《あるバイトSS》
「お父さん、難しい顔して、何見てるんですか?」
今日は休日、孫一家が悟飯の家へ、孫娘に会いに、遊びに来ていた。
ゆったりとした午後のひと時。女性陣+悟天は、近くのショッピングモールへ買い物がてら遊びに、残された悟空と悟飯は、久しぶりの静かな時間を過ごしていた。
悟飯は、やり残した仕事があるからと、一旦、書斎へ向かい、悟空はリビングのソファーに座り、自分のスマホを自宅に忘れてきた為に、悟飯から借りたタブレットを眺めながら、何やら探しているようだった。
そこへ、仕事を終えた悟飯がきて、悟空がタブレットを片手に、眉間にシワを寄せて首を捻っている、何とも奇妙な場面に遭遇し、不思議そうにそう言った。
その声に、悟空はタブレットから目を離さず答えた。
「ん?いや、ほら、今、畑、何も仕事ねぇだろ?その間、なんかオラでも出来そうな仕事、ねぇかなぁ…と思ってさ。」
「お父さん、偉い!お母さんが聞いたら喜びますよ!じゃあ、僕も一緒に探しますよ。」
「サンキュ!」
悟飯は悟空の隣に座り、自分のスマホで検索し始めた。
静かな時間が流れて行く。2人は無言で、何か良いバイトはないかと、探していた。
そこへ、悟飯が声を上げた。
「あ、これなんてどうです?”筋肉求む!”ってあります。」
「何だ?力仕事か?」
悟空が横から悟飯のスマホを覗き込んだ。
「いえ…これ、有名なアパレルメーカーですよ。モデル募集だそうです。えーっと…何々…”あなたの筋肉自慢な画像を添付して、こちらまでお送り下さい。あなたを私達は待っています!” そんなにガタイの良いモデルを探してるんですかね?有名なブランドなんで、ちゃんとしたモデルのバイトだと思いますけど。」
「ふ~ん、筋肉ねぇ…。」
「何でそこまで筋肉を前面に出しているんでしょう?」
「モデルって何やんだ?」
「ファッションブランドだから、服を着て写真撮るだけだと思います。」
それを聞いて、悟空の顔がパッと明るくなった。
「そんだけで良いんか!なら直ぐ終わるな!修行やれんな!」
「ははっ楽な仕事なんて無いと思いますよ。でも、お父さん、見た目も若いし、スタイルもいいんで、モデル、出来そうですけどね。」
滅多にこんな事を言わない悟飯にそう言われ、気を良くした悟空が、素直に嬉しそうに言った。
「おっ!おめぇが、そんなに誉めるなんてな!オラそんなイケてんのか!」
「いや、客観的に見た感想を述べただけです。」
喜ぶ悟空とは対照的に、無表情で抑揚のない平板な声で悟飯はそう言った。
「んな事言って~。おめぇ、本当はそう思ってんだろ?『お父さん、カッコイイ!』って。」
「はあ?何言ってんですか。で、どうします?採用されるかは分かりませんけど、送ります?」
全く取り合ってくれない悟飯に寂しさを覚えながら、何故、ツッコんでくれないんだろうと、もうボケるのはやめとこうと思った。
「ったく、素直じゃねぇなぁ…。そうだな…筋肉なら自信あっぞ!」
と、力こぶを作ってみせる。
「じゃあ、丁度、今、ピチピチのTシャツ着てるんで、その、お父さんのカッコイイポーズで写真、撮りましょうか。」
悟飯がそう言うなり、ソファーから立ち上がった悟空は、カッコイイポーズをとりはじめた。結構やる気満々だ。
「よし!こんなんで良いか!」
「…いや…確かに筋肉は強調されますけど、ボディービルダーじゃないんですから…もっと普通のポージングでお願いします。」
「普通ってどうやんだ?」
「分かりました。ポーズはもういいですから、自然体で行きましょう。」
「自然体って?」
「…う~ん…確かに難しいですよね…。そうですね、お父さんの自然体と言ったら、やっぱり武道の型…ですかね。いつも修行してる時みたいに、ちょっとだけ、体動かして下さい。適当に撮ってますから。くれぐれも、控え目にお願いしますね。」
