第5話 交差する悪意
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ある曇天の昼頃。
事務所にボク宛の電話がかかってきた。
誰からだろうと思い、ホークスからその電話を取り次ぐとそれはオールマイトからの電話だった。
オールマイトと言えばハイジャック事件以来。ナンバーワンがボクに何の用事だろうとさらに疑問が生まれる。
受話器越しのオールマイトの口調はいつもより少し重々しく感じた。
『アンジュ君、ハイジャック事件の時のヴィランを覚えているかい?』
「ええ。脳みそが飛び出してて…筋肉質で…」
『…』
受話器の向こう側は少し騒がしいように感じた。
オールマイトの他にも誰かいるのだろうか?
『至急、今から言う場所まで来て欲しい。ホークスには私から伝えよう』
「?…分かりました。代わりますね」
あの時のヴィランに何かあったのか。
ボクは再び受話器をホークスへ戻す。するとヘラヘラしていた彼の表情が少し強張った気がした。
笑っている、けど笑ってない。それを見てボクはすぐさま身支度をする。
これは何かあったな。急を要する、何かが。
光輪のストックは問題ない。体の方も。
ボクはまだホークスがオールマイトと電話しているのを見て、体のストレッチを始める。屈伸、肩回りを念入りに。
ホークスがメモにペンを走らせていたので、それを横から覗けばメモにはとある拘置所の名前だった。
「オールマイトさん、ウチの速達便が指定された場所へ向かいますよ。速さはこの俺のお墨付きなんで!」
ホークスがちらりとこちらを見た。ボクは親指をぐっと立てて、ホークスに口パクで「行ってきます」と伝える。
頷いたのを見てから、ボクは事務所の窓を開けてそこから飛び立ち、指定された場所へ急いで向かった。
*
拘置所についたボクは外で待っていた職員に案内され、建物の中に足を踏み入れる。
ここはかなり凶悪なヴィランが収容されているはず。現にボクも入念な検査を受けてから案内された。
厳重な扉を開けてその先へ進むと、一つの部屋にたどり着いた。
難しそうな機器類が部屋一面に敷き詰められ、何者かのバイタル管理、複数のモニター、それよりもさらに大きなモニターが一枚。そこにはボクが見たことのあるヴィランが映っていた。
恐らく監視カメラの映像だろう。
「っ!これ…福岡の時のヴィランに似てる…」
椅子に拘束されている人間。いや、人間なのか?
脳みそが飛び出していて、黒い筋肉質の体。
全く同じというわけではないが、似ている。
なんなんだこのヴィランは…?
ボクが唖然としていると、後ろから扉の開く音が。
「やっぱりそうか…」
「オールマイト!」
後ろを振り返れば、オールマイトともう一人、ボクの見知らぬ男性がいた。
あの雰囲気からなんとなくわかる。多分、この人警察官だ。
常に周りに気を張ってる感じや、ボクのことを品定めするような目つき。
訝しげに見ていたのがバレてしまったのか、男性はボクに笑いかける。
「初めまして、アンジュ。君の噂はかねがね。僕は警察をやっている、塚内という。」
「こんにちは!塚内さん。よろしくね」
塚内さんが手を差し出してきたので、ボクはそれを握り返した。
そこまでにこやかだった塚内さんは急に真剣な表情になる。
それにボクも少し姿勢を正した。
「早速で悪いが、本題に入らせてもらう。先日、雄英にヴィランが襲撃されたのは知っているかい?」
雄英高校の1年生がヴィランに襲われた。
それはあまりにも衝撃的なニュースだった。だってあのセキュリティ万全の学校がヴィラン如きに突破されることがあるなんて思ってもいなかったからだ。
ボクが知っている程度の内容は結局はニュースでしか情報を得られていない。
「ヴィラン連合を名乗る連中に襲われたって話ですけど、まさかモニターに映ってるのって…」
「ああ。オールマイトが倒し、ヴィラン連合が脳無と呼んでいたそうだ…それに、オールマイトが苦戦を強いられるほどの強さだった」
「!」
オールマイトの方を見ればいつもの笑顔はなく、歯を食いしばりながら拳を握りしめていた。
「悔しいが、この脳無は強かった」
「…オールマイト、でもボクが戦ったヴィランはオールマイトが苦戦するほどの力は持っていませんでしたよ」
ボクの長所はスピードであって、力では無い。
オールマイトが苦戦するほどならば、ボクはあの日、飛行機と共に福岡に墜落していただろう。
「恐らく、アンジュ君が戦った脳無は“もどき”で、これが完成体だとしたら…いや、まだこれさえも実験段階の可能性すらある」
オールマイトに近しい強さを持つ、脳無。
しかもボクが出会ったのが“もどき”であって、これが実験段階のように少しずつ野に放されていくとしたら…?
「ヴィラン連合は脳無を複数所持していて、今後出てくる脳無はさらに強さが上がっていくかもしれないってことですか…?」
「…だからこそ、早急にヴィラン連合を阻止しなければならない」
オールマイトはボクに手を差し伸べる。
「アンジュ君、単刀直入に言おう。君の力を貸して欲しい」
「ボクの…?」
「君の個性は非常に強い。君の光翼は悪意に敏感だからこそ、ヴィラン連合を捕まえる手掛かりとなれるはずだ」
「ですが、オールマイト。光翼は確かに悪意に反応します。けれどヴィランは大なり小なり息を潜めているわけですし、しかも全国規模となると探すのは不可能です」
「我々警察も一丸となって捜査するつもりだ。範囲を絞ったうえで、君に協力を仰ぎたい」
つまり、基本的な捜索は警察に任せて、ボクは最後のつなぎ役ということか。
「当面は我々も捜査に追われるだろう。それに福岡に再び脳無が出ないとは限らない。現状、脳無が姿を現したのは雄英と福岡のみということもあって、君にも警戒して巡回に当たってもらいたい」
なんだか予想していたことよりも話が壮大になってきたな…
まさかあの時の事件が未だに尾を引くとは思ってもいなかった。
「とりあえず現状ボクはいつも通り過ごせばいいってことですかね」
「ああ、それで構わない。何か情報を得たら連絡を頼みたい」
塚内さんから連絡先が書かれた名刺を渡される。
が、オールマイトがそれを先に取り上げて、ペンで何か書いていた。サインだろうか。
そんな事を考えていれば、書き終わったオールマイトから名刺を返される。
「塚内君と、私の連絡先だ。どちらでも構わない。何かあれば連絡を頼む」
「お任せください!」
あのオールマイトの連絡先をゲットできるなんて、不謹慎だが少し嬉しかった。
ボクは名刺をポケットに入れてから再びモニターに映る脳無を見ていた。
人間のようで人間とはかけ離れた姿をしている、何か。
脳無を作ったのか、そういう個性だったのか、まだ分からないけど。
そんな第三者がいたとしたら。
それは常軌を逸した怪物なんじゃないかな。