2章
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「ね、眠い。」
日本に帰国して、私はすぐに制服に着替えて学園に向かった。疲れを感じながら、必死に足を動かす。
それでも悠理が誘拐されてから連絡がない。何かあったのならそれはそれで一大事だ。
私は疲れた体に鞭打って、生徒会室へ駆けた。
「今はお昼?…昼休み?」
時差ボケが生じて、体も重たい。向こうは今ごろ夜中だったため、こちらは昼間でも眠気が強い。
中庭を歩く生徒達が自分に挨拶をしてくれるが、もはや適当に返事をして校舎に入った。
歩き慣れた生徒会室までの道を早歩きで進む。
生徒会室に近づくにつれて人が多くなっていくようで、相変わらずの人気ぶりを実感した。
咲季は人込みを掻き分け、やっとたどり着いた生徒会室の扉を開けた。
「あっ!高天原さん!」
「な?!」
部屋に入るなり、咲季を襲ったのはカメラのフラッシュだった。
びっくりして目を瞑ってしまったが、カメラを手にした女子生徒は残念そうに「もう一枚」と話し掛けた。
全く意味がわからない!
「咲季!」
「あ!悠理無事だっ…うわあ!」
悠理を見つけ無事を確認し安心したのと同時に、咲季飛び付いたのはその本人。
「早かったじゃん!お帰り!」
「いや、ていうか、悠理…」
誘拐されたんじゃなかったの?と脳内で問いかける。
これだけ心配したにも関わらず、何も変わらない様子に戸惑いながら、咲季はとりあえず悠理から離れて皆の方を見る。皆はお帰り、と言ったような表情でただ自分を見ていた。
「悠理、無事だったんだね…。」
「めちゃくちゃ楽しかったんだ!」
悠理は誘拐されてからの数日の話をしゃべりだす。
こちらが心配していた間、6人は悠理を助けるとともに人助けもやったらしい。
心配して損した気持ちになり、気が抜けてしまった私はふらふらと椅子に座る。
いらぬ心配をした私に残っているのは時差ボケと疲労感だけ。
そんな私の疲れを倍増させるかのように、まわりでは新聞部の生徒達がインタビューを開始した。
***
「最後に皆さんの結婚観について…」
「…」
もう何度目かと思う結婚の話題に、呆れながら心の中でため息をつく。
「高天原さんは?」
「え?うーん…うちの会社を継げる人で、私が認めた人と結婚する、んじゃないですかね…?」
「なんで疑問形なのよ…」
「高天原を継ぐのはきっと大変だなぁ…」
悠理がぼそっと言った。
それを聞いた咲季が悠理の方に目をやると、悠理は「うちの父ちゃんより忙しそうだから!」と付け足して、咲季に笑いかける。
「なにがステータスです!」
「あ」
結婚の話で盛り上がっている生徒会室に、颯爽と現れた校長と教頭。しかし、咲季をみつけるや否や笑顔で駆け寄り、体験入学の事を問い掛けてきた。
そんな咲季を犠牲に、今のうち、とばかりに新聞部はそそくさと帰っていく。
それを見つけた校長が、矛先をまた7人に定めた時、ドアの開く音がし、見知らぬ女性が入ってきた。
「幸せな将来を左右するのが結婚よ!」
大きな声で入ってきたのは綺麗な黒髪の女の人。可憐が名前を呼んでいるところを見ると、知り合いなのだろう。
二人がその女の人――吉乃川さん――に話し掛け、話が進んでいく。
どうやら吉乃川さんは今度の土曜日に神亀の社長と挙式を上げるらしい。
何とか話についていこうとするも、時差ボケと心労で耐え難い眠気が襲う。
ぼんやりとした頭で話を聴いていたが、知らぬ間に部屋は静かになっていた。
招待状を手渡された校長達は意気揚々と部屋を出ていったからだ。
残った吉乃川さんが最後のダメ押しとばかりに微笑んだ。
「結婚式には皆さんも是非」
その言葉に皆が返事をする。その中でも魅録は何か様子が違うみたいだったが、当の咲季は今自分を襲う疲労感に耐えるのに精一杯だった。
「じゃ、私はこれで。」
吉乃川さんが部屋を出た後、皆は口々に結婚式の話をしている。
咲季はもうどうやら意識をしっかりと保つことが難しいらしい。
もう限界、そう自覚したのを最後に咲季は眠気に体を支配されていった。
***
それから寝てしまったのか、意識がなくなったのかはわからないが、咲季は気が付くとベッドの中だった。
「気が付いたみたいですね」
「え…?」
「今清四郎様をお呼びいたします」
傍にいた看護師の声がしたかと思うと、彼女は部屋を出ていく。
清潔なその部屋に、私はここが病院だと気付き、ゆっくり体を起こした。
「ん…??」
