第4話 “わざと”
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「太陽がいい感じ~!」
空を見上げて、うんと上でを伸ばした。
待ちゆく人たちの中にはちらほら日傘を差している人が見受けられる。
太陽の日差しが強ければ強いほど、ボクの調子はうなぎ上りで、逆に太陽の日差しが弱いときは調子がイマイチなことが多い。
それも全て光輪でカバーしているけれど。
「…」
すれ違う人々は、楽しそうに会話をしていたり、忙しなく仕事に向かう人だったり、恋人と、友人と、この街を行き交う。
平和な日常そのものがそこにあった。ごく当たり前の、ごくありふれた日常。
でもボク達ヒーローは常に非日常の世界に身を投じている。だからこそ、このつかの間の平和がどれだけ重要なことなのか、あらためてひしひしとこの身に感じる。
「…平和、だね」
ボクは
この光が守るべき人たちを照らし続けていけばいくほど、闇もまたその力を強めるのではないのだろうか。
その闇が、ボクを飲み込まないとは限らない。
その時ボクは一体どうしたらいいのだろうか。
「だめだ…休暇の時くらいは考えるのをやめよう…」
ふるふると顔を振った。
せっかくの休暇なんだ。好きなことをして、休んで、次の任務のために英気を養おう。
ボクはこの街で1番大きなショッピングモールへ足を向けた。
***
買い物も済ませたあと、近くの河川敷まで歩いていくと芝の上に寝転がって日光浴をしていた。
気持ち良いそよ風と、温かい太陽の日差しがボクを眠りに誘うのにはそう時間がかからなかった。
うとうと、と。
下の方では子供たちが遊んでいる声が。時折自転車が通る音だったり、歩く人の足音が心地よいBGMとなっていた。
「おい!大丈夫か!?」
「!?」
あともう一歩で完全に夢の中へ落ちる所だったのに、突如真上から聞こえてきた怒号に慌ててその身を起こした。
そこには。
「フレイムヒーロー…エンデヴァー…!?」
ヒーローコスチュームに身をまとっており、その身から轟々と炎を絶やすことなく燃やし続けていた。
突然の来訪者に、ボクは唖然とする。
「こんな所で何をしていた!」
「えっ……日光浴…」
「日光浴だと!?紛らわしい…」
「…」
ああ、なるほど。
エンデヴァーはボクが倒れていると思って声をかけてきてくれたのか。
だがエンデヴァーは咳払いをして、1枚の紙を差し出した。
「失礼した。元気なら何よりだ。所でお嬢さん、ついでにここの場所を知っているか?」
「ああ…すぐそこですよ。奥まっていて普通に行くと通り過ぎちゃうんですよね。案内します」
そこには地図が書かれており、すぐ近くということもあったのでエンデヴァーを送ることに。
体に着いた葉っぱを払い、買い物袋を手にして河川敷を後にする。
地図によるとオフィス街の近くだった。5分ほどで到着するだろう。
「…」
福岡に何しに来たんだろ。
ちらりと横目で見れば、さすがはNo.2ヒーロー。
隣に立っているだけで圧倒されてしまう。
ボクとの身長差も相まってこれじゃあ子供と大人だ。
エンデヴァーにタイマンなんて申し込んだら片手でひねり潰されてしまいそう。
それにしてもかなりレアな光景かもしれない。
あのエンデヴァーとこうして肩を並べて歩く日が来るとは…。サインだけでも貰っておこうかな…。いやエンデヴァーだし、多分断られる。
オフィス街に足を踏み入れたことによって、先ほどよりも人々の往来が激しくなる。それゆえに、エンデヴァーの存在はより注目を集めることとなった。
「エンデヴァーだ!」
「No.2じゃんかよ…すっげ…」
「写真撮らせてもらえないかな!?」
当の本人はあっけらかんとしているというか、なんというか。
そんな声援もまるで耳に届いていないといわんばかりに、無視を決め込んでいる。
何か急ぎの用事でもあるのだろうか。それとも元々こういう人なのか。
「…えっ」
ボクは気配を感じて路地裏の方に視線を向けた。
少し見えにくいが、路地裏のその奥に。
ホークスと一人の女性が何やら話をしている。
それだけならまだよかった。
ボクは、多分。
見てはいけないものを、見てしまったんだ。
「―――…」
ホークスは笑いかけながら女性に近づいて、その頬に口づけを落とす。
それから愛おしそうに女性を抱きしめた。
彼女、いたんだ。
ボク…てっきり、いないものばかりだと。
「どうかしたか?」
歩みの止まったボクを不審に思ったのか、エンデヴァーが声をかけ、ハッと我に返った。
ぐるぐると思考が定まらない。
あれは誰なんだろう。彼女?いやいや、待て待て落ち着け冷静になれ。
ホークスの事だ。任務でハニトラを使う手があってもおかしくない。そもそもあのビジュだ。使わない手はないだろう。あれ?男の人の場合ってハニトラとは言わないんだっけ?まあいいや。
こういう時こそ深呼吸。
ボクは胸を押さえて大きく息を吸って、吐き出した。
よし、落ち着いた。
いかなる時も冷静な判断ができてこそのヒーローだ。
「ごめんなさい。知人がいたかと思って、でも。人違いでした。行きましょう」
にこり、と笑ってボクは再び歩みを進める。
もう二度と路地裏へと視線を向けることはしなかった。