第3話 任務のために
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まず今回の任務においてボクがすべきことは”VIPルーム”に入り込み、特別な接待とやらを受けて、証拠が出そろい次第ホークスに連絡すること。
事前に夜の街のアレコレについて調べてきたが、いわゆるボクは初回にあたる人間になるそうだ。
ホストクラブにおいて、推し、即ち担当が決まっていない客に対して比較的良心的(か、どうかはさておき)な金額で気になったホストを順番に呼ぶことができるそうだ。
一応ホークスから軍資金は得ている。この鞄に入っている現金凡そ1000万。
あまりの大金に足がガクガク震えてしまう。これ、本当に使っていいの?とホークスに尋ねれば、今回の任務は短期戦だから、どれだけボクが太客かどうかを示せることが、VIPルームに招待されるかどうかが鍵になるそうだ。
だから衣装もメイクもバッチリ気合を入れてきた。
清楚系というより派手で遊び好きな女を演出するために、全体的なメイクは濃い目に、あざとさも狙ってアイシャドウやリップなどはピンクを。髪は丁寧に巻き上げ、下ろしてある。
ネックレスはブランド物の小さなダイヤモンドを胸元で光らせ、ピアスはホークスから貰ったものをそのままに。
服装は正解か分からないけど、キャバ嬢御用達の通販サイトで購入したランキング1位の白いワンピース。ランキング1位買っておけば大丈夫って友達が言ってた。ワンピースは大胆にも胸元と背中が大きくはだけている。かといって露出が多すぎるのもボク的にはあまりよろしくなかったので、透け感のある丈が短めの上着を。靴は厚底のヒール。
ボクの大事なアイデンテティともいえる輪っかは、小さな帽子タイプのヘッドドレスに頑張って押し込んで収納した。
「…っ」
目の間に佇むホストクラブは夜の蝶たちを誘わんと、爛々と輝きを放っている。
思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。そんな事をしているうちに、同伴であろう客達が店内へとホスト共に吸い込まれ行く。
舞台は克服したとはいえ、ボクの苦手分野である”夜”
そしてその”夜”を相手に仕事をこなす人間たち。
彼らの独壇場ともいえよう。
念のためホークスからワイヤレスイヤホンを預かっており、すぐに連絡を取ることが可能。基本的に行動中はボクの会話をホークスに聞かれているだけなのだが。
それでも不安がないかと聞かれればウソになる。
それでもボクはもう学生じゃないんだ。今ではあのホークスのサイドキックなんだ。
震える足を叱咤して、ボクは覚悟を決めて店内へと足を踏み入れた。
「わあ…」
店内へと足を踏み入れると、そこはまさに絢爛豪華な装飾品が施された非日常の空間。
あちこちから高そうな名前の酒を注文する声が飛び交っている。非常に賑やかだった。
気圧されたのが半分と、少し楽しそうな雰囲気にワクワクしてしまった半分で、つい任務の事を忘れてしまいそうになった。
だが、楽しそうな反面、良く出来ていると思った。輝きを身にまとったハリボテには変わりなく、実際には男と女の痴情のもつれ、綺麗とは言い難い大金が一晩で舞い散る場所なのだ。
「初めまして、お姫様」
「…」
受付で声をかけられて、一瞬呆けてしまうも、それが自分の事を指すことに気づいて慌てて返事を返す。
「初回の方ですか?失礼ですが身分証明書のご提示をお願いします」
「はい」
提示するのはヒーロー免許、ではなく普通の自動車免許の方。
こちらにはただのボクの個人情報しか書かれていないので、問題ないだろう(多分)
使うか分からないけど、卒業と共に自動車免許も念のため取っておいたのだ。
「ご提示ありがとうございます。それではご案内いたします」
と、奥からスーツに身をまとった男性が現れ、席まで案内される。
そこからは初回の説明を簡単に受け、タッチパネルで好きなホストを選ぶとのことだったが、ボクは説明をしてくれたホストに向け、言い放った。
「…私、男なんてどれでもいいのよ。金ならいくらでもあるの」
できるだけ高飛車で、傲慢なお嬢様を演じる。
鞄をひっくり返して机に大金をぶちまけた。
その姿に男性は目を丸くし、大金とボクを交互に見ていた。
「ここで一番高い酒を持ってきてちょうだい。つまらない対応なんてされたら、この金は燃やしてその辺の川にでも捨てるわ」
「しょ、少々お待ちくださいっ」
ホストは慌てて店の奥へと消えていった。
イヤホンの奥でホークスが笑っていたような気がしたが、気にしないことに。
数分もすれば奥からまた別のホストが。明らかに先ほどのホストとは風格が違う。
すっと膝を折ってボクの前にしゃがむと、彼は名刺を手渡してきた。
「ホストクラブ『DDD』代表のシヅルと申します。部下の者がとんだ失礼を…只今お席のご移動をさせていただきます。よろしければ」
ホストのシヅル、さんはにこり、と笑ってボクに左腕を差し出してきた。
エスコートしてくれる、ということだろうか。
ボクは慣れない手つきでシヅルさんの腕をとると、そのまま店の奥に案内された。
そこには黒と金色で装飾された扉があり、中を開ければ立派な個室―――ボクはすぐに察した。
ここがVIPルームだと。
あまりにも事がトントン拍子で進むものだから、警戒を強めておく必要があるかもしれない。
お金置いてきて大丈夫かなぁと余計な心配していれば、別のホストが高そうなプレートの上に、綺麗に積みなおされた札束をボクの横に置いていった。
シヅルさんはさも当然かのようにボクの隣に座り込むなり、ボクの手をそっと握りしめた。
反射的に手が引っ込みそうになったが今日のボクは男遊びの激しいお嬢様なのだ。ここで引いてはいけない。
「まずは飲み物を決めましょう。何を飲まれますか?」
「…そうね。まずは軽いものから飲もうかしら」
「かしこまりました」
シヅルさんは近くにあった黒いケースを手に取ると、慣れた手つきで何かを書き込んでそれを扉の前で控えていたホストに手渡した。
見た目は優しそうな好青年、だけど目の奥にはとても強い野心が隠れているような気がした。
「姫の名前を聞いても?」
「光羽」
「光羽さんって言うんですね。長い事ここでホストをやっていますが、あなたのような美しい人と出会たのは生まれて初めてです」
そりゃドーモ。
「初回と聞いていましたが、他のホストクラブにも足を運んだことが?」
「え、ええ。勿論。ただ他の店は私の金を出すほど大した店ではなかったわ。ここもそうでないといいけど」
「勿論。光羽さんには間違いなくご満足いただけるかと」
他愛もない雑談をしていると、お酒が運ばれてくる。
シヅルさんは慣れた様子でそれをグラスに開け、ボクに差し出す。
「光羽さんとの出会いに乾杯」
「…乾杯」
最初の一杯はさすがに飲まないと怪しまれるだろう。
ボクはグラスの中のお酒を口に含んで、飲み込んだ。
口の中で炭酸がはじけて、お酒特有の苦みが口いっぱいに広がっていった。
シヅルさんはにこにことグラスに口をつけずにこちらを見ている。
彼は、何を、待っているんだ?
「…」
「どうしました?」
「っ!」
―――やられた。
と、察するには既に遅く、ぐらりと視界が揺れてあっという間に意識が飛んで行ってしまったのだった。