短編
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「今日は一緒にイルミネーション見ようね!」
「当たり前。夜もずっと一緒だよ?」
「ちょっと!もぉ~!」
なんとなく色めき立つ中庭を歩いていると、すれ違うカップルの会話が聞こえた。
二人ともいかにも自分たちだけの世界という感じで、キラキラピンクのオーラがそこら中にふりまかれているようだ。
そして、一人でそのオーラをふりまく男が一人。
あたしの隣では、美童がせっせとスケジュールを調整していて、なんだかにやにやしながら手帳を見ている。
「ん~誰と過ごそうかな~!」
その反対側で、可憐が同じように予定を考えている。
「ん~!迷っちゃう!」
二人に挟まれて、あたしはとぼとぼ歩いていた。すれ違う生徒たちみんなデートの話ばっかり。
みんな幸せそうにしているけれど、そのオーラにあてられるほど自分の中のもやもやとした気持ちは募っていく。
周囲にはびこるオーラを払いのけるかのように私は頭をふるふると降ってため息をついた。
「クリスマスイブなのに…」
「咲季の彼氏はどうしたのかしらね~?」
「…。(わかってるくせに!)」
可憐が笑いながら突っ掛かってきた。
「清四郎も忙しいんだよ…きっと。」
「とかいって寂しそうだよ?」
可憐に説明をするというよりも、もはや自分に言い聞かせるようにつぶやく。
いちいち反応する美童を一睨みすると、おっと、と苦笑いを返された。
よけい惨めじゃないか。
あたしだってクリスマスくらい清四郎と過ごしたい。なのに…今日は急用だ、とか言って学校にも来てない。
優等生と違って冬期補習で学校に来ている私たち3年生。
…野梨子も魅録も悠理もいない。
なんで悠理がいないのかは知らないけど、たぶん何か食べてるんだと思う。
「よりによってなんでこの二人なのよぉ~…」
「どういう意味よ」
バタバタしすぎて一緒に過ごす約束もしてない。
というか、こんな特別な日、約束しなくても一緒にいられると思うじゃん?
(清四郎…何してるんだろう…)
「はぁ………。」
「「……。(ごめんね。咲季、もう少しの我慢よ(だよ)!)」」
***
寒くなってきたので二人と別れて生徒会室に戻った。誰もいない生徒会室はいつものにぎやかな雰囲気と打って変わって静まり返っている。
「…寂しい…」
無意識のうちに口をついて出てしまった。そんな言葉さえ部屋の中に漂って消えてしまうようだ。
(付き合って初めてのクリスマスなのに…)
いつだって記念日に離れてたことなんてなかった。
誕生日だって、何ヵ月記念だって、いつも一緒に過ごしたのに…
「なんで…?」
せめて声だけでも聴けないかな?
そんな思いから、おもむろに携帯を取り出して清四郎に電話を掛ける。
「…。」
3回くらいのコールで電話がつながった。
『もしもし?』
「清四郎…?」
『…どうかしましたか?』
「…今日…会えないの…?」
『今日は…。…!…ちょっと待ってくださいね』
「!……そんな…。」
清四郎が誰かに呼ばれて保留ボタンを押した。誰かなんてすぐにわかった。
「なんだ…そっか…」
あたしは黙って電話を切った。よくない考えばっかり頭に浮かんできて、涙が出そうになる。
それを必死でこらえて生徒会室を出た。
「…ッ…グスッ……」
携帯が鳴ってたけど、出る気になれず、そのままカバンにしまった。
***
「…まずいですね。」
「清四郎?」
野梨子に呼ばれて携帯を保留にしたら、次に出たときには電話が切れていた。
きっと野梨子の声を聞いたのだろう、何度電話しても出てくれない。
「やっぱりあの二人にしたのがまずかったですね…」
「清四郎、やっぱり今から咲季に会いにいったら?」
「…いや、」
「咲季…大丈夫かな…」
悠理と魅録が心配そうに僕を見つめる。
僕だって気にならないわけじゃない。
(早く終わらせないと…!)
