Vol.27
夢小説設定
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気が付けば、私の足はA組に向かっていた。
ただ、なんとなく。この教室に戻りたかっただけ。
既に教室には誰もいない。私一人だけだった。丁度いい。
自分の席に腰かけて、窓の外を眺める。
「…」
夕暮れ時の、オレンジの空。
普通科の教室から見た景色と何ら変わらない。
でも”私たち”は変わっていく。
変わり続ける生き物だから。
良くも、悪くも。
「何してんだ、柳崎」
「相澤先生…」
いつの間にか、相澤先生が私の傍に立っていた。
ずっと窓の外を眺めていたから、先生が来ていることに気が付かなかった。
「少し、考え事をしていました」
「また変なこと考えてないだろうな」
「はは、もう大丈夫です。二度とあんな真似はしません。なぜって?相澤先生がいるからですよ」
冗談っぽく、オールマイトの台詞を真似してみれば、相澤先生は少しだけ笑った。
「個性が制御できなくて、普通科にいた私を拾ってくれた相澤先生には感謝してます。ついこの間まで何も出来なかったのに、気が付けばここまで来ることができました」
「お前の努力の賜物だろ。それに、これはまだスタートラインだ」
「そうですね。それに…私は仲間に恵まれました」
私一人では、きっと何もできなかった。
雄英に来れて本当に良かった。
「柳崎、なんかあったのか?」
「え?」
相澤先生は私の前の席の椅子を引くと、そのまま私と向かい合わせになる形で座った。
背もたれの部分に腕をのせながらじっと私の目を見つめる。
「あれだけ柳崎の暴走を見てきたら、お陰様で柳崎の表情一つで変化に気づくようになったよ」
「あ、ははは…何も言えませんね…」
「何かあったのか?」
「…私一人の人間が、誰かの道を照らせるような存在になれていたことが、嬉しくて。自分の事しか考えずに、がむしゃらに走ってきただけだったのに…」
「それでもその誰かにとってはきっと柳崎の姿が光になっていたんだろ」
「本当に、救われたのはどっちだっていう話なんですけどね…ありがたいことですけど」
相澤先生は、穏やかに笑った。
その笑顔はとても素敵だと、思った。
「…私、もっと早く生まれてたらよかったなぁって思うんですよ」
「なぜだ」
「相澤先生と一緒に授業を受けられたのにな、って」
「!」
「教卓と、この席の距離感じゃなくて、こうやって今みたいに近い距離間で、同級生だったらどれほど良かったのかなって、思っちゃうんですよ」
「…」
「私は最近我儘になったなぁって…一つ願いが叶えば、また別の願いを叶えようとする…欲張りです」
「今度はどんな無茶な願いをご所望で?」
私は少し目を伏せて、それから相澤先生を見た。
「相澤先生と…対等になりたいと、思いました」
対等になりたい。
教師と生徒ではなく、お互いが一人の人間として。
その言葉の真意を先生がどう捉えるかは分からない。
ただ、なんとなく自然と思ったんだ。
「対等になってどうするつもりだ」
「えっ」
予想外の返答に、思わず固まってしまう。
どう…すると言われても…
「とりあえず…先生にタメ口しますかね。あと呼び捨てとか、あだ名とかつけたり…?」
「例えば?」
相澤先生は腕に顔を乗せながら、目を伏せている。それから少しだけ笑っているようにも見えた。
その姿はまるで穏やかなBGMでも聞きながら、家で寛いでいるかのようだった。
思いの外、ぐいぐいと質問してくるものだから私も困ってしまう。
「うーん、抹消ヒーローと先生の下の名前からとって…消君、とか…?」
「センス無いな」
「酷いですね…聞いたのそっちじゃないですか…」
「俺と同級生になってあだ名付けて終わりか?」
「あ、やりたいことありますよ。体育祭で思いっきり先生と戦ってみたいですし、授業の中で一緒に切磋琢磨するのとかめちゃくちゃアオハルじゃないですか。それに将来は先生のサイドキックなんてのもありですね」
「それは贅沢なサイドキックだな」
「そうですか?そりゃまあ相澤先生の所で働けたら贅沢かもしれませんが…」
「いや、柳崎の個性が俺のような所で腐らせるのは贅沢すぎる。勿体ないんだ、柳崎の個性は」
「そこまで言ってもらえるとは……まあ選択肢の一つと言いますか、もしもの話というか…それに私は今は別の目標がありますし…」
「目標?」
