1章
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祭のダンス大会の会場に集合すると、そこにはすでに出場選手と関係者で埋まっていた。
応援席は満員とまではいかないが、関東の学校が集まった大会ということもあり、多くの生徒や家族が集まっている。
選手として出場する可憐と美童は準備を済ませて最初の予選のために待機していた。
馬子にも衣裳とはこのことで、このままいけば本当に二人もいいところまで行けるのではないかと思えるほどだ。
悠理や咲季もそう思うのか、二人の姿に笑顔をこぼしている。
二人を見送った後、私たちはフロアがよく見える応援席の一角に着席し、会場を見渡す。
「いいですね、高清水から目を離さないように」
清四郎の指示に全員が頷き、来賓席に座る高清水に視線を送る。
不審な動きがあればすぐに合図をするよう示し合わせ、凝視することで怪しまれないようにダンスを鑑賞しながら様子を観察した。
それでもダンスにあまり興味がないのか悠理はそわそわとし始める。
隣に座る咲季の腕を肘でツンツンとつつくと、悠理はいたずらっぽく笑ってささやき声で話しかけてきた。
私に見られていることには気が付いていないようだ。
高清水に動きがないせいか、集中が切れている。
「咲季、この間来た中華のおっちゃんがさ、めちゃくちゃ料理うまかったんだよ!」
「そうなの?」
「今度そいつが来たら一緒に食おーぜ!」
「いくいく!」
咲季は悠理の無邪気な誘いに笑顔で相槌を打つ。悠理もへへーと笑顔を見せた。
学園では他愛のない話で笑い合うことがなかった咲季にとって、彼女との割とどうでもいい話も心地よい。
これでも幼いころは剣菱家のグルメな趣味に混ぜてもらい、色々なものを食べていたのだ。
長い時間がたっても変わらず笑い合える関係に、咲季は安心を抱いた。
最初はどうなることかと思ったが、7人でいる時間が思った以上に心地よくて、今なら何でもできるような気持ちさえ起った。
ふと、咲季は向かい側にいる幼馴染たちに目が移り、今自分たちがすべきことを思い出したようだった。
「じゃあ、頑張って早希さんを守らなきゃね。」
「おう!任せとけ!」
「悠理、静かに」
意気込む悠理をたしなめる野梨子の声がし、咲季と悠理は再び目を合わせて笑った。
そしてフロアに目を向ける。
華麗な衣装を身にまとって、男女が優雅に踊っている。
野梨子は二人を注意したものの、ダンスの音楽と共に、耳に入ってくる咲季と悠理の話し声が楽しそうで、今が高清水を監視する時間だとは思えないほどだった。
なんだか、幼いころのまだ難しいことを考えていなかったあの頃のようだと穏やかな気持ちになる。
野梨子はふともう一人の幼馴染に目を向ける。
全く口を開かず、ただ高清水とその周辺を見つめている正反対の空気をまとった幼馴染に野梨子は話し掛けた。
「清四郎、昨日は咲季と何を話しましたの?」
「…野梨子に関係ありますか?」
「もちろんありますわ。咲季は大切な幼馴染ですもの」
清四郎は表情がわかりにくいとか小難しいとか言われることが多いようだが、野梨子からすれば十分わかりやすい部類である。
幼いころからの付き合いという部分はあるかもしれないが、昨日の話題に対してつっかかるような言い方をしているところから、何か彼にとって重要な話をしたことは明白なのだ。
もちろん、野梨子はそれを聞き出すためだけにそのような発言をしたつもりはなかった。
野梨子とて、咲季を大切に思う気持ちは同じなのだ。
未だ視線は高清水を追っている清四郎を気にせずに、野梨子は話を続けた。
「そういえば、この前…咲季に相談されましたの」
「相談?」
「…清四郎との約束について、ですわ」
先ほどまで高清水を見ていた清四郎は、その言葉にピクリと反応するとゆっくりと野梨子の方を向いた。
やはりわかりやすい彼の反応に対して、野梨子は微笑んだまま、清四郎の代わりに高清水を見て話を進める。
「約束を思い出せなくて申し訳ない、野梨子は知ってる?と…」
「…それで、なんと答えたんですか?」