ベッドの横にある時計は短針が9を指していた。窓の外は暗く、今が夜であることを告げる。
「え?何日…?ん…??」
「あれから2日眠ってたんですよ。」
「2日?!」
部屋に入ってきた清四郎が私の独り言に答えてくれた。
大丈夫ですか、と額に手を当てる。全く自覚はなかったが、どうやら熱があったようだ。
「びっくりしましたよ、眠っているのかと思ったら、意識がなかったんですから」
「えっ…嘘」
「寝てなかったんですか?」
思えば悠理の誘拐事件が知らされてから心配でろくに眠れてない。
授業に参加するためにがむしゃらに勉強して、用事が終わればさっさと帰国。
時差ボケの所為で眠いのだと思っていたが。
「…無茶しすぎですよ。向こうでは相当大変だったんですね」
「ごめん…」
「明日は吉乃川さんの結婚式ですが…行けそうですか?」
「あ、それなら大丈夫。時差ボケだと思うし、このまま休んだら治ると思う」
「わかりました。念のため、今日はここで休んでください。医師にも伝えておきますので」
清四郎、過保護だな。そう思いつつ咲季は小さく礼を言った。眠ったおかげか体調は大分良くなった。
お言葉に甘えて、咲季はまた眠りに就いた。
***
翌日、招待状を受け取った私は野梨子と清四郎と共に式場に向かった。よく晴れた結婚式日和の中、都内でも有名な高級ホテルに併設された結婚式場に到着する。ワクワクする心を抑えながら車を降りると吉乃川さんが両親に引き止められ、言い争いをしているような光景があった。
「吉乃川さん…?」
「何かあったのでしょうか…。」
合流したが状況が読めないため動けない7人。
「とにかく、行ってみましょう」という清四郎の言葉に、全員で吉乃川さんのいる控え室に向かった。
***
「そうだったんですか…」
ウェディングドレス姿の吉乃川さんは悲しそうに眉を下げてぽつぽつと事情を語ってくれた。どうやら、最愛の恋人が事故にあったらしく、その彼の元に向かうつもりだったらしい。
その上、この結婚は、吉乃川商事を救うための結婚で、本人が望んでいたわけではないという。
二人の事情を知っていたのか、魅録は無理に笑って振る舞う吉乃川さんに一枚の紙を差しだした。
割りばしの袋にしか見えなかったが、それを見て心を揺らす彼女に、それが彼女にしかわからない何かのメッセージであることがわかる。
戸惑う彼女に、可憐は後を追うように励ました。その言葉で彼の元にいくと決めた吉乃川さんは、咲季の目に綺麗に映った。
恋の力はここまで人を動かすのかと感心していると、突然肩に手が置かれた。
「それなら咲季が身代わりやれば?」
「――――…は!?」
「黒髪だし、ちょうどいいじゃん。」
ハッと気が付くと皆が私を見ている。それなら、と清四郎が一声かける。
気を取られている間に一体どんな話の流れになったのか、全く見えない中で戸惑う咲季を、一番楽しそうに見ているのは女性陣だ。
「や、意味わかんないから、何これ!?」
「はいはーい、話は着替えてから!…あ、男性陣は出て行ってねー」
戸惑う咲季は可憐に流され、野梨子に押し出されて男性陣が出ていく。そして咲季は訳が分からないままウェディングドレスを着せられた。
***
「やばーい!すごい似合ってる!」
「やはり咲季は綺麗ですわ…!」
「可愛いじゃん!!」
女性3人に囲まれ、私は訳が分からないまま鏡の前に立つ。きゃっきゃと喜ぶ女性陣の声が聞こえたのか、間もなくして部屋に入ってきた清四郎たちも、同じように私を見ていた。
「…なるほど、やっと理解した」
その後清四郎に計画を説明され、やっと理解した咲季は、自分の役目通り、人目につかない廊下にいた。
今まで着たことのないウェディングドレスは思っていた以上に動きづらく、思うように走れない。
やがて、バタバタと人が走る音がする。
作戦開始の合図が出て、私はふらっと人の波の前に姿を見せては隠れることを繰り返す。
遠くから違う足音がする。きっと、美童も走っているのだろう。しばらく会場中を走り回る。こうして目をくらませている間に吉乃川さんを会場から抜け出させる作戦なのだ。正体がバレてもいけないが、姿をちらりと見せなければいけないのが難しい。
とにかく目に入った道を通っては階段を降りてを繰り返し、使われていない披露宴会場に一度隠れて様子を伺う。すると、突然肩に手を置かれた。まったく予期していなかった感触に、咲季の心臓は跳ね上がる。
「…ッ!」
「見つけましたよ…!」
私の顔はベールでかろうじて見えないが、私はその男が誰かすぐにわかった。まずい!