「はい。私卒業後は、事務所を立ち上げようかなと思ってまして。私はこの個性で本当に苦労しました。本当に」
「お前が言うと重みが違うな」
「ヒーローとヴィラン、光と闇。私はその二つの中間に足を突っ込もうかと思っています。あ、私がヴィランになるって話じゃないですよ?アッ、アッ、もうしませんってそんな目で見ないでくださいその節は大変ご迷惑をおかけしました」
「冗談だよ」
目が怖すぎるよ先生。
「…話を戻しますね。個性の希少価値によってその体を好き勝手弄ばれる者、人生を捻じ曲げられる者、望んでその個性を得たわけでもないのに周囲から蔑まれる者…そんな人達を救け、人生を真っすぐ歩いていけるように援助する…そんなヒーローになりたいと思いました」
「それはかなり辛い仕事だぞ。救けた側からも攻撃を受ける可能性だってある。間違いなく一筋縄じゃ行かない上に、大抵そういう事件に巻き込まれている人たちは、”裏”と関わってることが多い。俺たちよりも、より、さらに深淵に足を突っ込むのか」
「そうですね。私自身が経験したのでそれは分かってるつもりです。心も体も何度も傷つき、すり減るかもしれません。私も正直不安です。でも私が今ここにいられるのは、真っすぐ歩いていけるように手を差し伸べてくれた人達がいてくれたからなんですよ。たった、たったそれだけの事で私の世界は反転しました」
「…俺は賛同できないな」
「誰かがやらないといけないことなんです。それがヒーローってものじゃないんですか?」
「…」
「それにそもそも相澤先生はアングラ系じゃないですか。寧ろ相談に乗ってくれやすいと思ってましたよ」
「だからこそ、だ」
相澤先生は顔を上げて、窓の外に視線を送る。
「あんな所、柳崎が見ていい場所じゃない。それにお前は個性が花形だ。柳崎が嫌じゃなければ世間から称賛され、日の下で活躍するべきだ」
「…そんな事いうの、珍しいですね」
「誰よりも俺が柳崎を見てきたからだ」
思わず。
その言葉に驚いて全身が竜化してしまった。
「!?」
「…ッスー…っくりしたー…」
「いや、驚いたのはこっちの台詞だ。急にどうした」
姿を元に戻して、パタパタと両手で顔を仰ぐ。
なぜだ。顔が熱い。それに心臓がばくばく脈打っている。明らかに体中の血液が過激なシャトルランを始めている。
「いや、えっ、いや、な、なんででしょうね!?」
「俺に聞かれてもな…」
心臓に手を当てて、落ち着け、落ち着けと念じてみるも、それが無駄だということに気づくのは遅くはなかった。
「とは言っても最終的に決めるのはお前だ。あくまで俺はお前がどうありたいかサポートする側だしな」
「…」
「どうした?」
「…私、相澤先生がいないとだめかもしれません」
「は?」
「こうして将来の事を考えてもやっぱり息詰まることはあるし、先生の言葉一つでさらに道が開けるような、そんな気がして」
「子供は大人を存分に頼れ。特に柳崎はな。だが一人前になったら一人で歩かなきゃいけない。それを自覚しておけ」
「結構さっきから何度も釘差しますね!?もう反省してますってば」
「お前反論できるとおもってるのか「ごめんなさい。できません」
相澤先生の仰ることに異論はアリマセン
「…最初はこんな個性嫌いだったんですけど、でも今はこの個性で良かったなって思てます」
この個性だったからこそ、相澤先生に見てもらえて、前に進めて、今の私がある。
「俺は好きだよ」
「…はい?」
「柳崎の個性」
「……あ、ああ!ですよね!そうですよね!」
「さっきからどうした?」
「なんでもないです!!気にしないでください!!」
いつからだろう。
先生の言葉一つ一つが、私の心にすっと入ってくるようになったのは。
先生に褒められたい。
先生ともっと話をしていたい。
先生と一緒にいたい。
そう思うようになってしまった。
心臓が、うるさく跳ねる。
私はそんな理由のためにヒーロー科に来たわけじゃないのに。
こんな気持ちは、邪魔だ。
「柳崎?」
「先生、私が卒業するまで…もっと私の事を見ていてください。今よりも、もっと。最高のヒーローになってみせますから」
「…分かった」
ちゃんと笑えてただろうか。
先生にこの気持ちを気づかれてはいけない。
伝えてはいけない。
苦しくて切なくて、それでいて先生といると心が満たされるこの気持ちに名前があるなら
きっとその名前は。
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