《A quided haert /導かれる心-後編-》
オラが帰ってきて、10日以上が経った。
オラ
悟飯は…相変わらずだ…。
オラはといえば…オラも相変わらずだった。
悟飯を想う気持ちは変わんねぇ。
でも、もう表へ出すことはねぇだろう…。
界王神様には、オラらしく…偽るなって言われたけど…。
悟飯のあの様子を見て、正直である事の難しさを知った。
無理だ…どうやったって、今は……。
悟天も、大好きな兄ちゃんの様子がおかしい事に、哀しんでる。
今日はトランクス達と遊びに行くんだって、何日も前から楽しみにしてたのに…。
リビングでトランクス達を待ちながら、浮かねぇ顔してる。
「…兄ちゃん、どうしたんだろ…最近、ずっと部屋にいるね。」
「そうだな。…もう直ぐ 大事なテストがあっから、その勉強しなきゃいけねぇんだよ。そのテストが終わったら、兄ちゃんに、いっぺぇ遊んでもらおうな!」
「そうだぞ、受験生は忙しいだ。兄ちゃん、頑張ってんだから、邪魔しちゃなんねえぞ、悟天ちゃん。」
「…うん…でも、もう何日もだよ。今まで、こんなことなかったのに…。」
幾ら勉強しなきゃいけないといっても、今回のような事は初めてなんだろう。
不安そうに、そう言う悟天の頭を撫でた。
「悟天、心配すんな。終わったら、兄ちゃんの方から出てくっから。」
「…うん。」
「今日はトランクス達と遊びに行くんだろ?思いっきり楽しんでこい。」
そう言うと、少し、悟天の気が晴れたのか、顔に笑顔が戻ってきた。
「分かった。…そうだ!」
いきなりリビングから出ると、どこかへ行っちまった。
台所の方で、ゴソゴソ音がする。
すると手に、何か持って戻ってきた。
「お父さん、お留守番のご褒美に、兄ちゃんとこれ食べていいよ!2人で分けて食べるアイスだよ。お父さん、ひとりで食べちゃダメだからね!」
何をしているのかと思ったら、オラと悟飯へのご褒美を持ってきてくれた。
悟天が、大事に取っておいたアイスなのを知って、胸の奥がズキンとなると同時に、なんて優しい子なんだと、胸があたたかくもなった。
悟天から、アイスを受け取った。
「ははっ分かったよ。兄ちゃんと半分こにして食べたら良いんだな?」
「うん!そうだよ。仲良くね!」
「仲良く?」
「だって…せっかくお父さん帰ってきたのに、お父さんと兄ちゃん、全然 しゃべらないんだもん。」
悟天にまで、気付かれてたなんて…。
「……ありがとな、悟天!おめぇは優しいなぁ。」
頭を、クシャクシャっと撫でると、照れくさそうに笑った。
するとまた、思い出した様に、上着のポケットから何かを取り出した。
「へへ…あっ!それと、兄ちゃんに、これ、渡しといてくれる?」
小さな紙包みだ。
その小さな紙包みから、どこかで嗅いだことのある匂いがした。
「ん?なんだ?大事そうに紙に包んで…なんか、良い匂いすんな~」
思わず開こうとするオラを、悟天が制した。
「あっ!開けちゃダメだよ!兄ちゃんにちゃんと渡してね。」
何が入っているのか気になったけど、開けないでと言われたからには、悟飯に渡すまで、そのままにしておこうと思った。
「?、ああ、任しとけ!」
すると、玄関先で物音がした。
窓から外を見ていたチチが悟天に言った。
「悟天ちゃん、ブルマさん来たみてえだぞ。さ、行くべ。」
外から、元気な声がする。
「お~い、ごてーん!」
その声を聞いて、悟天の顔がみるみる明るくなった。
「あ!トランクス君だ!じゃ、行ってくるね!」
「おう!行ってこい!」
扉を開けて、元気に外へ走って行った。
悟天の後を追って、行こうとしたチチが念を押すように言った。
「悟空さ、悟飯ちゃんよろしくな。何もしなくて良いから、そっとしとくんだぞ。」
「分かってるって。」
「じゃ、行ってくるベ。」
「気ぃつけてな。」
皆を見送ると、急に、家の中がシン…と静まり返った。
「…はぁ~…静かんなったなぁ…。」
手に持ったままのアイスを、急いで冷凍庫に入れ、ふと、台所の窓から外を見ると、雨が降りだしていた。
雲の様子からして、これから雨足が強くなりそうだった。
「雨?あ~こりゃ、修行無理かな…。」
毎日の日課になってる修行に、今日も行くつもりだったけど、ずぶ濡れになりながらまで、するつもりはなかった。
仕方ない、今日は休息の日だと決め、ゆっくりすることにした。
早速、リビングのソファーに寝っ転がった。
誰も邪魔するやつは居ねぇ、オラと悟飯しか居ねぇんだから。
そう思うと、急に落ち着かなくなった。
…こうなっちまった元々の原因はオラにある。
そのせいで、悟天にまで寂しい思いをさせちまってる。
本当に、受験勉強してるんだったら、試験が終われば、部屋に籠もる事もねぇだろう。
でも、もし、違ったら…?
