Vol.26
夢小説設定
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水を蹴り、沈んでいくその人目がけて手を伸ばす。
水中にいたはずの魚たちは姿を消し、溢れる空気の泡が小さく上へ登っていく。
母は僅かな意識でぼんやりとこちらに手を伸ばしている。
自力で上がれないほど、怪我を負っているのだろう。
血が辺りに広がっている。急がなくては。
母の腕を捕らえると、腰を抱えて水面に上昇。
「…」
水中でこの力をまともに使うのはあの時以来だが、やはりこの個性は便利だ。
姿こそ西洋の竜を模しているようにも見えたが、水と竜との組み合わせなんて日本の昔話の様だ。
この力は水の中でこそ本領を発揮するならば。はたしてそんな万能な力だけで済む話なのだろうか。
足の怪我も体の軋みも海水ならば回復する―――
なんの、代償も無しに、そんな万能な力が?
……いいや、今は考えるのは良そう。
非常事態に余計なことを考えてる場合じゃない。
水を数回蹴って、水面へと顔を出す。
母は意識を取り戻し、咽ながら何度も空気を吸い込んでいた。
「げほっ、げほっ…」
「大丈夫です、安心してください」
「あ、あなたはさっきの―――」
母は私の姿を目に捉えると、ぽつりと言葉を零した。
「…どこかで会ったこと、あるかしら?」
「っ」
ぐっと唇を噛む。
刺すような痛みと共に、口の中にじわりと血の味が広がる。
が、構わずにステージとは離れた場所まで移動し、安全な物陰のある場所へ。
母の腰を持ち上げて、水中から陸に持ち上げた。
母はごろん、と床に横たわる。
「痛っ…」
「どこを怪我してますか!?」
「せ、背中が…痛い…」
「今私もそちらに上がって手当てを―――!!」
水中から上がろうと両手に力を入れた瞬間。
ぐんっ、と力強い何かに足を引っ張られ、水中へ再び沈み込む。
「お前、何者だ」
「ヴィラン…!?もう一人…!!」
最悪だ。
状況判断を怠ったか。
恐らく私は相澤先生と対峙しているヴィランにしか意識が向いてなかった。
本当はどこかにもう一人のヴィランが潜んでいたのだろう。
魚人のような顔のヴィランは、私の足に爪を立てて水中の奥へ、奥へと引きずり込む。
「ガキがこんなところで…俺らの計画を邪魔すんじゃねぇよ」
「…」
まだ、このヴィランに私の個性はバレていない。
一般人なら長く水中にいるだけで溺れるというのに、私に溺死という概念は存在しない。
だからこそ、油断している今のうちに―――!!!
「ハーフフォルム…70%…!」
「!」
右腕を竜化させ、水圧など全く無意味に全身の力を込めてヴィランの顔面を殴り飛ばした。
唐突の不意打ちにヴィランは成す術もなく、意識を失う。
ギザギザした魚特有の歯が何本か折れて水中に流れていったが、ざまぁみろってんだ。
ヴィランの腕を掴んで、水中から再び顔を出した。
とにかくこのヴィランが目を覚ます前に縛り付けないと…。
「―――小娘如きが」
「え…」
ばくんっ。
と。
右腕が―――持ってかれた?
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