第3話 任務のために
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ホークスside
アンジュちゃんのイヤホンが破壊されてから、俺はすぐさま現場へと向かった。
深い夜が訪れている街中を飛んでいると、目的のホテルの一室から眩い光が弾けた。
間違いない。あそこにアンジュちゃんがいる。
だけど俺はホテルの部屋が見える隣接のビルの屋上へ止まった。
本来ならばここで救けに入らなければならない。
だけど俺はそれをあえてする事無く、アンジュちゃんを見定めなければならなかった。
この後彼女がどうなるかなんて、分かり切っていたのに。
「クソッ…」
案の定、アンジュちゃんは男たちによって袋叩きにされている。
とんだ任務を請け負ってしまったものだと、後悔しても既に事は運んでしまっている。
公安からの依頼。それは今回の事件とはまた別件の―――。
「!」
アンジュちゃんは最後まで必死に抵抗し、やがて自身の個性によって男たちを捕縛した。
どうやったかまではここからだとさすがに見えない。
俺はやっとの思いでビルから飛び立ち、剛剣を使って窓ガラスを叩き切った。
後始末なんて後から来る公安の職員にでも任せればいい。何よりもアンジュちゃんの身が第一だ。
…俺には心配する資格さえないけど。
「ホークス…?」
か弱い声から漏れた、俺の名前を呼ぶ声。
その声から心配そうな様子が伺える。大丈夫だよ、と声をかけてあげたいが、今はそんな余裕はなかった。
ただただ、アンジュちゃんを抱きしめることしかできない。
顔中傷だらけで腫れあがった顔。今も止まることなく鼻血が滴り落ちている。
俺のせいで、彼女をキズモノにしてしまった。
一歩間違えれば女性としての尊厳すら奪ってしまうところだったのに。
「イヤホン壊れて…スマホもどっかいっちゃって…連絡、困ってたんですよ。ナイスタイミングでした」
「…タイミング、全然良くねぇよ」
「えっ」
自身への苛立ちが、言葉に乗って出てしまう。
アンジュちゃんは何も悪くない。
「ごめん、アンジュちゃん。俺のせいで…こんなに…」
「いや、ホークスは謝ることないですよ。そもそも今回の任務はボクが囮になる話でしたし、多少怪我の一つや二つや三つや…」
「…この人たち、光翼が生えてるってことは、もしかして…」
「はい!DNA摂取させてやりました!」
「!」
「触れる、程度ならここまでにはならないんですけどね」
平然とそんなことを言って見せるから、俺はさらに苛立ちを覚えた。
やはり、俺の思った通りになってしまったか。君も女の子なら、少しは気にしてほしい。こんなことなら俺が先に―――。
でもきっとアンジュちゃんはどんな状況であろうとも、自身を犠牲にしてでも、勝つためには何でもしてしまうんだろう。それが君の個性だから。
「いだだだだ!!ボク、これでも怪我凄いんですから!加減して…いだだだ!」
「…本当にごめん」
「…そんな顔されたら、ボクも悲しくなってしまいます。とにかく帰りましょう。ボク達の事務所へ」
アンジュちゃんを見れば、たったの布切れ一枚しか身に着けておらず、先ほどまで着ていたであろう衣類は、無残にも切り裂かれて床に捨てられていた。
それを見て、思わず顔をしかめた。
このままではあまりにも不憫だ。せめて、俺の上着をアンジュちゃんに羽織らせる。
「…アンジュちゃん」
「はい?」
「この先、もしかしたら今日みたいな、いや、今日以上に君に危険が及ぶかもしれない。酷いこともたくさん経験するかもしれない。それでも、それでも…俺についてきてくれる?」
「…」
きっと。今後も。
俺はアンジュちゃんを簡単に見捨てるだろう。
本当に俺はずるい男だと思う。
自分の心の安寧のために、アンジュちゃんがどう答えるかなんて分かりきっているのに。
それでもアンジュちゃんから「大丈夫」だと答えを貰いたくて。
アンジュちゃんは俺の顔を掴むと、強引に視線を合わせた。
大きなその瞳に、吸い込まれしまいそうで。
正直、アンジュちゃんの目は苦手だ。まるで純真無垢。まるで天使そのもののような、穢れを知らない瞳。
「ホークス。この怪我はボク自身の弱さの証拠です。あなたが責任を感じることはないんですよ。…げほっ」
「アンジュちゃん!?」
「だ、大丈夫です。とにかく、ボクはもう子供じゃないので、社会人として、ヒーローとしての責務を全うするためにここにいます。今更逃げることなんてしません。死んでもあなたについていきますから!」
「…」
どこまでも。
本当にどこまでもアンジュちゃんは優しい。
だから、俺はその優しさに付け込む。
―――任務のために。
「帰りましょう、ホークス」
「そうだね」
ただ俺は笑って答えることしかできなかった。