「ぅおっしゃ!そんならまかせろっ!!」
「じゃあ、庭へ行きましょう。」
庭へ出てから、悟空が始めようとした時、悟飯が呼び止めた。
「あ!お父さん!その前に!」
「ん?なんだ?」
「もし、もしですよ。採用されてモデルになったら、広告で雑誌とか、ネットとかに載ると思うんです。その時に…例えば、お父さんの野菜を卸してるお店の人とか、市場の人とか…そういう人がたまたま見たとしたら、色々訊いてくると思うんですよ。なので、いちいちイジられるのが面倒だったら、変装したらどうかと思って。」
「変装って…おめぇのサイヤマンみたいなヤツか?あれ、勘弁してくれ(笑)」
流石の悟空でも、あの格好をするのは無理な相談だった。
悟空にまでそう言われて、悟飯はちょっとムキになってしまった。
「何言ってるんですか!あんなにイケてる変装ないですよ!って、いや…あれじゃ、姿が見えないからモデルなんて出来ないじゃないですか。」
「え~じゃ、どうすんだよ?カツラ被って、ヒゲ付けたりとかか?」
「違います。もっと簡単な方法があるじゃないですか。スーパーサイヤンになるんですよ!」
「あ!なるほど!」
「スーパーサイヤンなら、仲間内だけしか知らないですからね。名前も、『カカロット』で良いんじゃないですか?」
「そうだな!よし!それで行こう!」
それから何日かして、悟飯がわざわざ実家へと、報告をしに来てくれた。
嬉しそうに、スマホを持ったまま、その腕を上げて振りながら走ってくる。
「お父さん!お父さん!」
「ん?どうした?悟飯。」
「この間応募したモデルのバイト、採用されましたよ!!」
「マジか!」
「はい!もしかしたら、オーディションかもしれませんけど、撮影の日時と場所が送信されてきました。お父さん、頑張って!」
「よっしゃ!いっちょ、やってみっか!」
やる気満々で、当日、自宅から悟飯の家へ寄って、バイト(の面接?)に行った悟空。
終わって、一度自宅に帰ってから悟飯の家へと向かった。ちょっと恨めしそうな顔をして。
「おい、ごは~ん。」
「お父さん、お帰りなさい。どうでした?」
「おめぇ、服のモデルって言ったよな?」
「はい。違ったんですか?」
「パンツだったぞ。」
「え?パンツなら服じゃないですか。」
「そっちのパンツじゃねぇよ。そのまんま、パンツだよ!」
「?そのまんまパンツ? 何ですかそれ? そのまんま……………って、ぱ、パンツですか!?」
「パンツはパンツだよ!」
話が違うじゃないか、と言いたげな悟空の声に、悟飯は自分の読みが浅かった事に気付き、しまった!…と思った。
「…!そうか!アンダーウェア!だから『筋肉』だったんだ!…そりゃ、細いだけのモデルより、多少マッチョな方がカッコ良く見えるよね…。」
「何人か来てたけど、正式に採用されたんは、オラともう1人だけだったぞ。ほら、これが今日撮ったサンプルの写真。」
そう言って、ポンッとテーブルの上に投げた。
写真が、悟飯の前に滑ってくる。手に取って見て、悟飯は目を丸くした。
「! (え!これお父さん!?めっちゃカッコ良く撮ってもらってる…流石プロのカメラマン)」
「次からが本番で、新作のパンツの撮影が何回かあるってさ。」
服のモデルではなかったが、悟空も満更ではなさそうだった。
実際、写真を見て、悟飯は素直にカッコイイと思ったのだから。
「凄いじゃないですか!…あ、でも、下着のモデルだったって、お母さん知ったら怒るかな…?」
「いや。チチにも見せたけど、良いじゃねぇかってさ。カッコ良くいっぱい撮ってもらえって。おめぇの言う通り、変装したのが良かったんかもな。オラだってバレねぇからさ。」
