Vol.27
夢小説設定
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放課後。
私は久しぶりに普通科の教室へ足を運んでいた。
がらり、と扉を開ければ心操君一人が自身の机に座って外を眺めている。
夕方の日が沈みかけ、オレンジ色の光が教室全体を満たしていた。
心操君。と声を掛けようとしたときに、被せるようにして先に彼が言葉を紡ぐ。
「もう、色々大丈夫なのか?」
「…うん!もう、大丈夫だよ」
「そっか」
心操君は全ての事情を知っているわけではなかった。
それでも何も聞かずに、ただ私の身を案じていくれていたのだ。
「由紀、ありがとな」
「急にどうしたのさ」
「由紀からたくさんのものを貰った。俺もいつまでも誰かの背中を眺めて勝手に自分に落胆してる場合じゃない」
「…」
「俺も、由紀を追いかけるよ。立ち止まるのはもう止めだ」
「!」
「由紀がボロボロになるたびに自分の無力さを恨んだ。俺の個性なら由紀を止めることができたけど、空を飛ぼうとする竜を俺如きが縛れるはずがないんだ。実際に、個性を使うのを何度も躊躇った。でも、俺が止めても由紀は行くんだろ?」
「そうだね」
「はは、即答かよ」
心操君は手で首元を抑え、視線を逸らした。
これは彼の癖だ。
「由紀が放課後に相澤先生と補習をして、必死に努力してて…でもそれは由紀自身の事を何も顧みていないから、俺はそれがすごく怖かった。日に日に増える生傷がたまらなく嫌だった。自分を大事にしない由紀が、怖かった」
たくさん怪我をした。
たくさん迷惑をかけた。
それは私一人の問題じゃなくて。
「でもそれでも前に進む由紀は…酷く眩しかったよ」
「…」
「いつか一緒に帰った帰り道、由紀に抱えてもらって空飛んだ時、ヴィランに襲われてそれどころじゃないはずなんだけどさ…正直めちゃくちゃワクワクした。由紀の見えてる世界はこんなにも広くて、どきどきするものなのかって。気が付けば俺は、」
心操君は徐に立ち上がって、私の事を見据えた。
それから困ったように笑いながら、告げる。
「柳崎由紀から目を離せなくなっていた」
真剣な瞳に吸い込まれてしまいそうで。
紫色の瞳がきらきらと夕日に反射して、とても美しいと。思った。
「限界は自分で決めたらそこまでなんだと、理解した。由紀がいつも”さらに向こうへ”走り続ける姿を見て、限界なんて簡単に突破できると教えてくれた」
「……意外と、大変だけどね」
私たちはお互いに笑いあった。
「走り続けるその道が過酷なものでも、由紀に比べたらなんてことないさ」
「そんなことないよ」
「由紀に言わなきゃいけないことが、あってさ」
心操君は手を伸ばして、私の顔に添える。
緊張しているのだろうか。手のひらから彼の熱が伝わり、そのまま鼓動まで聞こえてきそうだった。
「柳崎由紀は俺にとっての最高のヒーローだ」
はにかんで笑う心操君に、なぜだか目頭が熱くなってしまった。
ぎゅっと心臓が掴まれて苦しくて、でもその原因が分からなくて。
「もう一度、俺にヒーローを目指したいと思うきっかけを与えてくれた。何度も俺を救ってくれた。本当に、何度も、何度も。由紀がいなかったらこのまま普通科で燻っていただけだったかもしれない」
「…君の、力になれていたなら本当に良かったって思うよ」
何度も心操君を巻き込んで振り回してしまったけど。
心の底から笑う心操君を見て、少しだけ涙が零れ落ちた。心操君はそのまま添えてた手でその涙を掬ってから、手を離した。
しばらくの間静かな沈黙が流れるが、それは決して気まずいものではなく、心地よいものだと思えた。
「…これは、まだ未来の話だけど」
「…?」
「私、将来的に事務所構えたいと思ってるんだ。そこで私みたいな……異形型に対する差別とか…そういうのを少しでも減らせるような活動をしたいと思ってる。でもそれって常に危険が伴うし、私の言葉が届かない人もいる。だから無理やり、とかじゃなくて一時的に抑制するために。私の力が及ばないことが絶対あるはず。その時に心操君が私と一緒に活動してくれたらいいなって思ってた」
「!」
「でもそれはかなり辛い道になるのは間違いないんだけどね。色々経験してきてずっと考えてたんだ。ヒーローになったその先は、私は何がしたいんだろうかって」
悪役だとか、力が制御できないからとか。
相澤先生に補習をつけてもらったりとか。
私はただ今、目の前にあるものに必死になっていただけだったんだ。
やっと落ち着いて、少し深呼吸をして歩いてきた道を少しだけ振り返って。
私はもう何かを引きずって歩くようなことはしなくていい。胸を張って未来へと進むことができるんだ。
だから、未来の事を考えていかなければならない。
今の私だからこそ。何が出来るのか。
「だからさ、待ってるよ。心操君がヒーロー科に来るのを」
「…光栄だよ、本当に」
そういって、心操君は照れくさそうに笑った。
「ヒーロー科を卒業するときに、答えを聞かせてね」
「…勿論」
普通科の教室で心操君とこうして一緒にいられるのもきっとこれで最後。
これからは心操君と一緒に授業を受けることもないし、合間の時間に他愛もない会話もすることもないだろう。
でも、今度はそれがヒーロー科で、あわよくばA組で一緒にできたらいいな。なんて、我儘すぎる願いかな…?
私はそんな願いを口にする事無く、そっと心の内に閉まっておくことにした。
「…そろそろ帰るか」
「そうだね。それじゃあ心操君」
「「また」」
私たちは声を揃えて、別れの言葉を告げた。
さよなら、じゃなくて、次の約束を。