《A lost heart/迷子の心-前編-》











お父さんが居なくなってから、3ヶ月が経とうとしていた。



季節も夏から秋に移り変わり、僕自身も大学の推薦入試に向けて、追い込みが始まった。

お父さんが居ない事以外は変わらない日常。
お父さんが居ない事にみんな慣れ始めていた。


なのに、今日、学校から帰ると、お父さんが、居た。




「よう!お帰り。悟飯。」

「お、とうさん?…こそ。…良かった…無事で…」

驚きのあまり、呆然としたまま 思わずそう口にした時、台所から嬉しそうなお母さんの声がしてきた。

「悟飯ちゃん、帰っただか?父さんもやっと帰ってきただぞ。今日はうまいもん、たーんと作ってやっから、父さんと積もる話でもして待っててけれな。」

「は、はい。」

突然の事で、少し頭が混乱したまま返事をし、ふと、リビングのソファーに目をやると、悟天が安心しきった様子で、気持ちよさそうに眠っていた。
きっと、帰ってきたお父さんと、いっぱい遊んだんだろう。
大はしゃぎしてる悟天の様子が目に浮かび、知らず知らず、笑みが零れた。

「すまなかったな 悟飯。おめぇの大事な時期に、余計な心配 かけさせちまって。」

そう言いながら、僕の方へ手を伸ばすお父さんに、“引き寄せられる”…と、思わず 身を引き 強ばらせたのだが、僕の肩に ポンっと軽く手を乗せただけで、台所へ行ってしまった。
その様子に、違和感を覚えたが、久し振りに会ったからだろうと、さして気にせず、自室へ鞄を置きに行った。


そして、これからまた、何の変わりの無い、いつもの日常が戻ってくると、そう思って疑わなかった。

そう、いつもの日常。


僕、以外は…。



お父さんが帰ってきて、お母さんも悟天も、本当に嬉しそうだ。
まるで 欠けたパーツが戻って、ギアが回りだしたような毎日だ。

僕だって、お父さんが帰ってきた事は、素直に嬉しい。

でも、何で『今』なんだ…。


僕は、希望していた大学の 指定校制推薦で入試を受けられる事になった。
指定校制推薦は、決まったと同時に、ほぼ受かったような物だから、それを聞いたお母さんも安心したようで、自分のペースで勉強したら良いと言ってくれた。
でも まだ、合格通知を受け取った訳ではない。
その試験が、20日後にある。
気は抜けない。




お父さんに対する疑問は、時間と共に薄れて行くか …とも思ったが、忘れる事はなかった。
でも、お父さんが居ないことが幸いし、受験の事に専念する事ができ、お父さんへの疑問は心の隅に追いやられていた。

なのに、お父さんが帰ってきた事で、お父さんに対する疑問が、心のほとんどを占めるようになっていた。
もう直ぐ試験なのに、こんな精神状態のままで試験は受けられない。
上の空で、面接なんて受けられない。

様子を見て、疑問をぶつけてみようかと思った。
気まずい気も、しないではないが、それよりも、お父さんの真意を知りたかったから。
それで、少しでも、気が晴れれば、こんなに思い悩む日もなくなる。
試験だけに集中する事が出来る。

そう思っていたのに…。





―後編へ―

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