《A quided haert /導く心-後編-》



悟飯さんは、その贈り物を、大事そうに包むと、机に置きました。

悟空さんも、安堵しているようです。
悟飯さんを見る瞳は、やはり、愛しさで溢れています。

私は、事の成り行きを見守りました。

悟空さんが…このまま、想いを伝えるのかと…

しかし、口を開いたのは、悟飯さんの方でした。


” …お父さん、僕と少し、話しをしませんか? ”















” …お父さん、僕と少し、話しをしませんか? ”


私は驚きを隠せませんでした。
まさか、悟飯さんの方から言ってこられるなんて…。
ですが、悟飯さんを見ると、悟飯さんも、決意を固めておられるようでした。

思ってもみなかった言葉に、悟空さんは動揺されています。


” あ、あぁ…なんだ? ”

“ そこへ座って下さい。 ”


悟飯さんの様子に、悟空さんも腹を決めたようです。


” …聞きてぇ事が、…あんだな? ”

” はい。 ”


やっと、話の場が持たれたというのに…なぜか、不穏な空気を感じずにはいられません。
ただの 思い過ごしだといいのですが…。


” …どうして、家を出たんですか? ”


悟飯さんが、今まで『どうして?』と思い悩んでいた事を訊くおつもりです。

悟空さんは、少し、躊躇して話し始めました。

” …おめぇも、気付いてるかもしんねぇけど…
オラが生き返ってから…おめぇに、…普通、しねぇような事、いっぺぇ やってきた。

…おめぇと 一緒に居たくて…おめぇに、…触りたくて…。
おめぇが、嫌がんねぇ事を、いいことに…。

…3ヶ月前の あん時…おめぇに、…あんなとこ 見せちまって…最低だって、自分で思った。

気持ち…悪ぃよな…本当に、すまねぇ…。

おめぇに、イヤな思いばっか させちまって…。
今年は、おめぇが受験で大変な年だって 知ってんのにさ…。

だから、自分のこの気持ちにも、ケジメつけなきゃなんねぇと思ったんだ…。

このままじゃ、おめぇの為になんねぇ…だから、精神を鍛える為に、家を出
た。 ”

3ヶ月前?…悟空さんが界王神界に来られたのも それぐらいでした。
3ヶ月前に、お2人の間で何があったのでしょう?
悟空さんは 一体何を 悟飯さんに見せたのでしょう?
もしや その事がきっかけで、このような事態になってしまわれたと…?

悟空さんの決意の告白は、悟飯さんの耳に 届かないのでしょうか…。
今の悟飯さんには、悟空さんが 今まで何をしてきて、何を見せたか よりも、家を出た事自体に 憤りを感じているようです。


” 精神を?…そう言えば、お父さんがどこに居るか分からなくて、心配してた時、界王神様から連絡が来たんですよ。…もしかして、お父さん、界王神界に? ”


私が悟飯さんに連絡していたことに、悟空さんは少し驚いているようでした。
すみません…悟飯さんの様子を見て、黙っておれず、話してしまったのです。


” …ああ。 ”
” 精神を鍛えるんなら、神殿でも良かったんじゃ?お父さんは何も言わないで行っちゃうし、いつ帰ってくるかも分からないから、悟天が凄く寂しそうだったんですよ。 ”
悟飯さんは やはり、怒っておいでのようでした。
黙っていなくなったのですから、当然でしょう。
小さな悟天さんに至っては、また 会えなくなるのでは?と、恐怖を抱いたのではないでしょうか。


” それは、すまなかったと思ってる。でも、神殿じゃダメなんだ。ピッコロや、デンデ、Mr.ポポは気が知れてっから、どっかに甘えが出ちまうかもしんねぇ。それに…おめぇと近すぎる。自分を戒める為には、もっと遠くじゃなきゃなんねぇ。だから、界王神界に行ったんだ。 ”

” そう…だったんですね… ”


暫く間を置いて、悟飯さんは悟空さんを見て言いました。


” …だから…ですか?帰ってきてから、僕に対してだけ、態度が違うのは。 ”


