《A quided haert /導かれる心-後編-》



「…愛してる…。お、父…さんっ…愛して…ます。」


オラの目にも、涙が浮かんだ。


「!…悟飯…悟飯!っ悟飯!!」


抱き締めた悟飯の躯に、自分の躯を擦り寄せ、愛しい名を呼んだ。


何度も…何度も…。


なんてこった…悟飯…おめぇに、言わせちまうなんて!

オラは なんて臆病者なんだ!
おめぇを、失いたくなくて…失うのが怖くて、ずっと、言えなかったんだ!

遠回りし過ぎだ…。
そのせいで、おめぇを、こんなに苦しめちまった!

すまねぇ…すまねぇ…悟飯!!


愛しさが、心から、躯中から溢れ出す。

今まで、怖くて言えずに、仕舞い込んでいた言葉を揺り起こし、心の奥底から力いっぱい叫んだ。


「…オラもだ!オラもっ…愛してっぞ!!」


「お父、さん…っ…お父さん!」


オラから離れない…とでもいうように、背中に回った腕に 力が籠もった。


…オラもだ。

オラも、おめぇを離さねぇ。


「悟飯…本当に、良いんだな…。オラ、ぜってぇ離さねぇぞ!
ぜってぇ、誰にも、渡さねぇかんな!」


おめぇは、『オラの悟飯』だ。

もう二度と、離したりしねぇ。



悟飯の耳元で、オラの決意を言った。

そして、唇で耳朶に触れた。

悟飯に触れる何もかもが、愛おしい…。

そのまま、頬に唇を寄せる。額と額を、鼻と鼻を擦る寄せた。


そして、唇にー。





「兄ちゃーん!お父さーん?ただいまー!」


その声に、夢の中を漂っていたかのような状態から、オラ達は現実の世界に引き戻された。

悟天の気が、どんどん近付いてくる。
帰って来たのに全然気付かなかった。

直ぐにドアを開け入ってきそうな悟天の気配に、オラは涙を拭いて、悟飯から 離れざるを得なかった。

目は、悟飯の目を見て、手は、届かなくなるギリギリまで握ったまま。

オラの為に流した涙で グチャグチャになった、可愛い悟飯の顔を見て、愛しさが、どんどん どんどん 溢れ出てくる。知らず知らず、笑顔も溢れてくる。

そして、オラは 部屋を出た。


出た途端、オラを見つけた悟天が、興奮気味に走ってきた。
腕に、自分と同じ丈の、くまのぬいぐるみを抱えて、自慢気に差し出した。

「お父さん!見て見て!これ!」

「おっ!どうしたんだ、それ?でっけーぬいぐるみだなぁ。」

「ゲームで取ったんだよ!」

「悟天がか?」

すると、ちょっと拗ねたように呟いた。

「…トランクス君が…。」

「ははっ。で、何でおめぇが持ってんだ?」

今度は、見上げた目をキラキラさせて、さも嬉しそうに言う。

「トランクス君がね、あげるって!くれたの!」

悟天のその様子に、オラも釣られて嬉しくなった。

「そっか!良かったな。楽しかったか?」

「うん!あのね、すごいんだよ!おかしもアイスもいっぱいあってね、どんだけ食べてもいいんだよ!ぼく、おなかいっぱいになっちゃった!
お父さんも、ぼくがあげたアイス食べた?ちゃんと、兄ちゃんと半分こした?」

そう言われて、しまった…と思った。
色々あって、忘れちまってた…。せっかく悟天がくれたってぇのに。

「…悪ぃ、まだ食ってねぇんだ。」

「え~せっかくあげたのに~。」

だよなぁ…。むくれちまった。
あ、いいこと思いついた!