「そ、そうですか。でも、凄いですね。モデルデビューですよ、お父さん。」
「何回か撮るだけだぞ。オラ、ずっとモデルなんてやんねぇからな。」
「ははっ 次、頑張って下さいね。カカロットさん。」
「何言ってんだ。オラは悟空だ。」
そして…
何度か撮影をこなし、写真を撮られるのにも慣れてきた頃…
スタジオで、悟空はスタッフの1人と話していた。
「来てねぇのか?」
「はい。来る途中で事故に巻き込まれたみたいで…。」
「事故って…大丈夫なんか?」
「はい。巻き込まれただけで、怪我も無いらしいんですが、直ぐには来れないようなんです。すみません、カカロットさん。今、代わりのモデルを探してますから。」
「分かった。オラの事は気にしなくていいから。」
もう1人のモデルが、スタジオに来る途中で事故に巻き込まれ、来れなくなったようだ。
急ぎ、代わりのモデルを探しているのだが、なかなか代わりが見つからなくて、スタッフがバタバタワラワラ。
その様子を見ていた悟空。
「…代わりねぇ…!そうだ!」
シュン
「あれ?お父さん。今日は撮影じゃなかったですか?」
毎回、恒例になってるようで、撮影の日は、必ず悟飯に会ってから向かうようにしていた悟空。
今日も悟飯に会ってからスタジオへ向かっていた。
「おめぇさ、今日、休みって言ってたよな?」
「はい。」
「今でもスーパーサイヤンになれっか?」
「?なれますけど?」
「なってみてくれ」
「え?なんで…」
「なってみろ。」
「…?…わ、分かりました。」
急に言われて疑問に思ったが、悟空の語気が有無を言わせぬものだったので、悟飯は言われた通り、気を込めた。
「これで、良いですか?」
スーパーサイヤンへと変わった悟飯を見て、悟空は満足げに首を縦に振った。
「よしよし…おっと!ダメだダメだ!そのまんまな。」
スーパーサイヤンを解こうとした瞬間、悟空に制され、肩を掴まれた。
「どうしたんですか?急に…」
「じゃ、行こう!」
「は?」
シュン
「おい!代わり連れてきたぞ!コイツどうだ?」
スタッフの1人が、よく分からない状況で現れた悟空を見て、不思議そうに言った。
「え…?今、どこから…?カカロットさん。」
「コイツ、代わりに出来ねぇか?」
「代わりって何…??おと…」
よく分からない状況に、悟飯も悟空に訊こうとした、途端、悟空が口を挟んだ。
「コイツ、オラの弟なんだ。代わり見つかんねぇんなら、コイツじゃダメかな?」
そう聞いて、悟飯は思いっきり疑問の声を上げた。
「はあ?!弟って?!」
すると、少し離れた所から、この場の責任者であろう人が、こちらへ向かいながら訪ねた。
「カカロットさんの弟さん?…本当…良く似てるね。もしかして双子?」
悟飯をまじまじと見てそう言った。
「そ、だから、コイツの名前…え…と……コ、コロットって言うんだ!」
「(はああああぁ???)」
それを聞いて、悟飯は眉間にシワを寄せ、思いっきり心の中でツッコんだ。
「カカロットにココロット…うん…面白いね。ココロットさんの方が、ちょっと細いかな?」
「ああ、でもガリガリじゃねぇから。」
「うん。ビジュアルも良いし、兄弟っていうのも良いね…しかも双子。…ココロットさん、代役、お願いしても良いですか?」
そう言われても悟飯には何の事か分からず、答えようがなかった。
「え…僕…何の事か…」
「あ、大丈夫!コイツ、ちゃんとやれっから。」
透かさず悟空がフォローする。
「良かったー。もう無理かと思ったよ。よろしくね、ココロットさん。カカロットさんも、一緒に楽屋で着替えてきてくれる?」
「OK!」
楽屋に入るなり、悟飯は悟空に食って掛かった。
「OK……じゃないですよ!どういう事ですかっ!!」
「まあまあ…んなカッカすんなって。」
