《A quided haert /導かれる心-前編―》





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そうして、今に至ってんだけど…3ヶ月経ってこれじゃ…。一体いつになったら帰れんだろう…。
そう思ってる事自体、修行として上手くいってねぇのかもしんねぇ…。

本当にやり切れなくなって、そのまま寝転がった。
どこまでも澄んで綺麗な、どこまでも高い、界王神界の藤色の空を見上げて、望郷の念にかられた。

「…らしくねぇなぁ…。」

そう呟いた時、傍で見守っていた界王神様が目を細めて言った。

「やっと、気づきましたか?これ以上ここに居ても、あなたにはなれませんよ?」

言葉の意味がよく分かんなくて、オラは起き上がって、界王神様を見詰めた。

…オラに…なれねぇ?

「もう、いいでしょう。悟空さん、お戻りなさい。」

「え…だって、さっきは…。」

「私達には、そう感じるということです。普通の人間には、まず 感じられないでしょう。」

半信半疑だった。

オラにはそうは思えねぇ。
まだ、帰れるレベルじゃねぇと思う。
この気持ちを抑え込んだまま、あいつの傍に居れる程、心が強くなったとは 思えねぇ。

納得いかねぇのがバレてんのか、界王神様は、オラを諭した。

「大事なのは、" 悟空さんらしさ "です。
自分自身を否定し、押し殺して、これから先、上手くいくとお思いですか?
なんの張り合いもない一生に、喜びを見いだせますか?
そうなっても、いいのですか?」

「でも、オラは、あいつの為にそれを願って…」

「いいえ。そう言いながら、悟空さんはただ 逃げているだけです。偽っていては駄目です。」

痛い所を突かれた。
どうしていいのか分からず、家を出たんだから…その通りだ…。
オラの中で、帰りたいのと、帰りたくない気持ちがせめぎ合った。

「…界王神様は…オラの気持ちに嘘つくなって?でも、それじゃあ、ここで修行した3ヶ月間って 何だったんだ?」

「大丈夫です。修行の成果はちゃんと出るでしょう。ここで過ごした時間は、無駄ではないですよ。」

「だといいけど…。
界王神様…オラ…あいつの傍で、あいつと、どう向き合えばいいんだ?」

界王神様は、オラを見据えて、でも、それと同時に、どこか遠くを見ているようだった。

「…私には…そこまで介入できません。これは、あなた方お2人の問題です。あなた方お2人で 解決なさい。」

界王神様が、リンとした表情と声で、そう言った。

時が止まったような一瞬だった。

界王神様の言葉に 決心が付いた。

「…だよな。ありがとうございます、界王神様。話せてよかったよ。」

オラには、これが必要だったのかもしんねぇ。

ちゃんと話す事。

そうする為には、ここで過ごす3ヶ月間が必要だったんだ。
今、界王神様と話して、それを身に染みて感じた。

じゃあ、悟飯とも、それが必要なのか?

ものすっげぇ勇気が必要だけど…。


オラは立ち上がると、額に指を押し当てたまま、界王神様を見た。
微笑を浮かべた界王神様の目が、オラの背中を押してるように見えた。
そして、空間を切り裂く音と共に界王神界を後にした。





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3ヶ月振りの我が家だ。

周りの山々を見ると、黄色や紅に色付いていた。

そうか、3ヶ月だもんな…もう秋になってんだ…。

家から、旨そうな匂いがしてきた。途端、腹が減ってる事を思い出した。

そうだ、腹減ってたんだった。
今、ちょうど、昼飯の時間だったんだな。
急に帰ってきて、オラの分の飯、あっかな…。

そんな心配をしながら、玄関のドアを開けた。

「チチ、たでぇま!今、帰ぇったぞ!」

台所から、慌てた様子の音がして、チチと悟天が走ってきて同時に言った。

「悟空さ!?」
「お父さん!」

その 驚いた2人の顔を見て、笑みが零れた。
” 鳩が豆鉄砲食らったような顔 ”って、こんな感じなんかな?

「たでぇま。なあ、オラの飯、あっか?」



それから、チチと話す暇もねぇぐれぇ、悟天と遊んだ。
悟天がオラを離さねぇんだ。
そんだけ、寂しい思いさせたんだと思うと、すまねぇ気持ちで一杯になった。
外で思う存分遊んで、家に帰って、2人でリビングのソファーに座って、麦茶を飲んでたら、悟天が寄りかかってきた。
見ると、気持ち良さそうに眠っていた。

その寝顔を見て、心が和んだ。

” 大事なのは、家族と一緒に居ること ”