「わからない、と答えましたわ。だって本当に知りませんもの」
大きな目を真ん丸にして清四郎にそう返答すると、清四郎は少し安心したような顔をして、また高清水に視線を戻す。
やはり彼にとってはこの話題は至極重要なもののようだ。
野梨子の言葉は半分本当で、半分嘘だった。
知らないのは本当だが、わからないことはなかった。わからないのはきっと咲季本人だけだ。
あまりにも純粋なその約束は、今も清四郎の中に小さく燻 っている。
それほど大事なものであることも、理解しているつもりだった。
「ふふっ、私は清四郎の気持ちもちゃんと分かっているつもりですわよ。ですから、たとえ約束を知っていても咲季には伝えません」
「はあ…、野梨子が幼馴染でよかったですよ」
清四郎は口では感謝を伝えているが、その言葉には野梨子が自分が思っている以上に自分たちのことを知っていることへの驚きも込められている。
野梨子はその反応に対してより微笑みを深くした。
会場に流れる音楽が終了し、拍手が沸き起こった。
二人はつられるように手を叩きながら、予選が終了し退場していく選手たちの煌びやかな衣装に意味もなく目を向けていた。
***
やはり裏では何かが渦巻いているのか、控室でもあまり良い雰囲気は流れておらず、殺伐としたまま次の曲に移ることとなった。
それでも流石、選手たちは先ほどまでの空気を感じさせないダンスを披露している。
再び5人でフロアを見ていると、今度は咲季が悠理の肘を小突く。
「ん?」
「お手洗いどこだっけ?」
先ほど手持ち無沙汰になってぶらぶらしていた悠理は、一番近くの階段を下りた応援席の入り口近くのトイレの地を伝える。
咲季はその場所を頭に入れながら、制服のスカートを揺らして応援席を出た。
その後も問題なく曲は流れ、ダンスが披露されるが、だんだんと選手の動きが妙になる。
声は遠くて聞こえないが、そのうちフロアで踊るペアが次々と場外に出ていき始めた。
「な、なんだよこれ」
「様子が変ですね…!」
さすがの悠理もこれがダンスではないことはわかったようで、戸惑いの声を上げた。
異変に気づいた清四郎は素早く高清水の方に目を向けるが、わざとらしく驚いた表情を浮かべている。
そのうちに可憐と美童も腹部を押さえながら外に駆け出して行った。
「可憐と美童まで…!」
結局最後にフロアに残ったのは早希のペアと黒松学園のペアだけとなった。
明らかに何か仕組まれていることがわかる状況だが、それよりも選手のほとんどがフロアからいなくなったことで会場はざわめきに包まれていた。
準決勝は異例の形で終了する。
選手たちは戻ってこず、にらみ合う二つのペアだけがフロアに残っていた。
この状況に客席同様困惑していた4人だったが、そこで野梨子がはた、と気づく。
そういえば咲季はどこにいったのだろうか。
先ほどお手洗いに行くというのは聞こえていたが、いくら何でも遅すぎやしないだろうか。
「咲季…?」
小さく呟きながら目を凝らしてフロアを見渡す。
聖プレジデント学園の白い制服は目立つはずだ。必死で探してみるがどこにも見当たらない。
そうこうしているうちに早希が気になる魅録が客席を足早に出ていったため、他の3人も急いで後を追った。
「清四郎、咲季が…」
「確かに遅いですね…この状況です、早く合流すべきとは思いますが…」
控室の場所は彼女も把握しているはずだ。
今ここで全員がバラバラになることは避けたいと考えた清四郎は、咲季を待つため魅録に控室に行くよう伝える。
それから数分、予定していた準備を済ませ、少し体調の改善した美童と可憐も合流して咲季と魅録を待つ。
咲季は迷っているのだろうか、流石に焦りの出てきた清四郎たちのもとに魅録が戻ってきた。
「シェリーが誘拐された」
焦りを押さえるように魅録がそう告げると、他の5人は驚いて魅録に詰め寄った。
彼女の愛犬であるシェリーを誘拐し、脅しをかけられたことが魅録から伝えられると、清四郎は嫌な予感で胸がざわつくのを感じる。
「これ、写真。…会場のどこかだとは思うんだけど…」