「な、なんなんですか!な……なんなんですか!?」
状況が飲み込めず、悟飯は混乱した。
「うん、モデルが1人、来れなくなっちまって、代役も見つかんなくてさ。何か、色々あるみてぇで、撮影伸ばせねぇんだって。だから…」
「だから…って、何で僕が!ちゃんとプロのモデルさんが見つかったかもしれないじゃないですか!」
「オラだってプロじゃねぇぞ?」
「だって、おと」
「おっと、今は、それナシな。」
「…っ……。(それもですよ!確かに、兄弟に間違えられる事はあるけど、双子!双子!?僕はお父さんと同い年ですかっ!)」
黙り込み、心で刃向かい、むくれて悟空を睨む悟飯。
そんな事など気に止めない悟空。
「言ってみろ、ベジータみてぇにさ。次な。おめぇ、頭良いから分かってんだろ?」
「……分かりません…。」
「んな、怖ぇ顔してねぇで。2になっちまいそうだぞ?ほら、おめぇも着ろ。そこにあんだろ、あれがおめぇの着るパンツだ。サイズは自分で分かんだろ?」
「…納得出来ません…けど、やらなきゃいけないのは分かりました。でも…僕…。」
分かってはいるけど、なかなか踏ん切りがつかない悟飯。
「なんだよ、恥ずかしいんか?」
言われて顔が赤くなる。
「恥ずかしいに決まってんでしょ!パンツですよ、パンツ!下着姿を見られるんですよ!普段見せない所を、白日のもとに晒すんですよ!」
「じゃあ、おめぇ、Tシャツ着てろ。オラから頼んどくからさ。」
「Tシャツじゃ、股間隠れないでしょ!」
「じゃあ、オラみてぇに、上も裸でやるか?」
「う゛……着ます…。」
観念した悟飯は、着替えも終わり、生まれて初めてのモデルの経験をする事になった。
悟空のお陰でTシャツは着たままでよくなったが、パンツがTシャツで隠れてしまっては宣伝にならないので、パンツ全体が見えるようにと条件付きで。
悟飯が最初からしていた眼鏡は、小道具として そのまま使う事になった。
今日は休日、孫一家が悟飯の家へ、孫娘に会いに、遊びに来ていた。
ゆったりとした午後のひと時。女性陣+悟天は、近くのショッピングモールへ買い物がてら遊びに、残された悟空と悟飯は、久しぶりの静かな時間を過ごしていた。
悟飯は、やり残した仕事があるからと、一旦、書斎へ向かい、悟空はリビングのソファーに座り、自分のスマホを自宅に忘れてきた為に、悟飯から借りたタブレットを眺めながら、何やら探しているようだった。
そこへ、仕事を終えた悟飯がきて、悟空がタブレットを片手に、眉間にシワを寄せて首を捻っている、何とも奇妙な場面に遭遇し、不思議そうにそう言った。
その声に、悟空はタブレットから目を離さず答えた。
「ん?いや、ほら、今、畑、何も仕事ねぇだろ?その間、なんかオラでも出来そうな仕事、ねぇかなぁ…と思ってさ。」
「お父さん、偉い!お母さんが聞いたら喜びますよ!じゃあ、僕も一緒に探しますよ。」
「サンキュ!」
悟飯は悟空の隣に座り、自分のスマホで検索し始めた。
静かな時間が流れて行く。2人は無言で、何か良いバイトはないかと、探していた。
そこへ、悟飯が声を上げた。
「あ、これなんてどうです?”筋肉求む!”ってあります。」
「何だ?力仕事か?」
悟空が横から悟飯のスマホを覗き込んだ。
「いえ…これ、有名なアパレルメーカーですよ。モデル募集だそうです。えーっと…何々…”あなたの筋肉自慢な画像を添付して、こちらまでお送り下さい。あなたを私達は待っています!” そんなにガタイの良いモデルを探してるんですかね?有名なブランドなんで、ちゃんとしたモデルのバイトだと思いますけど。」
「ふ~ん、筋肉ねぇ…。」
「何でそこまで筋肉を前面に出しているんでしょう?」
「モデルって何やんだ?」
「ファッションブランドだから、服を着て写真撮るだけだと思います。」
