【読まないラブレターⅢ】

【読まないラブレターⅢ】


一体これは何の冗談だろうか。
先程から悟飯は、目の前に置かれたホール型のケーキと、怪しい音程で繰り返しバースデーソングを口ずさむキッチンの人物を交互に見比べていた。
塾の関係で誕生日より少し早い数日前の日曜日に家族に自分の誕生日を祝って貰い満足していた悟飯だが、誕生日当日の今日に、ご馳走を用意するからマンションに来い、とターレスに誘われ、珍しいこともあるものだと思いつつもつい信用してついて来てしまった。


・・・のだが、ここに来てから疑いの心がムクムクと起き上がった。
    ・・
果たしてあのターレスが、何の下心もなく悟飯の為に料理の腕を振るうなどと、本気で信じて良いものだろうか。
何せこの男、幼少の悟飯の誘拐に失敗してからは、ことある毎に悟飯にちょっかいをかけ続けてきたのだ。
このホール型のケーキだって、本当に安全なものかどうかも怪しい。
もしかして、毒でも入っているのではないか。
その証拠に、ケーキの上にはチョコレートペンで書いた、見たこともない文字が並んでいる。


「ターレスって、古代文字に詳しいんだね。僕、こんな文字見たこともないや」


見た目はともかく香ばしい匂いを発する料理を運んで来たターレスに感心した様子を見せると、途端にターレスはムッと顔をしかめる。



「うるせー!ガキが生意気言ってんじゃねーよ!」


吐き捨てて、ターレスはまたキッチンへと向かってしまう。
ああ、ああ、ああ、ああ、そうかよ、悪かったな!!
と、心の中で毒づいて。
スポンジだけは市販で購入したものの、なかなか泡立たない生クリームと格闘して、四苦八苦しながら何とかデコレーションして、最後の仕上げに精一杯の気持ちを篭めて書いた『I LOVE YOU』の文字。
ぐちゃぐちゃなのは認めるが、そこまで嫌味言われちゃあ、さすがの俺様だって傷付くってもんだぜ、お坊ちゃんよ!
それでも、いつもは顔を見ただけで真っ先に逃げ出す悟飯が、こうしてここに来てくれただけで、今回は成功と言うべきか。


「ターレス、切り分けるのヘタ」

「いちいち指摘すんなっ!張っ倒す(押し倒す)ぞ!!」

「ねぇ、チョコレートのプレートはターレスにあげる」

「?何だ、お前チョコレート嫌いなのか?」

「そうじゃないけど・・・。僕の為に頑張ってケーキを作ってくれたターレスに食べて欲しいんだ」


そうか、とターレスがチョコレートプレートを口に入れると、舌に妙にザラついた感触が・・・。
まさか、店で不良品を売り付けたんじゃあるまいな、と慌てて吐き出して見ると、いつの間に彫ったのだろう、プレートの裏側には3つの文字が刻まれていた。


『ぼくも』


ケーキの上に書いたラブレターに、チョコレートプレートで返事をした悟飯。
生意気なガキにはお仕置きが必要だが、今日だけは特別にプレゼントをやろう。
ターレスはチョコレートプレートを口にくわえると、もう片方を悟飯の口元へと運んだ。



END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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