魅録の携帯に転送された脅迫メールの写真を見せると、野梨子はその写真にくぎ付けになる。
そこには、先ほど自分が必死でフロアで探した白い布が微かに映っていた。
ほかの面々は気づいていないようだが、野梨子はどうしてもそれが気になり動きを止める。
「僕たちが必ず助け出します。…不可能を可能にするのが、有閑倶楽部ですから」
不安そうな早希を勇気づけるように清四郎がそう伝えると、彼女は不安げな目を魅録にも向けた。
魅録はそれに応えるように頷き、彼女を決勝戦へと送り出した。
その背中を見送ったあと、魅録と悠理はともに駆け出す。
清四郎と野梨子も手分けをしてシェリーの監禁場所を探そうとした時だった。
呼応するように清四郎の携帯が鳴る。
短く途切れた着信音はメールの受信を伝えるものだ。
ディスプレイには咲季の名前があった。
あまりにも帰りが遅い彼女からの連絡に、清四郎はすぐに反応する。
野梨子は、暗がりに映った妙に明るい白い布が脳裏にちらつき不安そうに清四郎を見た。
「清四郎…咲季は、なんと…?」
その視線に清四郎も何かを感じ取ったのか、神妙な面持ちでメールを開く。
本文はなく、写真が添付されていた。
もはや確信にも似た不安が鼓動を早くさせる。
「…!」
「咲季…っ!やはり…そんな…!」
野梨子が声をあげ、清四郎も思わず息をのんだ。
写真の中には、口をガムテープで塞がれ、手足を拘束された咲季がいる。
シェリーと同じ部屋にいるのか、暗がりの中に制服の白さが際立つ。
跳び箱のようなものを背に苦しげに目を閉じた咲季の姿に清四郎はカッと頭に血が上る感覚がした。
涙声でうろたえる野梨子の声が遠くに響く。
まさか、あの短時間で咲季まで誘拐されるというのは予想外だった。
自分の昂る感情を押さえて頭の中で計算を繰り返す。
最短で、今すぐにでも彼女を助け出さねばならない。
「…監視カメラを見てきます。野梨子は悠理と共にシェリーを探してください」
「わ、わかりましたわ…!」
野梨子は蒼白の表情で飛び出した。
その姿を見た後、今にも爆発しそうな焦燥と怒りを必死に抑えるように息を吐いて清四郎もその場から動き出した。
応援席は満員とまではいかないが、関東の学校が集まった大会ということもあり、多くの生徒や家族が集まっている。
選手として出場する可憐と美童は準備を済ませて最初の予選のために待機していた。
馬子にも衣裳とはこのことで、このままいけば本当に二人もいいところまで行けるのではないかと思えるほどだ。
悠理や咲季もそう思うのか、二人の姿に笑顔をこぼしている。
二人を見送った後、私たちはフロアがよく見える応援席の一角に着席し、会場を見渡す。
「いいですね、高清水から目を離さないように」
清四郎の指示に全員が頷き、来賓席に座る高清水に視線を送る。
不審な動きがあればすぐに合図をするよう示し合わせ、凝視することで怪しまれないようにダンスを鑑賞しながら様子を観察した。
それでもダンスにあまり興味がないのか悠理はそわそわとし始める。
隣に座る咲季の腕を肘でツンツンとつつくと、悠理はいたずらっぽく笑ってささやき声で話しかけてきた。
私に見られていることには気が付いていないようだ。
高清水に動きがないせいか、集中が切れている。
「咲季、この間来た中華のおっちゃんがさ、めちゃくちゃ料理うまかったんだよ!」
「そうなの?」
「今度そいつが来たら一緒に食おーぜ!」
「いくいく!」
咲季は悠理の無邪気な誘いに笑顔で相槌を打つ。悠理もへへーと笑顔を見せた。
学園では他愛のない話で笑い合うことがなかった咲季にとって、彼女との割とどうでもいい話も心地よい。
これでも幼いころは剣菱家のグルメな趣味に混ぜてもらい、色々なものを食べていたのだ。
長い時間がたっても変わらず笑い合える関係に、咲季は安心を抱いた。
最初はどうなることかと思ったが、7人でいる時間が思った以上に心地よくて、今なら何でもできるような気持ちさえ起った。
ふと、咲季は向かい側にいる幼馴染たちに目が移り、今自分たちがすべきことを思い出したようだった。