いつ、出てきてくれんのか、検討もつかねぇ…。
その間 ずっと、悟天に寂しい思い させんのか?
界王神様は、自分達で解決しろ…と言った。
オラは、話す事の大切さを 知ったんじゃなかったのか?
あん時の事も、まだ謝ってねぇじゃねぇか。
精神的なコントロールは出来ても、根本的な問題の解決にはなってねぇ。
…今のオラも、ただ逃げてるだけじゃねぇか…。
このままじゃ、本当にバラバラになっちまう…。
そうなる前に、腹を割って、話さねぇと…
でも、正直に話した為に、バラバラになる可能性だってある…。
オラの中に臆病な風が吹いた。
どうすれば、一番最善なんだ…。
…こんな悩んじまって、オラらしくねぇ。
…界王神様の声がした気がした…
…悟空さんらしく、正直であれ…。
…だったら、考える前に行動か!
きっかけを、悟天が与えてくれたじゃねぇか!
悟天から渡された紙包みを、そっと握り、ソファーから立った。
悟飯の部屋の前まで行った。
けど、ノックする事が、出来ねぇ。
扉を隔てた向こう側に悟飯が居るのに、声を掛けることすら出来ねぇ…
ノックしようと手を上げるが、何度やっても躊躇われて、手を下ろしちまう。
臆病なオラは、リビングへと戻った。
…心臓が、滅茶苦茶に打ってる…。
悟飯と向き合おうとしてるだけなのに、気力が削り落ちてっちまう。
…落ち着け…落ち着いてからだ。
ソファーに横になって、目を瞑り深呼吸する。
心臓が落ち着いてきて、耳に、心地良い雨音が聞こえてきた…。
その雨音を聞いていると、いつの間にか、眠りに落ちていった…。
聞き慣れた…声が…オラを…呼んでる…。
『…お父さん?…お父さん…。』
…分かった…分かったから…ちょっと…待ってろ…今…
「…お父さん?…お父さん。もう、お昼過ぎてますよ。お母さんが用意してくれたご飯、食べないんですか?」
【ご飯(悟飯)】の言葉に夢うつつだったオラの意識が戻ってきた。
「ん…もう昼なんか?」
頭を掻きながら、ソファーから身を起こした。
「はい、僕、温めてますから、台所に来て下さいね。」
そう言って、台所に向かう悟飯の背中を、消えるまで 見詰めていた。
…毎日、飯の時に会ってんのに、何だか、すげぇ久しぶりに会ったような感覚になった。
傍に居んのに、遠くに居るみてぇ…なんて、おかしいだろ…それ…。
チチが、昼前に出掛ける時は、必ず用意してくれる昼飯。
それを、いつものように悟飯が温め直して用意してくれる。
その姿を、台所の入り口に凭れかかって見ていた。
オラが死んでた7年間も、こうやって、チチの手伝いしてたんだろうな。
どこに何があるのか熟知した動作で、手際良くやっている姿を見て、改めて 感心した。
悟飯を見てると、出来ない事など何もないかのように感じてしまう。
…悟飯には、苦手な事とかあんのかな?
そんな事を思っていると、悟飯が振り向いた。
「!お父さん、居たんですか?もう用意出来ますから、座って待ってて下さい。」
「あぁ、サンキュー。」
言われて、自分の席へ座った。
悟飯がオラに背を向けた。
その後ろ姿から見える悟飯の耳が 真っ赤に染まっていた。
何だ?悟飯、熱でもあるのか?
そう思った時、レンジが鳴った。