【愛し児よ】

めぐよ】



「綺麗だろ、悟飯」

悟空はまだ生まれて一年にも満たない悟飯を胸に抱き、パオズ山に沈む赤い夕日を丘の上から眺めていた。

「地球って、綺麗だろ。おめぇには、もっといろいろ見せてやっかんな」

まだ地球を知らない息子に、見せたいものはたくさんある。
丘一面に咲く春の花、夏の高く青く澄んだ空、ドレスを纏ったかのように華やかでいてどこか切ない秋の木々、そして空から舞い降りる冬の華。
木々を渡る風の音も、氷が溶けて流れる音も、卵の殻がひび割れる音も聞かせてやりたい。
そして、教えてやりたい。
父が守り抜いた、命を生み育む地球の偉大さを。
父と母が、どれだけお前の誕生を待ち侘びたのかを。

「明後日には恐竜の卵から雛が生まれるかんな、父ちゃんと一緒に見に行こうな」

無事に雛が還れば、息子は生まれて初めて生命が誕生する瞬間を目の当たりにすることとなる。

「悟飯?」

急に静かになった息子に目を遣ると、つい先程まで言語にならない声を発していた悟飯は、いつの間に眠りに就いたのか、安らかな寝息を立てていた。
その吐息すら愛しくて、悟空は柔らかい頬にそっと触れてみる。

その眠りが、生涯安らからであることを願って。





愛ぐし児よ、今は眠れ。
大人になるまでに、幸せな夢をたくさん見られるように。






END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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