《A lost heart/迷子の心-前編-》







日も落ちて、暫く経ってから、僕は家へと帰った。
帰り間際、ピッコロさんが ”まだ居ていいんだぞ” と言ってくれたのだが、お母さんが心配するし、明日は学校だからと断り、ピッコロさんにお礼を言って神殿を後にした。
…明日が休みだったら、このまま神殿に居たかもしれない…。




明かりの灯った家には、既に、お母さんと悟天が帰ってきており、てっきり叱られると思っていたのに、

「悟飯ちゃん、神殿に勉強に行ってたんだってな。でも、遅くなる時は、ちゃんと連絡するだよ、分かっただな。」

そう言うお母さんの後ろで、お父さんがいつもと変わりなく、僕にウインクして見せた。

お母さんは、僕が小さい頃に比べたら、勉強の事に関して 僕の意志を尊重して、一任してくれてる。
今回も、進学受験が控えてるのにも関わらず、叱ったりしない。
それだけ、信用してくれてるって事かもしれないけど、それだけじゃなく、お父さんが、帰ってきたお母さんにうまく言ってくれたのだろう。

僕は、お母さんに気付かれないように、小さく頭を下げた。
お父さんは、いつもと変わらないように見えるが、僕はまともにお父さんの顔が見れずにその場を離れた。

お父さんの視線が、こちらに向いてる気がする。

すると、悟天が後ろからついてきて、今度、神殿に遊びに行きたいと言ってきた。

「いいよ。ピッコロさんもデンデも、きっと喜ぶぞ。」

「わーい。約束だよ!兄ちゃん!」

そう言うなり、僕の腕にぶら下がってきた。
こういう、ちょっと気まずい雰囲気の時、悟天が居ると本当に助かる。
何もなかったように振る舞うことができるから。
僕達2人のやりとりを見ているお父さんの視線を感じながら、僕は自室へ向かった。





いつもより遅い夕食を、皆と一緒にとった。
いつもと変わらない楽しい時間を過ごした。
ただ、僕はやっぱりお父さんの目を見ることはできなかったけど。



そうやって、気まずさを残したまま、お父さんは次の日、居なくなったのだ。
お礼を言う事と、話し合う事って、ピッコロさんに言われたのに、言うべき人が居なくなってしまった…。



それから10日が経つ。


一人で色々考えてみたが、限界がある。
これでは堂々巡りだ、グルグルグルグル同じ所を回るだけ。
他の人の意見も聞いて、新しい考えを取り入れないと…。
来週には、夏休みに入ってしまう。
内容が内容なだけに、相談しにくいと思ったが、思い切って、シャプナー君に聞いてみることにした。









「悪い悪い、悟飯。遅くなっちまった。」

「いいんですよ。」


放課後、相談したいことがある、と、その日の朝約束していたので、僕はカフェテリアで彼を待っていると、シャプナー君が申し訳なさそうに足早にこちらへやってきた。

シャプナー君も、既にボクシング部は引退していたけど、時間がある時はたまに顔を出しに行ってるみたいで、今日も部に行くから、その後でもいいか?と、授業が終わって言われていたのだ。

部から直接来たようで、先に鞄をロッカーに取りに行ってくると彼は言った。
時間も遅くなってきたので、歩きながらでいいから話そうかと、僕も彼に付いて行った。





「?じい?」

「!こっ声大きい!!」

彼が自分のロッカーで帰り支度をしている時に、思い切って訊いてみた。

学校でこんな話をするのもどうかと、自分でも思ったが、もうほとんど生徒も帰ってしまっていたので、良いか と思い訊いてみたのだが、彼が大きな声でオウム返しに聞いてきたので、驚いて、周りに誰も居ない事を確かめてしまった。

「爺って、どこの金持ちだよ?」

尚も聞き返してくる。

「違いますよ!そのじいじゃなくって…その…なんて言うんでしたっけ…マスター…?」

「?。ああ、ひとりHの事か?」

「え?そう言うんですか?」

初めて聞く言葉に、僕も聞き返してしまった。そんな僕を見て、シャプナー君はフッと笑った。

「お前、こういう事には疎そうだもんな。相変わらず、勉強にしか興味ないと思ってたお前が、そんな事聞くなんて、成長したなぁ!受験生のオレ達にも、息抜きは必要だよな!」