それを聞いて、悟空の顔がパッと明るくなった。
「そんだけで良いんか!なら直ぐ終わるな!修行やれんな!」
「ははっ楽な仕事なんて無いと思いますよ。でも、お父さん、見た目も若いし、スタイルもいいんで、モデル、出来そうですけどね。」
滅多にこんな事を言わない悟飯にそう言われ、気を良くした悟空が、素直に嬉しそうに言った。
「おっ!おめぇが、そんなに誉めるなんてな!オラそんなイケてんのか!」
「いや、客観的に見た感想を述べただけです。」
喜ぶ悟空とは対照的に、無表情で抑揚のない平板な声で悟飯はそう言った。
「んな事言って~。おめぇ、本当はそう思ってんだろ?『お父さん、カッコイイ!』って。」
「はあ?何言ってんですか。で、どうします?採用されるかは分かりませんけど、送ります?」
全く取り合ってくれない悟飯に寂しさを覚えながら、何故、ツッコんでくれないんだろうと、もうボケるのはやめとこうと思った。
「ったく、素直じゃねぇなぁ…。そうだな…筋肉なら自信あっぞ!」
と、力こぶを作ってみせる。
「じゃあ、丁度、今、ピチピチのTシャツ着てるんで、その、お父さんのカッコイイポーズで写真、撮りましょうか。」
悟飯がそう言うなり、ソファーから立ち上がった悟空は、カッコイイポーズをとりはじめた。結構やる気満々だ。
「よし!こんなんで良いか!」
「…いや…確かに筋肉は強調されますけど、ボディービルダーじゃないんですから…もっと普通のポージングでお願いします。」
「普通ってどうやんだ?」
「分かりました。ポーズはもういいですから、自然体で行きましょう。」
「自然体って?」
「…う~ん…確かに難しいですよね…。そうですね、お父さんの自然体と言ったら、やっぱり武道の型…ですかね。いつも修行してる時みたいに、ちょっとだけ、体動かして下さい。適当に撮ってますから。くれぐれも、控え目にお願いしますね。」
「ぅおっしゃ!そんならまかせろっ!!」
「じゃあ、庭へ行きましょう。」
庭へ出てから、悟空が始めようとした時、悟飯が呼び止めた。
「あ!お父さん!その前に!」
「ん?なんだ?」
「もし、もしですよ。採用されてモデルになったら、広告で雑誌とか、ネットとかに載ると思うんです。その時に…例えば、お父さんの野菜を卸してるお店の人とか、市場の人とか…そういう人がたまたま見たとしたら、色々訊いてくると思うんですよ。なので、いちいちイジられるのが面倒だったら、変装したらどうかと思って。」
「変装って…おめぇのサイヤマンみたいなヤツか?あれ、勘弁してくれ(笑)」
流石の悟空でも、あの格好をするのは無理な相談だった。
悟空にまでそう言われて、悟飯はちょっとムキになってしまった。
「何言ってるんですか!あんなにイケてる変装ないですよ!って、いや…あれじゃ、姿が見えないからモデルなんて出来ないじゃないですか。」
「え~じゃ、どうすんだよ?カツラ被って、ヒゲ付けたりとかか?」
「違います。もっと簡単な方法があるじゃないですか。スーパーサイヤンになるんですよ!」
「あ!なるほど!」
「スーパーサイヤンなら、仲間内だけしか知らないですからね。名前も、『カカロット』で良いんじゃないですか?」
「そうだな!よし!それで行こう!」
それから何日かして、悟飯がわざわざ実家へと、報告をしに来てくれた。
嬉しそうに、スマホを持ったまま、その腕を上げて振りながら走ってくる。
「お父さん!お父さん!」
「ん?どうした?悟飯。」
「この間応募したモデルのバイト、採用されましたよ!!」
「マジか!」
「はい!もしかしたら、オーディションかもしれませんけど、撮影の日時と場所が送信されてきました。お父さん、頑張って!」
「よっしゃ!いっちょ、やってみっか!」
