《A quided haert /導かれる心-前編―》
こんな状況になってんのに、おめぇが欲しくて堪んねぇ…。
…ダメだ…もう…
…オラが居たら、おめぇの為になんねぇ…
悟飯を抱き締めて、神殿へ向かった。
悟飯を気遣い、ゆっくりと飛んで行く。
…これは、言い訳かもしんねぇ…
瞬間移動で行く事も出来るのに、しなかった。
悟飯に触れられるのは、これが最後かもしんねぇ…そう思うと、離したくなかったからだ…。
少しの間でも、抱き締めていたかった。
このまま、目を醒ましてくれたら…とも思った。
今なら本当の事言えんのに…
神殿が見えてきた。
目を醒まさない悟飯を見詰め、覚悟を決めて、神殿に降り立った。
「悟空?」
「よお…ピッコロ。」
ちょうど、外で瞑想していたピッコロが居た。
オラに抱かれた悟飯に気付き、血相を変えて近付いてくる。
「悟飯!?一体どうしたんだ、悟空!」
「………。」
「何があった!?」
「…飛んで、ギリギリ高ぇ所まで行って、気ぃ失ったみてぇだ。」
ピッコロは、悟飯の安否が気になってるようだ。
「大丈夫だ。多分もう直ぐ目ぇ醒ます。」
そう言って、一呼吸置いてから、悟飯をピッコロへ渡した。
「ギリギリ?なぜ、そんな所まで…」
「…オラが…悟飯に、嫌な所、見せちまったから…」
ピッコロが険しい顔で、オラを見た。
「何だと? 悟空、貴様!悟飯に何をした!」
「んな、いきり立つなよ…なんもしてねぇって。」
頭ん中で犯してた…なんて言える訳ねぇ。
「これはオラの問題だ…自分で何とかする。」
「………。」
ピッコロは腑に落ちないようだったけど、それ以上何も訊いてこなかった。
「…ピッコロ、悟飯、よろしくな。」
そう言って飛び立とうとした時、ピッコロが呼び止めた。
「待て、悟空。一体どこへ行く気だ。」
「どこへも行かねぇよ。…じゃーな。」
何か、物言いたげなピッコロに背を向け、神殿を後にした。
まだ明るかったが、夕方という時間に差し掛かろうとしていた。
日の長い夏。夕方になっても、明るく、まだ暑い。
まるで、悟飯に対するオラの気持ちそのままだ。
冷めることのねぇ想い。
でも、この想いを、このままには出来ねぇ…と、そう 思った。
想いが強すぎて、今のままじゃ、オラ、何をするか 自分でも分かんねぇ。
今日みてぇに、また、危険な目に合わせるかもしんねぇ。
それよりも…自制心を失って、後先考えず、力ずくで、あいつをどうにかしちまうかもしんねぇ…
そんなの、最低最悪じゃねぇか…。
あんなとこ、見られちまったんだ…
嫌われたかもしんねぇ…。
…もう、想いを告げるのも叶わねぇんなら…隠し通すしかねぇ…。
正直でいてぇけど…あいつに…嫌な思いさせるぐれぇなら…。
つれぇ…めちゃくちゃ つれぇ…
…けど、大切に想ってるあいつの為なら…。
その為には、オラが強くなんねぇと。
誰にも破れねぇぐれぇ、堅く、強ぇ意思を持たねぇと…。
チチ達が帰ってきてないことを祈りながら、薄紅色に染まり始めた空を切って、家へと急いだ。
家に着くと、幸い、チチ達はまだ帰ってきてなかった。
買い物って言っても、ブルマにでも会って悟天達を遊ばせたんだろうと思った。
誰も居ねぇ、茜色に染まった家の中が静か過ぎて、急に侘しくなった。
それからちょっとして、チチ達が帰ってきた。
「ただいま~!兄ちゃん、お父さ~ん!」
ガレージから続く廊下を、元気な悟天が走りながら入ってきて、その後ろから荷物を抱えたチチが入ってきた。
「おう!おかえりー。」
「悟空さ、すまねえだ。車にまだ荷物あっから、手伝ってくんねえか?」
「おう。」
抱えた荷物をダイニングテーブルに乗せながらチチが訊ねる。
「悟飯ちゃん、まだ勉強やってんだか?」
「ああ、昼飯食った後、神殿で勉強するって、行っちまったぞ。」
「そうか。にしても遅すぎだぞ。遅くなるんなら、連絡のひとつでもしてもらわねえとな。」
袋の荷物を出し、所定の場所に直しながらチチはそう言った。
「神殿なら、心配いらねぇじゃねぇか。いざとなりゃあ、オラが瞬間移動で連れて帰ってこられるしよ。荷物、車だろ?取りに行ってくっから」
「ああ、すまねえだ、悟空さ。」
チチは信じただろうか?
