【破壊と創造】

【破壊と創造】


「トランクス、悪いけど肩かして」


何か酔っちゃったみたいだ、とふらつく頭を隣りに座るトランクスの肩に預けた。


「いいですよ、悟飯さん」


アルコールも飲んでいないのにトランクスは頬を赤らめ、ソワソワと落ち着かず、照れているのは誰の目から見ても明らかだ。

トランクスの肩にもたれたままアルコール臭い息を長く吐く悟飯の目線が、ちらり、と真向かいに座る悟空へと流れた。

その意味あり気な視線に、人知れず悟空がむっとする。


(わざとオラに見せつけてやがる)




「悟飯、酔っ払ってんのか?」


パーティーの会場となったカプセルコーポレーションの一室を一夜の宿に借りた悟空は、酔った悟飯の肩を抱いて割り当てられた部屋へ向かっていた。


「・・・酔っ払ってても、もう、あんなことはすんな」


足取りの頼りない悟飯を支えながら、先程の悟飯の行動に知らず声音が低くなる。


「―あんなこと・・・?あんなことって、何のことですか?」


胸に溜まった塊を言葉にして吐き出しても、悟飯からはとぼけた反応が返ってくる。


「なぁ、悟飯、何でオラを試すんだ?」


今日みたいなことは一度や二度ではない。

その度に、自分の愛情を悟飯に試されているのだと思う。

だが、何の為に?


「さぁ、僕にもわかりません」


何故と聞かれても、自分の心なのに悟飯にもわからない。

でも、そうせずにはいられない。

成人した辺りから自分の父を時折『貴方』と呼ぶようになり、結婚してからは、以前なら必要なかった駆け引きも覚えた。

それまで意識していなかった終わりの時を、気にかけるようになってから。

いつ、どんな形で終わるのか、どちらにより大きな傷が残るのか、不安で不安で。


(また何かゴチャゴチャと、難しいこと考えてんな)


そのまま黙り込んだ悟飯を客用の寝室に運ぶと、広い室内に設置された見るからに高級そうなベッドに腰掛けさせる。

途端に悟飯はベッドに倒れ込み、子供の頃からしっかり者で通っていた悟飯の靴を脱がせたりネクタイを緩めたりと、珍しく悟空が世話を焼く。


「おめぇは壊れた時のことを心配してんのかも知んねぇけど」

衣擦れの音を遠く、悟空の声を近くに聞きながら、悟飯は聞こえないフリをする。


「壊れたらまた造り直せばいい。オラ達ならそれが出来るさ」


その言葉と目の前に現れた逞しい父の裸の胸に、悟飯は心を解放した。





END

ここまでお読み戴きありがとうございました。
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