《A quided haert /導かれる心-前編―》
「だだ洩れですよ。悟空さん。」
そう言われて、オラは目を開けた。
「え、ぇ~…。」
これでも頑張ってんだけど、じっとしてるって、本当辛ぇなぁ。
そん時、腹の虫がグゥ~っと鳴った。
「界王神様、オラ腹減っちまった。コレじゃ、集中できねぇよ。」
界王神様は呆れたような顔をした。
「悟空さん、あなたはここに遊びに来たんですか?もっと真面目にしないと、いつまで経っても変わりませんよ?」
「オラ、至って真面目だぞ。ちゃんと、雑念払って、精神統一して…。…変わんねぇと、なんねぇんだ。」
すると、いつもの木陰の下で、TVを見ていた じいちゃんの界王神様が、いつの間にか傍にきて言った。
「お前さんが真面目にやっとると言うなら、そうなんじゃろう。それでも、洩れるっちゅう事は、それだけ『想い』が強いっちゅうことじゃ。厄介じゃのう。」
それだけ言うと、また、TVを見に戻って行った。
「…界王神様、オラ、ここに来て、もう随分経つよな?」
「そうですね…地球時間で、…80と…8日…ですね。」
「88…もう直ぐ3ヶ月か…なのにオラ、全然ダメだな。」
遣り切れなくなって、ちょっと、愚痴がでる。
そんなオラを見て、界王神様が元気づけるように言った。
「そんな事はないですよ。来た頃に比べたら、随分落ち着いてきました。最初は凄かったですからね。」
あん時は、自分でもそう思うぐれぇ、酷かった。
爆発しちまいそうなぐれぇ…。
何、やっちまうか分かんねぇぐれぇ…。
どうしていいか分からず、とにかく、家を出た方がいいと思って…出たはいいが、そっから途方に暮れた。
とにかく、ここにはいらんねぇ、地球から、離れた方がいい…。
それで、界王神界に行った。
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「悟空さん?どうしたんです?どうしてここへ?…酷い顔をして…。」
「…界王神様…暫く、ここに居て、いいかな?心を、鍛えてぇんだ。」
「心を?」
「ああ。それまでは、帰れねぇ…。」
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界王神様には、理由を 正直に言った。隠したまま修行したって、うまくいくはずがねぇから。
界王神様は、オラが言ったことに、驚いてたみてぇだけど、分かってくれた。
そんだけ、やっぱオラ、酷かったんだと思う。
オラ自身も、『恋』っちゅうもんは初めてで、分かんねぇことばっかりだったから…。
こんなに心が痛くなるんなら、鍛えて強くなれば、躯が左右されることもねぇだろうと…
安易な考えかもしんねぇけど、今のオラには、それが最善だと思ったんだ。
…離れたくなかった…けど、離れなきゃいけなかった。
あの日、悟飯に…嫌な思い、させちまったから…。
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その日は、朝からいい天気で、午後は暑くなりそうだったから、早くに修行に出たんだ。
それでも、昼前には汗だくになって、帰る前に、川で汗を流すことにした。
靴だけは脱いで、汗でベトベトになった道着ごと、川に飛び込んだ。
泳ぎながら、昔の事を思い出していた。
あいつが小せぇ頃は、色々、大変な事もあったけど、こうやって、川で泳いだり、魚釣ったり、山で、珍しい植物とか虫とか探しに行ったっけ。
水筒忘れちまって、湧き水探し回った事もあったっけな。ははっ懐かしいなぁ。
オラが死んで、あいつもでっかくなって、色々、状況も変わって、こんなこと、しなくなっちまったな…。
組み手ぐれぇ…やりてぇなぁ…。
川から上がると、そのまま草の上に大の字に寝ころんだ。
空に浮かぶ雲を眺めながら、生き返った頃を思い出していた。
じいちゃんの界王神様の命を貰って、オラが生き返って、ブウとの死闘も決着がついて、普通の生活が戻ってきた。
それからは、オラは、自分の気持ちを隠さないことにした。
公にはしねぇけど、あいつには、隠さなかった。
今度また、いつ、死んじまうかもしんねぇ。
