【ナチュラル】

【ナチュラル】



「さあっ!たくさんあるから、みんな、どんどん食べてねぇ~!」

よく通る声で、ブルマがにこやかに勧める。
多種多様の味のピザを各テーブルに運んで忙しなく動き回るウェイター達にまざって、雇い主である彼女自身も上機嫌な様子で給仕を務めていた。
地球のピザなるフードにすっかりハマったビルスとウィスの為に開かれたピザパーティーにお馴染みの勇士の面々も残らず呼ばれ、例に洩れず孫家の人間もその恩恵に預かっていた。
次々に提供されるピザをコメントつきで平らげてゆくビルスの眼は無いに等しいほど細められ、会場の誰しもがこのパティーの主旨と目的を暗黙のうちに理解していたのだった。

「ねぇ、ビルスさ~ん。これだけ美味しい物をたっくさん食べたんだから、また地球がピンチになったら助けてくれるわよねぇ~?」

とシナを作ってビルスに擦り寄るブルマの猫なで声に、聞いていた面子はブルマの心遣いに感謝の念を抱くどころか、遂に口に出してしまったと内心で冷や汗をかいた。
ブルマのあからさまなご機嫌取りが、却ってビルスの機嫌を損ねてしまうのではないかとの懸念に、誰もが瞬時に味覚を失ってしまう。
だが、肝の据わったサイヤ人達が座を占める一角では、固唾を飲んでビルスの反応を伺う凍てついた空気をものともせずに、我関せずでテーブルに居並ぶピザ達の堪能がひたすら行われていた。

「お父さん、顎にチーズがついてますよ」

限界まで伸びて切れたチーズが顎に垂れてもまるきり気付かずに食事を続ける悟空に、悟飯が注意を促した。
向かい側に座るベジータは、何かにつけて甲斐甲斐しく悟空の世話を焼く悟飯に、そんなものは放っておけば良いだろうにと思わずにはいられない。
悟空は唇に残ったチーズの欠片を慌てて舌で掬うが、それでも全部は拭い切れない。
しょうがないな、と悟空に食事を一時中断させて、代わりに悟飯が親指の腹で悟空の顎に付着したチーズを自身の親指の腹で拭ってやる。

「・・・貴様ら、イチャつくのは自分の家に帰ってからにしろよ・・・!」

黙々と様々な味のピザを己の口に運んでいたベジータが、食事を開始してから初めて苛立たしげに声を発した。

「別に、イチャついてねぇよ」

「イチャついていただろうが!」

「だから、イチャついてねぇって!」

「いいや、イチャついていた!!」

あっけらかんと応える悟空と、ムキになって突っかかるベジータと、次第にヒートアップしてゆくふたりのやりとりは周囲を圧して異様な熱気を生じさせる。

「なぁ、ベジータ、イチャつくってのはさぁ・・・」

と、このままでは埒が明かないと悟った悟空は、悟飯の肩を抱くと悟空の顎からチーズを絡め取ったその手を握り、悟飯の親指に残されたチーズをぺろりと舌で舐め取った。

「!!」

「・・・こういうのを言うんじゃねぇんか?」

「イチャつくのは家に帰ってからにしろと言ってるだろうがっ!!!」

ベジータに視線を戻した悟空は不敵な笑みを浮かべ、挑発的な悟空にさらに激昂したベジータは悟空に掴みかからんばかりの勢いで椅子を蹴って立ち上がり、悟飯は真っ赤になって俯いた。
3人のただならぬ様子に何事が起こったのかと皆が注視する中でただひとり、ビルスだけは面白いものを見物するように片頬を歪めてにやりと笑った。


END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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