やる気満々で、当日、自宅から悟飯の家へ寄って、バイト(の面接?)に行った悟空。
終わって、一度自宅に帰ってから悟飯の家へと向かった。ちょっと恨めしそうな顔をして。
「おい、ごは~ん。」
「お父さん、お帰りなさい。どうでした?」
「おめぇ、服のモデルって言ったよな?」
「はい。違ったんですか?」
「パンツだったぞ。」
「え?パンツなら服じゃないですか。」
「そっちのパンツじゃねぇよ。そのまんま、パンツだよ!」
「?そのまんまパンツ? 何ですかそれ? そのまんま……………って、ぱ、パンツですか!?」
「パンツはパンツだよ!」
話が違うじゃないか、と言いたげな悟空の声に、悟飯は自分の読みが浅かった事に気付き、しまった!…と思った。
「…!そうか!アンダーウェア!だから『筋肉』だったんだ!…そりゃ、細いだけのモデルより、多少マッチョな方がカッコ良く見えるよね…。」
「何人か来てたけど、正式に採用されたんは、オラともう1人だけだったぞ。ほら、これが今日撮ったサンプルの写真。」
そう言って、ポンッとテーブルの上に投げた。
写真が、悟飯の前に滑ってくる。手に取って見て、悟飯は目を丸くした。
「! (え!これお父さん!?めっちゃカッコ良く撮ってもらってる…流石プロのカメラマン)」
「次からが本番で、新作のパンツの撮影が何回かあるってさ。」
服のモデルではなかったが、悟空も満更ではなさそうだった。
実際、写真を見て、悟飯は素直にカッコイイと思ったのだから。
「凄いじゃないですか!…あ、でも、下着のモデルだったって、お母さん知ったら怒るかな…?」
「いや。チチにも見せたけど、良いじゃねぇかってさ。カッコ良くいっぱい撮ってもらえって。おめぇの言う通り、変装したのが良かったんかもな。オラだってバレねぇからさ。」
「そ、そうですか。でも、凄いですね。モデルデビューですよ、お父さん。」
「何回か撮るだけだぞ。オラ、ずっとモデルなんてやんねぇからな。」
「ははっ 次、頑張って下さいね。カカロットさん。」
「何言ってんだ。オラは悟空だ。」
そして…
何度か撮影をこなし、写真を撮られるのにも慣れてきた頃…
スタジオで、悟空はスタッフの1人と話していた。
「来てねぇのか?」
「はい。来る途中で事故に巻き込まれたみたいで…。」
「事故って…大丈夫なんか?」
「はい。巻き込まれただけで、怪我も無いらしいんですが、直ぐには来れないようなんです。すみません、カカロットさん。今、代わりのモデルを探してますから。」
「分かった。オラの事は気にしなくていいから。」
もう1人のモデルが、スタジオに来る途中で事故に巻き込まれ、来れなくなったようだ。
急ぎ、代わりのモデルを探しているのだが、なかなか代わりが見つからなくて、スタッフがバタバタワラワラ。
その様子を見ていた悟空。
「…代わりねぇ…!そうだ!」
シュン
「あれ?お父さん。今日は撮影じゃなかったですか?」
毎回、恒例になってるようで、撮影の日は、必ず悟飯に会ってから向かうようにしていた悟空。
今日も悟飯に会ってからスタジオへ向かっていた。
「おめぇさ、今日、休みって言ってたよな?」
「はい。」
「今でもスーパーサイヤンになれっか?」
「?なれますけど?」
「なってみてくれ」
「え?なんで…」
「なってみろ。」
「…?…わ、分かりました。」
急に言われて疑問に思ったが、悟空の語気が有無を言わせぬものだったので、悟飯は言われた通り、気を込めた。
「これで、良いですか?」
スーパーサイヤンへと変わった悟飯を見て、悟空は満足げに首を縦に振った。
「よしよし…おっと!ダメだダメだ!そのまんまな。」
スーパーサイヤンを解こうとした瞬間、悟空に制され、肩を掴まれた。
「どうしたんですか?急に…」