思い過ごしではなく、不穏な空気が漂い始めました。
私は思わず、声を上げていました。

「違うでしょう、悟飯さん!あなたが訊きたいのは、そんなことじゃないはず!」



” …おめぇも、じゃ、ねぇんか?部屋に籠もってんのは、受験勉強なんかじゃなく、オラが居るから…。 ”

” ………。 ”


売り言葉に買い言葉です。今のこの状態に対して、お2人の言葉は、否定的にしか聞こえません。
お互いに『嫌いだからでしょう?』と言っているような物です。

そして、悟空さんが、言ってしまわれたのです。決定的な事を…。


” ………オラは…おめぇの傍に、いねぇ方が…いいのかも…な…。 ”


「!なぜ!?本心でも無いことを!」

私は耳を疑いました。

そして、悟飯さんまでもが…。


” …そ…う、かも…しれませんね…。 ”


絶望が、私を貫きました。

「なぜ!?なぜなんですか!お2人共、どうして本当の事を言わないのです?
どうして素直になれないのですか!!」

私は悔しさに歯を食いしばり、その場で拳を地面に叩きつけました。
こんな事ってありますか?こんな事って…


悟空さんが、今にも倒れそうな面持ちで、部屋から出て行こうとしました。

もう終わりだ…と思った時、悟飯さんが呼び止めたのです。


” …また…黙って出て行くんですか? ”


悟空さんは立ち止まりました。


” …どうしてです?どうして、お父さんは、いつも、勝手に行っちゃうんですか?まだ、何も終わってないのに…。 ”


「悟飯さん…。」

私には、一条の光が差し込んでいるように見えました。
悟飯さんが、想いの丈をぶつけようとしているのが分かったからです!
さっき私は、もう終わりだ…と思いました。
ですが悟飯さんは、まだ、何も終わってない…と仰いました!

私の心臓が、早鐘のように打っています。
どうか、どうか…このお2人を、苦悩の輪から救って下さい…。

悟飯さんが、椅子から立ち上がり、震える声で、悟空さんの背中に語りかけました。

” どうして…お父さんは…家を出る前、どうして、あんなに、僕に…過剰な程、触れてたんですか?
…居なくなる、前の日、どうして、ベッドの上で、僕の名を、呼んでたんですか?
…なのに、帰ってきてから…どうして、僕…を…触ってくれないんです?…前みたいに、どうして、して、くれないんですか?

…お父さんは…もう、僕が、嫌い、なの? ”



” …悟、飯…? ”




悟空さんが振り向いて、戸惑いの眼差しで、悟飯さんを見ています。


” 僕は、一度だって、気持ち悪い…なんて、思った事ないのに…こんなに…こんなにお父さんを、想ってるのに、こんなに好きなのに、どうしてー ”


悟飯さんはそう言うと、口を噤みました。

今、悟飯さんの心に、葛藤が生じています。
今までの事と、記憶を照らし合わせ、この感情が何であるのかを、探しています。
悟飯さんが今言った、『好き』の意味を。

「悟飯さん、変に勘ぐらなくて良いんです。倫理観などに振り回されないで。正直な気持ちで、素直な心で。」

すると、悟飯さんは、この感情が何であるのかを探し当てました。


ようやく、分かったのです。

そしてそれを、受け入れたのです。


” そ…う…僕、は、お父さんが、好き、だったんだ…もう、ずっと、前…から "


顔を上げた悟飯さんの目から、大粒の涙が一筋、頬を伝って流れていきました。
この想いを受け入れた証しのようでした。
そして、決意を込めた目で、悟空さんに告白したのです。


” 僕は、…あなたが、好き、なん…だ。だか、ら…っ…こんなっ…に、苦し…かっ…… ”


「…やった!悟飯さん!言った!!」

悟飯さん、あなたは大した物です!よくぞ、よくぞ 今、お分かりになりました!!

私は歓喜に震えました。

悟空さん!聞きましたか?これが、悟飯さんの真の心です!


悟飯さんは、今まで押し込んでいた想いが、決壊して 溢れているように、涙を流されていました。
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