「その背中を追い続けて、気が付けば」前編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
間一髪で、デクが俺を鞭で引き寄せてくれたらしく、爆発を免れることができた。
ナガンを中心に起きた爆発。自殺か、はたまた罠か。
今はそんなことどうでもいい。ナガンは無事なのか。
「ナガン…!!」
地面に倒れる彼女の姿があった。
どう見ても重症だ。
俺は急いでナガンの元へ駆け寄る。
「生きて…生きてください…俺はあなたの背中を追い続けて…気が付けばこんなところまで来ちゃったんですから」
「…まさか、公安に…?」
「はい」
「バカだな…お前は…」
その時、俺の目の前に別の人物が現れる。
デクかと思って顔を上げたら、そこにいたのはホークスだった。
なぜホークスが?と脳裏をよぎるが、今はそんなことを考えてる場合ではない。
ホークスはしゃがんでナガンに声をかける。
「死んじゃダメですよ。先輩」
「お前は…私の……後釜か…」
ということは、ホークスも。
確かに公安に出入りするホークスを何度か見かけたことがある。
本当に俺は何も知らなかったんだな。
「ホークス、そのお兄さんは…レディ・ナガンの大事な人で…」
「…俺にも聞こえましたよ、素敵な愛の告白」
違うよ、デク。
ナガンの大事な人じゃなくて、俺の大事な人だ。
初めて助けてもらった人からずっと告白してもナガンにあしらわれて、見向きもされなかったんだ。
俺が勝手に想ってるだけなんだ。数十年越しの、片思いさ。
「でも、それなら猶更だ。いいように利用されて終わるな。あなたはヒーロー!レディ・ナガンだろ!」
「っ…2ヶ月以内に灰堀の森林…洋館へ標的を連れて来ることっ!!」
ナガンは必死に絞り出した声で、叫ぶ。
俺にはそれが何の話か分からなかったけど、きっとヒーローにとって大事な話なんだろう。
「私の他に声を掛けられていた人間が…数人…なぁ···後輩くん···私は心を保てなかった···君はなんでそんな顔でいられる···」
「…支えてくれる人がいた。俺、楽観的なんです!」
俺は彼女の顔にかかる前髪をそっと避けてあげる。
「ナガン、俺…助けてもらったときからあなたに一目惚れで…あなたは子供の戯言だって相手にしてくれなかったけど、俺はずっと本気でした」
「…」
「ヴィランとかヒーローとか、そんなの関係ないよ。ねぇ、ナガン。俺を置いて…いかないでよ」
まるで、子供のわがままのようだった。
「竜之介…私はもう憧れるような人間じゃない…この手は汚れて……昔の私はもういない…」
「構わない!!!!」
俺はナガンの手を両手で抱え込んだ。
昔はとても大きかった手が、今では俺より小さくなっている。
「何度だって言うよ、ナガン。俺はあなたが好きだ。あなたと一緒ならタルタロスだろうが地獄だろうがどこまでもついていく。俺はあなたを支えたくてここまできたんだ!」
俺がもっと早く生まれていたら。
俺がもっと早くナガンの傍で働いていたら。
彼女が壊れてしまう前に助けることができただろう。
ずっとそのことばかり後悔してきた。ずっと俺はナガンを守りたかった。
「は、は…参ったな……もう追い払う力もないな…」
ナガンは弱弱しく、俺の手を握り返した。
「…ありがとう。竜之介」
ナガンは小さく息を吸い込むと、そのまま目を伏せた。
「ナガン…?ナガン!?」
せっかく会えたと思ったのに、また遠くに行ってしまうのか。
俺はナガンの体を揺らしたが一向に目が覚める気配がない。
そこからの記憶は曖昧だった。
ずっとナガンの名前を呼んでいたような気もするし、ホークスに暴れないよう体を掴まれていたような気もする。
その後、救急車に乗せられて病院に行き、治療を施された。
気が付けばベッドの上で、ナガンは俺の傍にいなかった。
ヴィランの彼女なら当然だったけど。
その後、ホークスが病院と掛け合ってくれて、俺がナガンの傍にいられる許可を貰えた。
彼女は今集中治療室の中。ガラス越しで眠る彼女はなんとか一命を取り留めていた。
それでも危険な状態には変わりない。
無機質な機械音が規則正しく部屋の中に響いている。彼女の心音を示すその音が、今の俺の心の拠り所だった。
ホークスに事情は全て聞いた。ナガンの事も、今彼女が何に巻き込まれているのかも。
これだけ待っていたんだから、今更何があっても驚かないし、受け入れることも容易だった。
やっと恩返しができる。
やっとナガンの力になれる。
「早く…目を覚ましてくれ。そしてたくさん話をしよう」
俺の告白を断るのは、それからでもいいだろ?
自嘲気味に笑って拳を握り締めた。
俺はあの時握り返してくれたナガンの冷たい手の感触を、忘れることができなかった。
5/5ページ