悔いを残したまま 逝くのは嫌だと思ったからだ。
でも、あいつは全然気付いてくれねぇ。
【子供】だから、好きなんだと思ってる。
オラもそうだと思ってた。
あいつが小せぇ頃は、そうだった。
死んで、時の経過のない あの世で 修行に明け暮れていた間に、地球では7年の月日が流れていた。
オラの中で、あいつは【子供】のままだった。
天下一武道会に出る為に、1日だけ そっちに帰る と、一度だけ あいつと交信した。
久しぶりに交わす会話。
短い会話だったけど、別れた頃と変わんねぇ あいつだと思った。
なのに、久しぶりに見たあいつは……当たり前だけど、【子供】じゃなかった。
おかしな格好してたけど、気で、直ぐ あいつだと分かった。
あいつが振り向いて、オラを見た。
オラに気付いて、サングラスの下で 泣きながら オラを呼んだ。
泣き虫なとこは変わってねえなぁ なんて思ってたら、あいつが、オラの手を取ったんだ。
サングラス越しに、涙を流す あいつの目が見えた。
一瞬、あん時の情景が オーバーラップした。
7年前、あんな別れ方をした あん時…
身も心も ボロボロになったおめぇが、思いがけないような目で、オラを見ていた…。
あん時の おめぇと、今、ここに居る おめぇが、重なった。
腕に、あいつの温もりを感じた。
久しぶり…本当に久しぶりだ……【悟飯】だ…。
そう思った そん時、…そん時に……胸の奥が ” ぎゅーーー ” って なったんだ。
【悟飯】を 感じれば 感じる程、胸が 締め付けられる。
暫くは、コレが何なのか分からなかった。
それから、武道会どころじゃねぇ、大変な事になって、
あいつと 行動を共にする事になった。
あいつが オラのやる事 言う事に、いちいち、一喜一憂する姿や、でっかくなったあいつの 闘う姿を、ワクワクしながら見ている内に…
もっと 一緒に居てぇ…と思うようになった。
オラは、1日しかこの世に居れねぇってぇのに…。
オラが気絶してる間に、あいつが死んだって 聞かされた時は…悔しくて悔しくて 堪んなかった。
でも、頭のどっかで、”あの世で逢える”って思った。
実際は、あの世じゃなくて、界王神界だったけど。
あいつの気を感じ取って、死んでねぇって分かった時は、嬉しくて嬉しくて 堪んなくって、年甲斐もなく、はしゃぎまくっちまった。
だから、闘いの最中で 大変な時だっていうのに、界王神界で一緒に居れて、めちゃくちゃ楽しいと思った。
でも……。
悟飯は生きた人間。
オラは死んだ人間。
直ぐに また、別れの時が来る。
あいつが地上に戻る時、それが 最後の別れになる。
あいつを見ながら、オラの中で色んな感情が渦巻いていた。
それでも、制限のある中での界王神界での時間は、精神と時の部屋で過ごした時のように、濃密だった。
叶わない願いだけど、やっぱ 一緒に居てぇって思った。
あいつがでっかくなったとこ、見てぇと思った。
あいつが抱き締めてくれて嬉しかった。
…今度逢う時は、死んだ時だ…って言った時、一瞬見せたおめぇの哀しげな様子に、オラも、辛くなった。
ポタラで合体したかった。
オラとおめぇが合体したら、どんだけ強くなんのか知りたかった。
また、おめぇを失うかもしんねぇと思うと、怖かった。
…せっかくブウの中から助けたおめぇ達を 見殺しにしちまったけど…。
オラが生き返った途端、今度はおめぇが、本当に死んじまった…。
地球ごと、なくなっちまって…。
せっかく、生き返る事ができたのに…オラには帰る場所さえ なくなっちまった…。
落胆した…。
オラには もう、護るべき物も…ない…。
どうしたらいいのか、もう、分かんなかった。
でも、ベジータの機転のお陰で、ナメック星のドラゴンボールで、何もかも、元通りにする事が出来た。
おめぇが生きてる!
そう思っただけで、気力が戻ってきた。
『一緒に居てぇ』
オラに 目的が出来た。
おめぇと一緒だった界王神界で、最後の勝負に出た時、真っ先に おめぇの元気玉が出来て、おめぇを近くに感じた。
ぜってぇ負けらんねぇ!って、自分に発破かけた。
そして、やっと…やっと ブウを破って、ヘトヘトになりながら 思ったんだ。
『後悔したくねぇ』
って。