自分を責めるところから先に進んでないだろ。それとも、自分の言動次第では今でもお父さんが傍にいてくれたんじゃいないかなんて、馬鹿なこと考えてるの?』

図星だった。
まさしく弟の言う通りだった。


ここまでお読み戴きありがとうございました。
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