「じゃあ、頑張って早希さんを守らなきゃね。」
「おう!任せとけ!」
「悠理、静かに」
意気込む悠理をたしなめる野梨子の声がし、咲季と悠理は再び目を合わせて笑った。
そしてフロアに目を向ける。
華麗な衣装を身にまとって、男女が優雅に踊っている。
野梨子は二人を注意したものの、ダンスの音楽と共に、耳に入ってくる咲季と悠理の話し声が楽しそうで、今が高清水を監視する時間だとは思えないほどだった。
なんだか、幼いころのまだ難しいことを考えていなかったあの頃のようだと穏やかな気持ちになる。
野梨子はふともう一人の幼馴染に目を向ける。
全く口を開かず、ただ高清水とその周辺を見つめている正反対の空気をまとった幼馴染に野梨子は話し掛けた。
「清四郎、昨日は咲季と何を話しましたの?」
「…野梨子に関係ありますか?」
「もちろんありますわ。咲季は大切な幼馴染ですもの」
清四郎は表情がわかりにくいとか小難しいとか言われることが多いようだが、野梨子からすれば十分わかりやすい部類である。
幼いころからの付き合いという部分はあるかもしれないが、昨日の話題に対してつっかかるような言い方をしているところから、何か彼にとって重要な話をしたことは明白なのだ。
もちろん、野梨子はそれを聞き出すためだけにそのような発言をしたつもりはなかった。
野梨子とて、咲季を大切に思う気持ちは同じなのだ。
未だ視線は高清水を追っている清四郎を気にせずに、野梨子は話を続けた。
「そういえば、この前…咲季に相談されましたの」
「相談?」
「…清四郎との約束について、ですわ」
先ほどまで高清水を見ていた清四郎は、その言葉にピクリと反応するとゆっくりと野梨子の方を向いた。
やはりわかりやすい彼の反応に対して、野梨子は微笑んだまま、清四郎の代わりに高清水を見て話を進める。
「約束を思い出せなくて申し訳ない、野梨子は知ってる?と…」
「…それで、なんと答えたんですか?」
「わからない、と答えましたわ。だって本当に知りませんもの」
大きな目を真ん丸にして清四郎にそう返答すると、清四郎は少し安心したような顔をして、また高清水に視線を戻す。
やはり彼にとってはこの話題は至極重要なもののようだ。
野梨子の言葉は半分本当で、半分嘘だった。
知らないのは本当だが、わからないことはなかった。わからないのはきっと咲季本人だけだ。
あまりにも純粋なその約束は、今も清四郎の中に小さく
それほど大事なものであることも、理解しているつもりだった。
「ふふっ、私は清四郎の気持ちもちゃんと分かっているつもりですわよ。ですから、たとえ約束を知っていても咲季には伝えません」
「はあ…、野梨子が幼馴染でよかったですよ」
清四郎は口では感謝を伝えているが、その言葉には野梨子が自分が思っている以上に自分たちのことを知っていることへの驚きも込められている。
野梨子はその反応に対してより微笑みを深くした。
会場に流れる音楽が終了し、拍手が沸き起こった。
二人はつられるように手を叩きながら、予選が終了し退場していく選手たちの煌びやかな衣装に意味もなく目を向けていた。
***
やはり裏では何かが渦巻いているのか、控室でもあまり良い雰囲気は流れておらず、殺伐としたまま次の曲に移ることとなった。
それでも流石、選手たちは先ほどまでの空気を感じさせないダンスを披露している。
再び5人でフロアを見ていると、今度は咲季が悠理の肘を小突く。
「ん?」
「お手洗いどこだっけ?」
先ほど手持ち無沙汰になってぶらぶらしていた悠理は、一番近くの階段を下りた応援席の入り口近くのトイレの地を伝える。
咲季はその場所を頭に入れながら、制服のスカートを揺らして応援席を出た。
その後も問題なく曲は流れ、ダンスが披露されるが、だんだんと選手の動きが妙になる。
声は遠くて聞こえないが、そのうちフロアで踊るペアが次々と場外に出ていき始めた。
「な、なんだよこれ」
「様子が変ですね…!」
さすがの悠理もこれがダンスではないことはわかったようで、戸惑いの声を上げた。