か…。

家を出る前の晩、チチに言われた言葉だ。

チチはといえば、うめぇもん食わしてやるって、張り切って晩飯の用意をしてくれてる。

一緒に居るだけで、満たされる。

家族って、普通だけど、同時に特別な物なんだって、そう思った。

悟飯とも、そういう風に接すれば良いんだ。

昼飯の時、チチが教えてくれた。
悟飯は大学の、なんとか推薦ってやつで、入試を受けられる事になって、普通に入試受けるよりも、早い時期に試験も合格発表もあるって事。
もう 1ヶ月もしねぇうちに、その試験があるって事を。

しかも、その、なんとか推薦って、決まったと同時に合格も決まったようなもんだけど、試験が終わるまでは、気ぃ抜けねぇから、悟飯の邪魔 すんじゃねぇぞって、念押されちまった。

オラの居ねぇ間に、悟飯の受験もそこまで進んでたんか…
…悟飯、すげぇじゃねぇか。良かったな。

知ってたら、試験が終わるまで、帰ってこなかったのに。
悟飯、オラの帰りに動揺しなきゃいいけど…。


そんな事を思いながら、悟天に毛布を掛けてやった。
…と、誰よりもよく知った気が、近付いてくるのを感じた。

あくまで、穏やかで、柔らかい、優しく澄んだ気だ。

久しぶりだ。

変に意識するよりも、素直に嬉しいと思った。

ほら、もう直ぐだ、玄関先に降り立って、扉を開けて入ってくる…。



「よう!お帰り。悟飯。」

オラを見て、メチャクチャ驚いた顔をしながらも、悟飯はオラを気遣った。

「お、とうさん?…こそ。…良かった…無事で…」

悟飯の帰りを知って、台所から元気なチチの声がした。

「悟飯ちゃん、帰っただか?父さんもやっと帰ってきただぞ。今日はうめえもん、たーんと作ってやっから、父さんと積もる話でもして待っててけれな。」

「は、はい。」

やっぱり悟飯は、少し 戸惑っているようだった。

リビングのソファーで眠っている悟天を見つけて、少し見つめていたが、次の瞬間、フッと柔らかな笑みを浮かべた。
その笑みを見て、オラの胸から 甘酸っぱい想いが、躯中に広がっていった。

「すまなかったな 悟飯。おめぇの大事な時期に、余計な心配 かけさせちまって。」

そう言いながら、悟飯の肩を叩こうと、悟飯へ手を伸ばした。
すると、それに驚いたのか、悟飯が身を引き強ばらせた。

その様子に、オラは…。
悟飯の肩を軽く叩き、台所へ行った。

悟飯が警戒している事に、ショックを隠せなかった。
甘酸っぱい想いも、鉛を飲み込んだように、重たく、沈んでいった。



でも、これで分かったよ。界王神様。

話すまでもねぇ…って事がさ…。





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それからは、至って普通に過ごした。本当、普通。

修行の成果だって、そう思う。
変に心が乱れたりしねぇ。

帰ったその日だけだった。複雑な気持ちになったのは。


でも、何だろう?人恋しいんかな?チチが傍に居ると、肩や腰を抱きたくなっちまう。
飯の支度してるチチに、ちょっかい出して怒られるし。
終いには、ウザがられる始末だ。

ただ、悟飯の様子がおかしい…。

前以上に飯を食わなくなった。
その上、部屋に籠もりがちで、オラ達と一緒に居ねぇんだ。
悟天とさえも。
あの悟飯が、悟天を何よりも大事に思ってる悟飯が、悟天の傍に居ねぇんだ。
今までは、学校で試験がある時だって、飯の後は暫く一緒に過ごす時間を持ったり、一緒に風呂に入ったりしてた。
それは、受験生だからって、変わんなかった。
それが息抜きになってるみてぇだったのに。

ある時から、パッタリ、部屋から出てこなくなった。
飯 意外で、顔 合わさなくなった。

こんな事、今まで一度もなかった…。


オラもチチも、流石に気になって聞いてみたら、” もう直ぐ試験だから ”って、最もらしい事言ってたけど…。

試験の日が迫ってきて、ナーバスになってんのか?
おめぇなら、大丈夫だ。

そんな言葉も 掛けてやれねぇ。


悟飯はデリケートだから、推薦入試でも、気は抜けないんだろうってチチは言った。
もしかしたら、入試が引き金になって、反抗期に入ったのかも…って。
親と顔を合わさないことなんて、思春期には当然会って然るべき事。
悟飯は逆に遅いぐらいだって。大丈夫だって言ってた。

…本当に そうなんか?


チチが言うには、どうも、オラが帰って来てから、少し悟飯の様子がおかしかったらしい。

…やっぱり…

オラは帰ってきちゃいけなかったんじゃ…。




…急に どうしたんだよ悟飯…

おめぇらしくねぇぞ…。







―後編へ―

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