それは私を追い掛けていた男だった。
「あゆみさん、勝手に出ていかれちゃ困るんですよ。」
「…!」
どうやらベールのお蔭で咲季の正体はバレていないようだが、この状況では逃げられない。
どうしよう、そう考えても体が動かなかった。清四郎に連絡を取るにも取れない。
「さあ、行きますよ。」
「やっ…、」
肩を捕まれ、ひっぱられる。握力が強くて声を上げてしまった。そんな時だった。
「咲季!」
「!?」
「あ?」
誰かが私の名前を呼んだ。その声に、男が下品な顔でそちらを向く。
私も声の方を向いた。
「あ…!」
「こんなところにいたのか…!」
ドアを開けたすぐのところに清四郎が立っていて、急いで私の方に駆けてきた。
私は安心でほっと力が抜けた。
清四郎はアイコンタクトで咲季に合図をし、すぐに男に鋭い視線をおくった。
どこで借りたのか、よく見ると白いタキシードを着ている。その姿と振る舞いは、誰が見ても花嫁を探しに来た花婿にしか見えない。
「私の花嫁に何か用ですか?」
「え、いや、」
清四郎が平然として男の手を払い除けた。そして私を抱き寄せて顔を覗き込む。
私はその突然のアクションとあまりの顔の近さに心の中で悲鳴を上げる。それでも清四郎はなおも平然としてアドリブを続けた。
「ほら、早くしないと式が始まるぞ。」
「あ、うん…」
「心配したんだからな?」
「ご…ごめん」
清四郎はベール越しに優しく私を見つめる。いつもと違う喋り方と雰囲気にびっくりしつつも、私は清四郎に合わせた。そして茫然としている男を放置し、清四郎は私の肩を抱いて部屋を出た。
死ぬほど恥ずかしい、と顔を真っ赤にしながら咲季も清四郎の歩みに任せて部屋を出る。
「本当に…咲季はいつも敵に絡まれますね」
「うん…ていうか喋り方!おかしくない?」
「むしろこれから妻になる人間に丁寧語はおかしいでしょう?」
「あ、そっか……って、いや、まあそうだけどさ…」
清四郎の言葉になんとなく納得しつつ、私はお礼を言った。そして追手に見つからないよう二人で歩いて控え室に向かう。
どうやら作戦は成功したようで、一番の心配であった婚姻届は悠理の口の中に納まってしまったという。衝撃的な展開ではあったが、もうすぐ警察も来るらしく、吉乃川さんは魅録と共に病院に向かったらしい。
ほっとしながらドレスの着替えに向かい、野梨子や可憐に手伝ってもらいながら服を着替えた。
部屋を出て、同じく着替え終わった清四郎や美童と合流する。視線の先には、手塩にかけて育ててきた娘の幸せを踏みにじらなくて済んだことに安心する吉乃川商事の社長の姿があった。
それを見た咲季はあることを思いつく。
「あ、そうだ…」
「まだ、何か?」
「うちの会社の傘下になれば、倒産は免れるかなって」
「なるほど、やりますね」
咲季は父宛に簡単なメールを送り、事情を説明することにした。
その後、吉乃川商事は倒産を免れ、吉乃川さんは本当の恋人とめでたく結婚したという。
***
また平和で暇な日常が戻り、私たちはまた日々を過ごしていた。咲季は悠理とお菓子を頬張りながら実のない会話をして時間をつぶす。
「オーストリアはどうだった?」
「ん?楽しかったよ!」
「向こうでは忙しかったから…やっぱりこっちのほうがいいよ」
「でもさー…暇じゃね?」
会話に割り込んできた魅録の言葉に全員が頷かざるをえない。事件が解決されてしまえば、やはり変わらない普通の毎日なのだ。
なんとなくだらけた雰囲気が部屋に流れていると、可憐が「そうだ」と声を上げる。
「じゃあ今夜、うちのパーティーに来ない?」
「えっ?」
「たぶん、暇つぶしにはなるわよ」
可憐がにやりと笑って私たちを誘う。どうやら今夜は大きなパーティーがあるらしい。
暇を弄んでいる私たちは、もちろんその誘いを断るはずもなく、喜び勇んで可憐の家で開かれるパーティーに参加することにした。