Vol.26
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「―――っ!!!」
いつの間にか背後に回り込んでいたヴィラン。
どばっと全身から冷や汗が湧き出た。
水中にいるというのにも関わらず、汗が止まらないという感覚。
手足が震え、心が恐怖に支配される。
右腕を見れば、そこにはちゃんと腕があった。
私は、そのヴィランに気圧されたのだ。
その殺気に。
心の底からの、殺意に。
だから私は錯覚してしまった。
体が本能的に次に起こりうることを想像してしまった。
目の前にいる、鮫のヴィランに喰われると、錯覚してしまった。
だから、今すぐにこの場を離れなければならない。
「俺の一睨みだけで委縮する程度か…ニシキがこんなガキにやられるとは到底思えないが…油断したのか、バカな奴め」
ニシキ、とは私が掴んでいるこのヴィランの事だろうか。
私は構わずヴィランを手放し、逃げ出した。
水中では勝ち目がないと察知した。
プールサイドに上がり込み、震える体を叱咤した。
「テメェの相手はこの俺だろうが…!!」
相澤先生は咄嗟に捕縛武器を飛ばし、ヴィランを捕まえようとするが、とぷん、と水中に潜り込んでしまった。
「柳崎!救助者を連れて逃げろ!」
「っ、はいっ!」
震える足を何度もたたいて、ようやく立ち上がる。
お母さんは私から反対側の位置に倒れていた。
動いている様子がない。まずい、急がなければ。
お母さんを救けなきゃ
相澤先生を救けなきゃ
ぐるぐると志向が巡る。
真っすぐ走っているはずなのに、体が浮いているような錯覚に陥る。
力が入らない。どうして、どうして!
ヴィランと対峙することは今までにも何度もあったことだ。
あのサメのヴィランに気圧されてしまったから?お母さんに動揺した?
「大丈夫ですか!?今助けます!!」
「っ……春斗どこにいるの…」
お母さんのもとへ駆けつけ、声をかけるも。
その目を見るからに意識が混濁し、光を失いつつある。
背中からじわりと赤い血が染み出している。呼吸も大分早い。
早く止血をしなければ。
お母さんを抱えようとしたとき。
口元だけが僅かに動いた。
「……ぁ…」
恐らくお母さんの意識は朦朧としている。
だからこれは―――
「………由紀」
何かの、間違いなんだ。
何もかもが偶然で。
その虚ろな瞳はこちらを見ていない。
ああ、何もかもが間違いだらけのこの世界に。
何度も悲嘆して、逃げ出して、私は。
私が大嫌いで。
愛情に包まれた、家族という形がとても羨ましかった。
幸せだったかと聞かれれば、手放しで頷けるほどの物でもなかった。
「………今だけ、許して」
私は自然とその言葉が震える唇から零れた。
親は子を愛し子は親を愛す。
そういう形に世界は出来ている。
でもこの世界は間違いだらけの、欠落品。
全てがそういう形になるわけではない。
でもその遺伝子に刻まれた因果が呼応する。
懐かしい声でその名を呼ばれたならば。
必然と呼応し、欠けていた世界にピースが埋まるのだった。
「お母さんッッ…!!!!」