「そうだ、後で皆で分けて食うか!4人でさ。」

それを聞いて、悟天が笑った。

「いいね!」

すると、チチが透かさずダメ出ししてきた。

「悟天、おめぇは今日食い過ぎだ。腹が痛くなっちまうぞ。父さんと兄ちゃんにあげたんなら、2人に食ってもらえ。また買ってくっから。」

チチに言われ、残念そうだったけど、すんなり聞き入れた。
そんなに食ってきたんか…いいな…オラも食いてぇ。

「…はーい。あ、お父さん、兄ちゃんに渡してくれた?」

例の紙包みの事を訊かれ、悟飯がどんだけ喜んでたかを教えた。

「ああ、兄ちゃん、すげぇ喜んでたぞ!多分、テストが終わったら、悟天と一緒に、森に行くんじゃねぇかな!」

悟天の顔が、みるみる輝いていった。
どんだけ悟天が、悟飯を待ってたのかが分かる。
たった2週間程度…といっても、子供にとっては 長い長い時間だっただろう。

「ほんと!?やったぁ!お父さん、ありがと!」

礼を言われて、思った。悟天のお陰だって。

オラと悟飯が 向き合って話ができたのは、悟天の、あの 秋を入れた、小せぇ紙包みがあったからだ。
それだけじゃねぇ‥オラと悟飯の、いつ 出てこれるかも分かんねぇ 苦悩の迷宮からも、救い出してくれた。

悟天、おめぇは、オラ達の天使で、キューピッドだな。


悟天に目線を合わせ、しゃがんで、頭を撫でた。


「…悟天、父さんこそ、ありがとう。」

「?」

いつになく、真剣なオラを、不思議そうに見ていた。
そこへ、詫びながら、チチが台所から出てきた。

「悟空さ、済まねえな、遅くなっちまって。」

「いいんだよ。おめぇ達が楽しかったんならさ。」

「腹減っただろ?ブルマさんが気い利かせて、ここに、うめえもん、たーんと入れてくれたで、用意すっから、待っててけれな。」

そう言って、ホイポイカプセルを出した。
急に空腹感が襲ってきて、オラは声を上げた。

「うひょー!さっすがブルマ!オラ、今日は目いっぺぇ食うぞー!!な!悟天!」

悟天に同意を求めて、そのまま、ぬいぐるみと一緒に抱え上げてぐるぐる回った。

「わぁ!お父さん!くまさんが吹っ飛んじゃうよ!降ろして~ははっあはは!」

あまりのはしゃぎように、チチはオラ達じゃなく、家の心配をした。

「こらこら!家ん中で危ねえべ。家具が壊れちまう。」

「ははは!」

叱りながらも笑顔でオラを見ていたチチが、ふと言った。

「悟空さ、何か良いことあったべ?」

「ん?」

オラは、悟天を抱っこしたまま、立ち止まって、チチを見た。

「すげえ元気になっただな。」

いつも通りにしてたつもりだったのに…。

「…チチ…。」

「それでこそ悟空さだ。」

チチの優しさに、家族のあたたかさに、オラの胸もあったかくなった。

” 大事なのは、家族と一緒に居る事 ”

チチの言った言葉が蘇る。

「…ありがとな、チチ。オラ、皆と一緒に居られんのが一番嬉しいんだ!」

悟天と一緒に、思い切りチチを抱き締めた。

「わ!本当にどうしただ、悟空さ!飯の仕度できねえべ!」

「お父さん 苦しいよぉ~。」

「はははは!」

笑った。

心の底から。

嬉しくて。

久しぶりだった。


ーーー
ーー



雨の音が戻ってきた。

オラに、色が戻ってきた。




” なぁ…聞こえるか…悟飯。

何があっても、オラは、おめぇを護る。

おめぇを、ひとりにはさせねぇ。

ぜってぇだ。

死ぬまで、ずっと一緒だ。

いや…死んでもだ…。



落ち着いたら、おめぇも来い。

オラ達に、おめぇの笑った顔を見せてくれ。

…待ってっぞ…。


なぁ…聞こえるか?悟飯…。

聞こえたら、返事してくれ…。



…愛してる…悟飯。”





― A guided heart ―  終








” …あの~…悟空さん…こっちに、だだ洩れなんですけど…。 ”

「!いぃッ!?」

「?どうしただ?悟空さ。」

「…いや…あ、はは…。」

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