異変に気づいた清四郎は素早く高清水の方に目を向けるが、わざとらしく驚いた表情を浮かべている。
そのうちに可憐と美童も腹部を押さえながら外に駆け出して行った。
「可憐と美童まで…!」
結局最後にフロアに残ったのは早希のペアと黒松学園のペアだけとなった。
明らかに何か仕組まれていることがわかる状況だが、それよりも選手のほとんどがフロアからいなくなったことで会場はざわめきに包まれていた。
準決勝は異例の形で終了する。
選手たちは戻ってこず、にらみ合う二つのペアだけがフロアに残っていた。
この状況に客席同様困惑していた4人だったが、そこで野梨子がはた、と気づく。
そういえば咲季はどこにいったのだろうか。
先ほどお手洗いに行くというのは聞こえていたが、いくら何でも遅すぎやしないだろうか。
「咲季…?」
小さく呟きながら目を凝らしてフロアを見渡す。
聖プレジデント学園の白い制服は目立つはずだ。必死で探してみるがどこにも見当たらない。
そうこうしているうちに早希が気になる魅録が客席を足早に出ていったため、他の3人も急いで後を追った。
「清四郎、咲季が…」
「確かに遅いですね…この状況です、早く合流すべきとは思いますが…」
控室の場所は彼女も把握しているはずだ。
今ここで全員がバラバラになることは避けたいと考えた清四郎は、咲季を待つため魅録に控室に行くよう伝える。
それから数分、予定していた準備を済ませ、少し体調の改善した美童と可憐も合流して咲季と魅録を待つ。
咲季は迷っているのだろうか、流石に焦りの出てきた清四郎たちのもとに魅録が戻ってきた。
「シェリーが誘拐された」
焦りを押さえるように魅録がそう告げると、他の5人は驚いて魅録に詰め寄った。
彼女の愛犬であるシェリーを誘拐し、脅しをかけられたことが魅録から伝えられると、清四郎は嫌な予感で胸がざわつくのを感じる。
「これ、写真。…会場のどこかだとは思うんだけど…」
魅録の携帯に転送された脅迫メールの写真を見せると、野梨子はその写真にくぎ付けになる。
そこには、先ほど自分が必死でフロアで探した白い布が微かに映っていた。
ほかの面々は気づいていないようだが、野梨子はどうしてもそれが気になり動きを止める。
「僕たちが必ず助け出します。…不可能を可能にするのが、有閑倶楽部ですから」
不安そうな早希を勇気づけるように清四郎がそう伝えると、彼女は不安げな目を魅録にも向けた。
魅録はそれに応えるように頷き、彼女を決勝戦へと送り出した。
その背中を見送ったあと、魅録と悠理はともに駆け出す。
清四郎と野梨子も手分けをしてシェリーの監禁場所を探そうとした時だった。
呼応するように清四郎の携帯が鳴る。
短く途切れた着信音はメールの受信を伝えるものだ。
ディスプレイには咲季の名前があった。
あまりにも帰りが遅い彼女からの連絡に、清四郎はすぐに反応する。
野梨子は、暗がりに映った妙に明るい白い布が脳裏にちらつき不安そうに清四郎を見た。
「清四郎…咲季は、なんと…?」
その視線に清四郎も何かを感じ取ったのか、神妙な面持ちでメールを開く。
本文はなく、写真が添付されていた。
もはや確信にも似た不安が鼓動を早くさせる。
「…!」
「咲季…っ!やはり…そんな…!」
野梨子が声をあげ、清四郎も思わず息をのんだ。
写真の中には、口をガムテープで塞がれ、手足を拘束された咲季がいる。
シェリーと同じ部屋にいるのか、暗がりの中に制服の白さが際立つ。
跳び箱のようなものを背に苦しげに目を閉じた咲季の姿に清四郎はカッと頭に血が上る感覚がした。
涙声でうろたえる野梨子の声が遠くに響く。
まさか、あの短時間で咲季まで誘拐されるというのは予想外だった。
自分の昂る感情を押さえて頭の中で計算を繰り返す。
最短で、今すぐにでも彼女を助け出さねばならない。
「…監視カメラを見てきます。野梨子は悠理と共にシェリーを探してください」
「わ、わかりましたわ…!」
野梨子は蒼白の表情で飛び出した。
その姿を見た後、今にも爆発しそうな焦燥と怒りを必死に抑えるように息を吐いて清四郎もその場から動き出した。