笑顔でしみじみとそう良いながら、僕の背中を叩いている。

「そう言や、相談しづらい内容って言ってたもんなぁ。なるほどな…で、それがどうしたんだ?まさか…やり方教えてとか言うんじゃないだろうな…。」

17、18にもなって、知らないのか?と言いそうなくらいの驚愕した表情でそう言うシャプナー君に、否定しながら、要点を話した。

「ちっ違いますよ!いくら僕でもやり方ぐらいは…。そうじゃなくて、知りたいのは、一般的にそういうのやる時って、どんな時なのか…と思って。」

変な事を聞いてしまったのだろうか?シャプナー君は言いようのない困ったような顔をしている。

「…どんな時って…そんなの、やりたい時に決まってんだろ。」

「ですよね…じゃあ、してる時って、何か見たり、想ったりするんですか?」

「お前、やり方知ってんなら分かるだろ、そんな事。お前は、見たり想像したりしないのかよ。」

「いや、僕の事はいいんです。一般的にどうなのかと思って。」

「上手くはぐらかしやがって…普通そうだろ?エロい本とか動画…後、好きな子のエロいトコ想像したりとかじゃね?オカズなしでやる方が珍しいと思うけどな。」

「?オカズ??…じゃあ、最中に、何か言いながら、したりするんですか?」

それを聞いて、シャプナー君は笑い出した。

「えっ?ひとりでブツブツ言いながらやってたら可笑しいだろ!まぁ、人それぞれだから分かんねえけど、お前が知りたいのは一般的な事だろ?相手が居て、sexしてんなら分かるけど、ひとりHでそれは…」

そんなに意外な質問だったのだろうか、シャプナー君は笑いが止まらないらしい。が、ふと、思い当たる事があったのか、笑いを止めて言った。

「あ、でも、最後、イクッってなった時、気持ちが高ぶってたら言うかもな。」

「何を?」

「何って、その時感じた事とか…。」

「例えば?」

「例えば?うーん‥…例えば…。sexの時と同じかもな。『イク』とか『出る』とか。後は…好きな子を想ってやってるんだったら、その子の名前とか?」

「名前?」

「ああ。…悟飯…お前、結構グイグイ訊くな。」

一旦聞き出したら、恥ずかしげも無く聞くことができた。でも、こんな事聞くなんて変わってると思われてるだろう。

「すみません。同世代に聞けるのって、シャプナー君しかいないので…。」

「ま、いいけどさ。代わりに、小論文 書く時、アドバイス頼む!」

「小論文?…って、シャプナー君、推薦入試、決まったんですか?」

「いや、決まった訳じゃねえけど、オレ、結構真面目にボクシングやってたから、特別推薦で行けるかもって。」

ニッと、いたずらっ子のような顔で笑った。

「良かったですね!勿論、僕で良ければ。」

「やった!悟飯がついてれば楽勝だぜ。」

いたずらっ子のような顔はそのままに、ガッツポーズをしてみせた。
そして僕に訊いてきた。

「悟飯、お前もだろ?推薦入試。」

「僕も 分かりませんよ。推薦で受けられたら良いと思いますけど…グレートサイヤマンの活動で、結構 授業抜け出してるんで、それがトータルで見て、どう評価に影響するか…。」

「それって慈善活動じゃねえか。評価されて当然だろ?しかも成績優秀なんだから 大学側から見ても 言うことねえじゃん。悟飯なら、公募制は勿論、指定校制もイケると思うぜ。」  (※推薦入試の種類。公募制一般推薦、公募制特別推薦、指定校制推薦)

グレートサイヤマンを始めた頃は、推薦入試の事なんて 全然考えてなかったし、まさか授業を抜け出してまで活動するなんて思ってもみなかったから、ここに来て 心配の種になるなんて予想してなかった。
それだけに、シャプナー君がそう言ってくれて嬉しかった。
2/4ページ
スキ