【読まないラブレターⅡ】

【読まないラブレターⅡ】


「こんにちは、ピッコロさん」


挨拶と同時にピッコロの首にぶら下がる悟飯。
悟飯がほんの小さい頃から、逢えばいつもこれだ。
今ではピッコロも慣れ、何てことのない行動だと、別段気にもせずに受け入れている。
だが、不安定に揺れる悟飯の体は、優しく両手で支えてやった。
悟飯の腰の辺りを掴むと、ズボンのポケットの膨らみがわかる。
そこにある物を、ピッコロはとうの昔に知っていた。
それは、何年も前から悟飯がポケットに入れて持ち歩いていた為、擦り切れて皺くちゃのボロボロになった、悟飯からピッコロに宛てた手紙。
いつだったか、話し疲れた悟飯がピッコロのベッドで眠っていた時、ポケットからちょこんと顔を覗かせたそれを偶然発見した。
何かと思って中を開いて見たピッコロの目に飛び込んで来た文字の数々。


『ピッコロさん、大好きです。
いつか僕を、ピッコロさんの恋人にして下さい。
悟飯』


高鳴る心臓に、慌てて手紙を元に戻した。
相手の気持ちを知ったからには、『好きだ』と告げるのは簡単だった。
だが、それだけでは済まないだろう自分に、罪悪感がブレーキをかけた。
受け入れられた歓びは、更なる欲望のエサとなる。
一度許されてしまえば、箍が外れたように逢う度に求めてしまうだろう。
求め過ぎて、いつか傷つけてしまうかも知れない。
悟飯を傷つけたくない、その想いは自制心となり、ピッコロは未だに一歩を踏み出せずにいる。


「悟飯、もう少しオレに時間をくれ」

「えっ、あ、は、はい、いいですけど、ピッコロさん」


何がですか?


懺悔のように話すピッコロに、悟飯は首を傾げながらストンと地面に降りる。


お前にはまだわかるまい。
まだ、知らなくていい。


いつか、悟飯を傷つけずに愛せる自信が持てたなら、躊躇った一歩を踏み出せるだろう。
そうしたら悟飯に、あの手紙はとっくに読んでいたのだと教えてやろう。
その時がくるまで、ピッコロは悟飯の手紙を読んではいない。



END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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