「その背中を追い続けて、気が付けば」前編
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銃弾が俺に到達するより早く、緑色の光が俺を掻っ攫っていく。
気が付けば俺は空中を飛んでいて。
誰かに抱えられているのだと気づいた。
「大丈夫ですか!?」
「君は…?」
「デクといいます!ここは危険ですので、安全な場所に避難してください!」
「待ってくれ!デク!ナガンは、ナガンは俺の―――大事な人なんだ!!」
「!」
デクによって俺はビルの屋上へと連れてこられる。
「あなたは一体…」
「俺は公安職員。ナガンに昔命を拾われた。デク、無茶を承知で頼みがある」
まだ学生であろう彼に頼むのは、お門違いかもしれない。
でも、それでも。この機を逃したら二度とナガンに会えない気がして。
「事情は分からないが、俺がナガンを止める。俺なら止められる」
「でも!先ほどナガンはあなたを認知しておきながら…っ、攻撃をしかけてきました!」
「ナガンに殺されるなら本望だ!」
「!!」
「頼む。俺をナガンに会わせてくれ…」
懇願だった。
無茶な願いだった。
今ナガンはヒーローではなく、ヴィランだ。
デクの命を狙っている。
それでも俺は、俺は―――
「っ…分かりました。でも一度だけです。一度、近づいて、それでもダメだったらあなたを避難させます」
「…ありがとう」
俺はデクに背負われる形となる。
子供に背負われるのだから、少し申し訳ない気がしたが、デクは「大丈夫です」と一言告げて、空中に飛び出した。
両腕から緑色の鞭を伸ばして、ビルとビルの合間を飛んで行く。
その間にもナガンの攻撃は止まない。
「…」
先ほどのナガンの言葉を思い出していた。
久しぶりの会話がまさか暴言だとは思わなかったけれど。
デクの言うとおりだ。俺の事を覚えておきながら、その銃口を俺に向けた。
変ってしまったんだろうか。タルタロスの中で彼女は何を考えていたのか。
ナガンと話がしたい。ナガンに会いたい。
俺は両手を強く握りしめた。
「!」
デクは銃弾を躱しながら確実にナガンとの距離を詰めていた。
気が付けばあっという間にナガンを視界に捉えていた。
「ここが、近づける限界です」
先ほどまで空中戦を繰り広げていたというのに、デクがそうしたのか、ナガンが自らなのかは分からないが、俺たちは地上に立っていた。
ナガンはこちらに銃口を向けている。
綺麗だったナガンの髪は、今では短くなり雨風に煽られながら揺れていた。それが少し寂しく感じてしまった。
デクにお礼を告げて、背中から降りる。
「ナガン、久ぶり…っ!」
けん制か。
俺の左肩を銃弾が貫く。
「お兄さん!!」
「デク!来るな!」
止めに入ろうとしたデクを制す。
今だけは、何者にも邪魔されたくはない。
「髪、短くなったね」
一歩、足を踏み出せば、今度は左足を貫かれる。
「俺、ナガンの長い髪が好きだったんだ…でも短いのも、似合いますね」
また一歩。
今度は右肩を。
「知ってる?最近めちゃくちゃ美味いクレープ屋さんが出来てさ、今度一緒に行きましょう?」
また一歩。
腹部を。
「っ…痛いな…痛いね…痛かったね、ナガン」
「っ!」
ナガンにもう少しで触れることができる。
俺はナガンに笑いかける。
「ナガン、よく頑張ったね」
銃声が一番大きく聞こえた気がした。
それもそのはず。銃弾は俺のこめかみを掠めていったのだ。
「お兄さんっ!限界です!」
「デク…来るなよ…邪魔するな…邪魔したら、俺は、お前を殺す」
「!」
口から血を吐き出した。
手が、足が震える。
それでもこんなものの痛みに比べたら、ナガンはもっと辛い目にあってきたんだ。大したことじゃない。
ナガンは今までずっと独りで戦ってきた。たった一人で暗闇の中を。
「竜之介…お前は…どうして…」
「独りでずっと頑張ってきたんだよね。色んな苦しいもの、辛いものを一人で抱えて。でも、今度は俺があなたの傍にいますから」
「…今更、何を」
「あなたの攻撃は全部致命傷を避けている。俺が幻滅するとでも思いましたか?何年あなたの事を待ってたと思ってるんです?こんな攻撃如きで俺の心は折れやしない」
「どうして!!!」
ナガンは、苦しそうな表情を浮かべながら、叫ぶ。
「どうして私を嫌いにならないんだ!私はお前を拒絶した!なのに!なんで!!」
「好きだからですよ」
「っ…」
「どうしようもなく、俺は、あなたの事が好きなんです」
だから、一緒に帰りましょう。
「私は…」
ナガンが何か言いかけた瞬間。
大きな爆発が起きた。