お姉さんをオトシたい!
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ホークスside
祥子さんと初めて出会った日のことは忘れない。
俺が高校卒業と同時にヒーローとしてデビューした日に、彼女は公安にやってきた。
最初は勿論俺に担当となるわけでもなく、公安の雑務を任されている新人だった。
第一印象としては、黒髪を一本で縛り上げて、眼鏡をかけている冴えない地味な女だな―――と思っていた。
18歳ながらも自身の魅力には大分自信を持っていたので、俺が軽く声をかければ他の職員同様、彼女も簡単にオトせるだろうなと。
あの時は俺も若かったかもしれない。仕事でたまった鬱憤を、そんなどうでもいいことで晴らしていたのだから。
公安からの依頼の仕事は全て楽しいものばかりではないのだから。
任務を終えて公安に戻れば、会議室で討論している声が聞こえた。
いつもの癖で聞き耳を立ててみれば、それは新人である彼女が上司に怒られている所だった。
新人の良くある教育指導というやつだな。俺はそれ以上は無駄だと踏んで傍を離れようとした。が、次に聞こえてきた言葉にその足を止めてしまった。
「ホークスはまだ子供です!彼に背負わせるには重すぎます!」
「お前にホークスの何が分かるというのかね?君も知っている通り、ここの部署は公安の暗部―――彼自身自ら望んで人々の役に立つべく我々に協力してもらってるのだ」
「…っ!それが間違ってるって言ってんだろクソボケ!!!!何やろうが勝手だけど、ホークスだって人間だ!心があるんだ!ホークスはニコニコ笑ってるかもしれないけど、お前らがそういう風に仕立てたからホークスはその心を隠したんだよ!ちょっとでも悟られたら死ぬような、そんな危険な任務を何度も任せるから、まだあいつは子供なのに!それが公安の人間がやることかよ!!あたしらがサポートしなきゃあいつは簡単に死ぬんだよ!!ヒーローが市民を守るのが仕事なら、血濡れたあいつを守るのはせめてものあたしら公安の職員の仕事だろ!!」
彼女の威勢の良い声の後に聞こえたのは、鈍い音と机が倒れる音。
それから部下であろう人間が上司を宥める声。
俺はヒーローだから颯爽とその間に入って―――
でも、なぜだか。
入ることはできなかった。
立ち尽くした足が力なく震えている。
こんなことは初めてだった。
彼女の言葉脳裏に焼き付いて離れなかったんだ。
俺は、この言葉を一生忘れないだろう。
後日、廊下で偶然すれ違った彼女は頬と口元をガーゼで多い、左目は白い眼帯をしていた。そしてひび割れた眼鏡。スペアが無かったのだろうか。
よほど酷く殴られたようだ。それにしても女であっても容赦ない。
だから俺は昨日の詫びも込めて、まだ話したこともない彼女に声をかけた。
俺と飯でも行けばコロッと落ちる。そして俺の都合の良い駒になってくれるだろうと、考えたのだった。
「こんにちは。最近公安に来られた方ですよね?もしよかったら俺と食事でも「結構です」…え?」
何かの聞き間違いかと思った。
彼女は冷たい目で俺を一瞥すると、眉間にしわを寄せながらもう一度同じ言葉を繰り返した。
「聞こえなかったんですか?私ごとき口説いてる間があったら任務の一つでも終えてきてください」
それだけ言うと彼女は颯爽と立ち去っていく。
衝撃だった。初めてだった。
女性を扱うのには長けていると自負していたのに。
まさか昨日の逆恨みだろうか?
それがきっかけとなり、ありとあらゆる手段を用いて彼女の事を調べた。情報を集めるのは簡単なことだ。
彼女の同僚に話を聞いたが、普段からあんな感じだということ。なるほど、逆恨みではないようだ。ともすれば、先日の言葉は嘘偽りではなく本心という事か。
でも彼女は何故あそこまで俺の事を気にかけてくれたのだろうか。俺に一目惚れ?いいや、初対面だ。俺の何かを調べたんだろうか。
それに先日上司に立てついたことは部署では噂になっているらしいという情報も得た。次の任務で無茶難題を投げつけられ、それが出来なければクビだということも。
俺はなぜか分からないが、急に焦りを感じ、手段問わず、その任務に俺を同行させることになんとか成功した。
彼女をこのまま公安から失うのはあまりにも、損害が大きいような気がしてしまった。
碌に話もしたこともない、ただの新人に。
俺は何の気持ちを抱いてしまったというんだ?
しかも入社数日で上司に立てつくような、どうしようもない人間なのに。
気づけば彼女のことが頭から離れなくなっていた。