【悟飯に関する一考察】
【悟飯に関する一考察】
「よくやった、悟飯」
短期間でのパワーアップを成し遂げ、チームのリーダーとしての責務を全うし、冷静な分析力と判断力で最後まで粘った健闘を讃えて労を労えば、悟飯は腰を折って深々とお辞儀をした。
半分だけとは云えサイヤ人の血を引いているとは思えないほどの礼儀正しさに、闘うこと以外に興味のない悟空の息子だとはとても信じられない、とビルスは感心した。
おそらくは母親の教育の賜物なのだろう、父親の悟空は育児関係の方面にはまるきり関心がなさそうだから。
悟空の関心があるのは、強くなることと、強い相手と闘うことだけ。
『大事なものを守るため』なんて理由や理屈もいらない。
ただ、純粋に強くなりたいだけ。
だからこそ、ビルスには悟空が面白い。
悟飯のように己の強さに関心のない人間には、ビルスは1グラムも興味は湧かなかった。
ところが、悟空の方はそうもいかないらしい。
一瞬たりとも気が抜けない力の大会の最中であるにも関わらず、悟飯が気になってよそ見をし、ベジータに叱咤されていた。
悟飯を見遣る悟空の誇らし気な横顔に、ビルスにはピン!とくるものがあった。
一方、当の悟飯はと云えば、何でも父親の悟空とは違う方法で究極の強さを目指すと宣言したらしい。
これだけ雑多な人種の坩堝の中にありながら常に父親の居所を探り、悟空の気をキャッチし続ける悟飯。
宣言の内情は、自分とはタイプの違う父親を敬遠したからでないのは明らかだった。
それは、つまり、どういうことなのだろうか―?
実はあのふたり、何かあるのではないか、そう思った途端、悟飯に興味が湧いてきた。
正確には、もしも自分が悟飯を拐かしたとしたならば悟空はどうするか、に興味があった。
ビルスの予想が正しければ、怒り狂った悟空はこれまで見せたこともないような強さでビルスに向かって来るかも知れない。
強い相手と闘いたいのはビルスとて同じこと、この考えにビルスの背筋を戦慄に似たものが走り抜ける。
と、頭の中に響いた軽蔑するような冷たい声が、ビルスの高揚に水を差した。
(随分と物騒なことを考えていらっしゃるんですね)
振り向くと、ウィスが冷ややかな眼差しで、目線だけをビルスに送っていた。
「破壊神ともあろうお方が、品性の欠片もないことを考えるのはお止め下さい」
「あ・・・いや、その・・・」
何か言い返そうと思ったが、ウィスの冷たい迫力に気圧されてビルスは口篭る。
言い訳を許さないウィスに尚も白い眼で斜に構えられて、ビルスはとうとう観念した。
「・・・わかったよ!馬鹿なことは考えなければいいんだろ・・・!」
ビルスが半ばヤケクソで吐き捨てると、主人の態度の悪さなど気にも止めないウィスがニコリと微笑んだ。
そっぽを向いて頬杖を突き、『つまらない』と呟いたビルスだったが、必ずしも己の予想が正鵠を射ていると限らないのはわかっていた。
しかも、ふたりが特別な関係でなかったとしても、あれだけ強い絆で結ばれているふたりの間に割って入ろうなど、無謀も良いところだ。
「面倒なのは僕だって御免だよ」
破壊神の威厳を取り戻して、ビルスは口元を綻ばせた。
内心で、ちょっと惜しい気もするけど、と付け足して。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。
「よくやった、悟飯」
短期間でのパワーアップを成し遂げ、チームのリーダーとしての責務を全うし、冷静な分析力と判断力で最後まで粘った健闘を讃えて労を労えば、悟飯は腰を折って深々とお辞儀をした。
半分だけとは云えサイヤ人の血を引いているとは思えないほどの礼儀正しさに、闘うこと以外に興味のない悟空の息子だとはとても信じられない、とビルスは感心した。
おそらくは母親の教育の賜物なのだろう、父親の悟空は育児関係の方面にはまるきり関心がなさそうだから。
悟空の関心があるのは、強くなることと、強い相手と闘うことだけ。
『大事なものを守るため』なんて理由や理屈もいらない。
ただ、純粋に強くなりたいだけ。
だからこそ、ビルスには悟空が面白い。
悟飯のように己の強さに関心のない人間には、ビルスは1グラムも興味は湧かなかった。
ところが、悟空の方はそうもいかないらしい。
一瞬たりとも気が抜けない力の大会の最中であるにも関わらず、悟飯が気になってよそ見をし、ベジータに叱咤されていた。
悟飯を見遣る悟空の誇らし気な横顔に、ビルスにはピン!とくるものがあった。
一方、当の悟飯はと云えば、何でも父親の悟空とは違う方法で究極の強さを目指すと宣言したらしい。
これだけ雑多な人種の坩堝の中にありながら常に父親の居所を探り、悟空の気をキャッチし続ける悟飯。
宣言の内情は、自分とはタイプの違う父親を敬遠したからでないのは明らかだった。
それは、つまり、どういうことなのだろうか―?
実はあのふたり、何かあるのではないか、そう思った途端、悟飯に興味が湧いてきた。
正確には、もしも自分が悟飯を拐かしたとしたならば悟空はどうするか、に興味があった。
ビルスの予想が正しければ、怒り狂った悟空はこれまで見せたこともないような強さでビルスに向かって来るかも知れない。
強い相手と闘いたいのはビルスとて同じこと、この考えにビルスの背筋を戦慄に似たものが走り抜ける。
と、頭の中に響いた軽蔑するような冷たい声が、ビルスの高揚に水を差した。
(随分と物騒なことを考えていらっしゃるんですね)
振り向くと、ウィスが冷ややかな眼差しで、目線だけをビルスに送っていた。
「破壊神ともあろうお方が、品性の欠片もないことを考えるのはお止め下さい」
「あ・・・いや、その・・・」
何か言い返そうと思ったが、ウィスの冷たい迫力に気圧されてビルスは口篭る。
言い訳を許さないウィスに尚も白い眼で斜に構えられて、ビルスはとうとう観念した。
「・・・わかったよ!馬鹿なことは考えなければいいんだろ・・・!」
ビルスが半ばヤケクソで吐き捨てると、主人の態度の悪さなど気にも止めないウィスがニコリと微笑んだ。
そっぽを向いて頬杖を突き、『つまらない』と呟いたビルスだったが、必ずしも己の予想が正鵠を射ていると限らないのはわかっていた。
しかも、ふたりが特別な関係でなかったとしても、あれだけ強い絆で結ばれているふたりの間に割って入ろうなど、無謀も良いところだ。
「面倒なのは僕だって御免だよ」
破壊神の威厳を取り戻して、ビルスは口元を綻ばせた。
内心で、ちょっと惜しい気もするけど、と付け足して。
END
ここまでお読み戴きありがとうございました。