「じゃ、行こう!」
「は?」
シュン
「おい!代わり連れてきたぞ!コイツどうだ?」
スタッフの1人が、よく分からない状況で現れた悟空を見て、不思議そうに言った。
「え…?今、どこから…?カカロットさん。」
「コイツ、代わりに出来ねぇか?」
「代わりって何…??おと…」
よく分からない状況に、悟飯も悟空に訊こうとした、途端、悟空が口を挟んだ。
「コイツ、オラの弟なんだ。代わり見つかんねぇんなら、コイツじゃダメかな?」
そう聞いて、悟飯は思いっきり疑問の声を上げた。
「はあ?!弟って?!」
すると、少し離れた所から、この場の責任者であろう人が、こちらへ向かいながら訪ねた。
「カカロットさんの弟さん?…本当…良く似てるね。もしかして双子?」
悟飯をまじまじと見てそう言った。
「そ、だから、コイツの名前…え…と……コ、コロットって言うんだ!」
「(はああああぁ???)」
それを聞いて、悟飯は眉間にシワを寄せ、思いっきり心の中でツッコんだ。
「カカロットにココロット…うん…面白いね。ココロットさんの方が、ちょっと細いかな?」
「ああ、でもガリガリじゃねぇから。」
「うん。ビジュアルも良いし、兄弟っていうのも良いね…しかも双子。…ココロットさん、代役、お願いしても良いですか?」
そう言われても悟飯には何の事か分からず、答えようがなかった。
「え…僕…何の事か…」
「あ、大丈夫!コイツ、ちゃんとやれっから。」
透かさず悟空がフォローする。
「良かったー。もう無理かと思ったよ。よろしくね、ココロットさん。カカロットさんも、一緒に楽屋で着替えてきてくれる?」
「OK!」
楽屋に入るなり、悟飯は悟空に食って掛かった。
「OK……じゃないですよ!どういう事ですかっ!!」
「まあまあ…んなカッカすんなって。」
「な、なんなんですか!な……なんなんですか!?」
状況が飲み込めず、悟飯は混乱した。
「うん、モデルが1人、来れなくなっちまって、代役も見つかんなくてさ。何か、色々あるみてぇで、撮影伸ばせねぇんだって。だから…」
「だから…って、何で僕が!ちゃんとプロのモデルさんが見つかったかもしれないじゃないですか!」
「オラだってプロじゃねぇぞ?」
「だって、おと」
「おっと、今は、それナシな。」
「…っ……。(それもですよ!確かに、兄弟に間違えられる事はあるけど、双子!双子!?僕はお父さんと同い年ですかっ!)」
黙り込み、心で刃向かい、むくれて悟空を睨む悟飯。
そんな事など気に止めない悟空。
「言ってみろ、ベジータみてぇにさ。次な。おめぇ、頭良いから分かってんだろ?」
「……分かりません…。」
「んな、怖ぇ顔してねぇで。2になっちまいそうだぞ?ほら、おめぇも着ろ。そこにあんだろ、あれがおめぇの着るパンツだ。サイズは自分で分かんだろ?」
「…納得出来ません…けど、やらなきゃいけないのは分かりました。でも…僕…。」
分かってはいるけど、なかなか踏ん切りがつかない悟飯。
「なんだよ、恥ずかしいんか?」
言われて顔が赤くなる。
「恥ずかしいに決まってんでしょ!パンツですよ、パンツ!下着姿を見られるんですよ!普段見せない所を、白日のもとに晒すんですよ!」
「じゃあ、おめぇ、Tシャツ着てろ。オラから頼んどくからさ。」
「Tシャツじゃ、股間隠れないでしょ!」
「じゃあ、オラみてぇに、上も裸でやるか?」
「う゛……着ます…。」
観念した悟飯は、着替えも終わり、生まれて初めてのモデルの経験をする事になった。
悟空のお陰でTシャツは着たままでよくなったが、パンツがTシャツで隠れてしまっては宣伝にならないので、パンツ全体が見えるようにと条件付きで。
悟飯が最初からしていた眼鏡は、小道具として そのまま使う事になった。