魅録に作業を促して、僕は導線を握り締めた。
「でも、清四郎がこんなこと考えるなんてな~。」
「…咲季に喜んでもらいたいですから。」
「本当に咲季が好きなんですね。」
「清四郎!!OKだって!!」
悠理の声に顔を見合わせる。
「ほら!早くいけよ!」
「はい!」
「段取りは任せてくださいね!」
「頼みましたよ!」
言うが早いか、僕は駆け出した。
手には悠理が頑張って手に入れてくれたチケットを握り締めて。
***
「…。」
すぐさま呼びつけた運転手が驚くほどふてくされたあたしは、家に帰ってそのまま自分のベッドに突っ伏していた。
もう何回携帯が鳴ったんだろう。
つまらない意地を張って、さっきから携帯に出ないまま。目の前においてある携帯は何度も震えては消えてを繰り返している。
「……清四郎…。」
やっぱり会いたいな…。
でも、さっき聞こえたのは野梨子の声…。
(でも、やっぱり電話に出たい…声が聞きたい…)
着信件数は20件を越えていた。
「意地なんかはらなかったらよかった…」
「お嬢様、清四郎さんが見えてます。」
「え?!」
落ち着いた声でメイドがそういうので、あたしは驚いてベッドから飛び起きる。
急いで部屋を出て玄関に向かうと、髪もグシャグシャで息を切らした清四郎がいた。
「せいしろ…!」
「咲季…!!」
清四郎は私が近寄った瞬間に私を抱きしめた。ぐっと強く抱きしめるのは、いつもの包み込むような腕とは違う。
閉じ込めるように腕の中にしまわれて、周りにメイドがいるというのに大胆な清四郎に驚いた。
「すいません…つらい思いをさせましたね…」
「清四郎…」
匂い慣れた清四郎の匂いがする。どくどくと清四郎の鼓動が早いのがわかると、あたしの不安はどんどん押し流された。
寂しさが溢れて、知らない間に涙が出ていた。
「…行きましょうか。」
「…?」
「せっかくのクリスマスですから…咲季と一緒にいたいんです。」
にっこり笑って私に小さくキスした清四郎は、私の手を引いていく。
電話をしてしばらくたつと、清四郎のうちの車が来た。
待っている間も、握った手は離れなかった。
***
車に乗ってしばらくすると、外はもう暗くなっていた。
「どこにいくの?」
「これですよ。」
そう言って見せられたのは高級ホテルの最上階のチケット。
「…悠理がなんとか交渉して手に入れてくれたんです。」
「悠理が…?」
「着きましたよ。」
車を降りると一番上が見えないくらい高いホテル。
清四郎に連れられて、あたしはエレベータに乗った。
「わぁ……!」
部屋からは街が一望できてクリスマスイルミネーションがとても綺麗だった。
「一緒に見たかったんです。」
「清四郎…!」
「好きな人と、一緒に。」
清四郎が後ろから抱き締める。
あんなに寂しかったのに、今は愛しくて仕方ない。
「咲季…愛してます。」
「あたしも…」
パッ、と電気が消えた。
「え!?」
「…咲季、こっち向いてください。(魅録…うまくいったんですね。)」
外のイルミネーションの光だけがあたしたちを照らしていた。
(…?)
清四郎が首に何かを付けた。
シャラ…
「何…?」
また電気が付く。
「これ…!」
首もとには前に野梨子と話していたネックレス。
…野梨子にしか話してないのに?
「もしかして…わざわざ聞いたの?」
「僕からのクリスマスプレゼントです。」
「…!」
よく見るとネックレスに指輪が付いている。
「…これは?」
「指輪ですよ。」
「そうだけど…え?」
あたしの前に出された清四郎の左手には指輪。
「ペアリング…?」
「はい。」
あたしはもう嬉しくて清四郎に抱きついた。
清四郎もあたしを抱き締めて、ゆっくりキスを落とす。
その後今日のことを聞かされて、二人でイルミネーションを見た。
ずっと手をつないで、一緒に過ごした。
「…咲季?」
「…zzz」
「寝てしまったんですか…?」
「…。」
「……愛してますよ。」
小さくおでこに落とされたキスを、あたしは知らないまま清四郎に抱き締められて眠っていた。
End.
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