気ぃ失って、神殿で寝てる…なんて言ったら、何があったんだって、問い詰められちまう。
車に載った、大量の買い物袋を抱えて、台所へと向かった。
そして、日も落ちて、暗くなってから、悟飯は帰ってきた。
良かった、安心した。躯の方は、元気だ……。
チチに怒られると思ってんのか、申し訳なさそうな顔をして、入ってきた。
「ただいま…。すみません、お母さん。」
「悟飯ちゃん、神殿に勉強に行ってたんだってな。でも、遅くなる時は、ちゃんと連絡するだよ、分かっただな。」
「は、はい。」
悟飯が面食らったような顔をしてる。
やっぱ怒られると思ってたんだな。それがこんだけで済んで驚いてんだ。
悟飯が目線だけをオラに向けた。
それに応えるようにウインクした。
すると小さくお辞儀をして、足早にこの場を離れていった。
その後を悟天がついて行く。
「兄ちゃん、ピッコロさんの所に行ったんでしょ?」
「そうだよ。」
「僕も遊びに行きたいな。」
「いいよ。ピッコロさんもデンデも、きっと喜ぶぞ。」
「わーい。約束だよ!兄ちゃん!」
そう言って悟飯の腕にぶら下がる。
悟天も、悟飯の事が好きなんだよな…。
仲のいい兄弟のやり取りを見ながら思った。
ピッコロは、何も言わなかったんかな…。
何か、勘ぐってるみてぇだったけど…。
まあ、寡黙なヤツだから、必要以上の事、言う訳ねぇか。
そんなピッコロも、悟飯が絡むと人が変わっちまうからなぁ…。
全く…悟飯のヤツ…どんだけ人を惑わせんだよ…。
悟飯が気を失った一件で、気まずさが少しなくなっていた。
原因は、自分にあるってぇのに…。
でもさ、こんな時は、変に意識するより、普通にしてんのがいいんだろ?
誰に言うともなしに、心の中で、そう呟いた。
その後は、皆で晩飯食って、普通通り過ごした。
でも やっぱ、悟飯はそうもいかねぇみてぇだった。
一見、いつも通りだけど、オラを見ようとしねぇんだ…。
そうだよな…気持ち悪ぃよな…
すまねぇ…悟飯…。
…そうしてくれたお陰で、踏ん切りがついた。
なんも気にしねぇで、出ていける…。
その前に、チチにだけは言っとかねぇとな。
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「なんだってー!!」
「しーっ!悟天が起きちまうだろ。」
オラが生き返ってから、悟天はオラ達と寝るようになった。
それが 今でも続いている。
8歳にもなって…って言うヤツがいるかもしんねぇけど、
生まれてから6歳まで、父親を知らずに育った悟天には、もっと、甘えてもらっても良いと思ってる。
悟飯みてぇに、いっぺぇ 抱っこしてやれなかった分、一緒に寝たって、バチ 当たんねぇだろ?
悟天が もうちょっとデカくなっちまったら、流石に同じベッドでは寝れねぇだろうけど。
チチのでけぇ声にも動じない悟天を見て、流石オラの子だと口の端を上げた。
悟天が寝てから、修行に出る事を話すと、最初 チチは、
「?修行なんて、いつもの事じゃねえべか。」
って言ってた。
けど、終わるまでは帰ってこねぇ…いつになるか分かんねぇ…って言ったら、でけぇ声出されちまった。
「何だって、今、修行なんか!もう、必要ねえべ!」
「必要なんだよ。いつ来るとも分かんねぇ危機に備えとくのは大事なことだろ?」
「必要ねえべ!大事なのは、家族と一緒に居る事だ!やっと今、そうやって 普通に生活してるってえのに…なんで…。」
「チチ…。」
チチの想いに、胸が締めつけられた。どれだけ家族を大切に思ってるのか、痛いほど分かる。
オラだって、皆と離れたくねぇ。
でも、今のままじゃ、一緒に居たって、きっとバラバラになっちまう。
そっちの方が、辛ぇと思う。
だから、行くんだ…。
オラはチチを抱き締めた。
「オラだって、そう思ってる。離れたくねぇ。けど、行かなきゃなんねぇんだ…分かってくれ…チチ…。
それに、オラがいねぇ方が、悟飯の受験勉強もはかどるだろ?」
「………。」
そのまま長い沈黙が続くと思ったが、チチが口を開いた。