Vol.5
夢小説設定
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「お得意の
純は心操の背後に尾白ともう一人の生徒の姿を見た。
その目はどこか虚無で、まるでこちらを見ていないようで。
純はすっと目を細めた。
「それにさっき、アンタ身内同士で何か揉めてただろ。仲間割れか?」
「…」
「おいおい、だんまりかよ。この間の威勢はどうしたんだよ。拍子抜けだな」
「…」
「…口先だけの弱ェ連中なのかよ、お前らは」
純は徐に指を持ち上げて、心操の背後に立つ二人を差した。
それを見た心操は小さくため息をついたのち、両手を上げた。
「…どうしたんだよ」
「…」
「なんか言えって」
「…」
「…もしかして」
苦笑いをする心操を見つつ、純は黙って心操を見つめていた。
「…どこで気づいたんだよ」
「…」
「何もしねぇよ」
「…」
「本当だって」
「…そこの、もう一人はともかくとして、猿夫の様子がいつもと違いすぎる」
「…は?」
「クラスメイトの事はよく見てるつもりだよ。それぞれに個性があるように、それぞれにも仕草にクセというものがある。瞬き、呼吸、体の動かし方―――それはある意味で個の情報だ。だが、今の猿夫にはそれが無い」
「おいおい、探偵かよ…マジかコイツ」
「だから恐らく人使の個性によって個を制御されている。その条件が何か分からないままだった。既に視線を合わせる、指定範囲内などの条件は満たしてしまっているから、後は消去法で対応してみたが…もしかして、返答が条件か?」
「…ご名答」
心操は面白くなさそうに答えた。
「個性は洗脳か束縛と言った一定時間意識を奪う系かな…?それで私も操ろうとした、と」
「…洗脳だ」
「なるほど、洗脳か」
純は洗脳されている二人の前に立つと、自分で手を振ってみたり、自分の手を叩いたりして二人の反射の反応を見ていた。
「洗脳というだけあって、こちらに全く反応を示さない。洗脳後は人使の言うことを聞くのか?」
「…あぁ」
「ふぅん…面白い個性だな」
「…なんだよ、アンタ。面白い?冗談だろ?いつ洗脳されてもおかしくないのに、面白いだって?」
「癪に障ったなら謝るよ。それに、人使と組むのは賛成だ」
「提案しといて何だが…俺の個性を聞いたうえで、そんな簡単に俺を信用していいのか?バカを見るかもしれないのに?」
「知ってるか?世の中には騙された方が悪い、なんて言葉もあるくらいだ。私が結局洗脳されて、目標が達成できなくともそれは私の読みが甘かったというだけだ」
「いつかその甘さに後悔してもか」
「そうだな。それが私の決めたこと―――」
かくん。
純の動きが止まった。
「は、はは…これでもアンタは自分が甘かったというのか、なぁ!」
「…」
純は心操の洗脳によって二人と同様、体の制御を奪われてしまった。
「全部が綺麗ごとで丸く収まるわけじゃない。納得できんのか、アンタは。これでもまだ騙された方が悪いとでも思ってんのか?」
「…」
「…とはいえ、俺も負けるつもりは無い。黙って洗脳されてろ」
純の思考はモヤがかかったかのように、何も考えられなくなっていた。
しかし、勿論あれだけ警戒しておきながら何もしていないわけが、無かった。
「!?」
心操は騎馬を組もうと体を動かそうとしたが、その足は動くことはなかった。
いつの間にか心操の足元は氷焔がゆらめいており、無理やり動かそうと暴れてみても、まるで氷が凍っているかのように身動きが取れなかった。
「いつの間に…!?」
騙される方が悪い。
心操の脳裏に純の言葉が反芻する。
露骨に舌打ちをした後、心操は深くため息をついて頭をワシワシと乱暴に掻きむしった。
「…洗脳されるくらいなら、このまま騎馬も組めずに脱落しても良かったってことなのかよ」
「……っと、おお、戻った。脱落?私がそう簡単に諦めるわけないだろう。それに、他人に私の主導権を握られるのはもっと論外だからな」
「…そうかよ」
「それに人使では私を使いこなせないだろうからな。洗脳を解いた後に後悔する人使の姿が目に浮かぶよ」
「…大層な自信でいらっしゃるようで」
「氷の温度調整してみせただろ?」
「!」
気づくのが遅れるほどの、繊細な個性の技術。
しかし氷としての機能を失わせずに焔の層をつくり一部分を凍らせた。
これがヒーロー科か。心操はこの短時間で純に敵う事はないだろうと悟った。
純は指を振ると、心操の足に纏わりついていた焔は消える。
「ハッ、羨ましいぜ。ヒーローに相応しいそんな”個性”を持ってるだけで勝ち組だもんなァ」
「…」
「ははっ、俺だってアンタ見てぇな個性だったらどんなに良かったことか」
「人使」
「!」
純は険しい表情を浮かべながら、心操との距離を一気に詰めた。
「笑うな。お前だって立派な個性だろう」
「…事実だろ。それともアンタは恵まれてんのがわかんないのか?」
「お前も恵まれてるんだよ、人使」
「…何言ってんだ?俺が?俺の気持ちなんてアンタに分かるわけないだろ」
「私の妹は”無個性”だ」
「…」
「そして姉の私はご覧の通りの才色兼備。誰もが私の将来に期待を寄せている」
「自分で言うなよ。恥ずかしくねぇのか」
「私だって人間だ。そんな姉と比べられる妹の気持ちを感じ取れないほど愚かではない。影で私の真似をしている妹を何度も見た。無個性だと虐められて隠れて泣いているのを何度も見た。私の”氷”と”焔”が混ざっているのは妹の分の個性を私が奪ってしまったんじゃないかと何度も自分を恨んだ」
「っ…!」
「私と妹は少し年が離れている。幼い頃から妹は私を見て育った。カッコイイ姉のようになると。目の前にこんな優秀な人間がいれば、憧れるのは無理ないだろう。だが実際はどうだ?蓋を開けてみれば、個性などない。あるのは”無個性”というレッテルのみ」
「…」
「逆に、問うよ。人使」
純は冷めた目で心操を見た。
光のない、暗闇のような瞳に飲み込まれてしまいそうだ―――心操は思わず一歩後ずさる。
「無個性の人間の気持ちを考えたことはあるか?」
純はきっと苛立っている。心操はそう感じた。
ただ、険しい表情ではなく寧ろ穏やかであるようにも見える。けれど、轟々と燃え上がる焔が既に消えたはずの足元から立ち上り、心操の全身を燃やし尽くそうとしているかのような錯覚に陥る。
「…悪かった」
「とはいえ”心”なんてものは、自分にしか分からないものだ。私だってとやかく言う筋合いはないよな。すまない、人使」
「…」
心操は純の事が理解できないと思った。
先ほどまで怒っていたかと思いきや、今度はあっさりと謝罪をする。
まるで感情というものは無くて、ただ他の人間と遜色ないように”感情という皮”を被って演技しているかのような。
「私は妹のためにも強くなければならない。負けるわけにはいかないんだ。人使、私と組むからには生半可な順位では収まらないぞ」
「アンタ…一体何なんだよ」
「1年A組、氷崎純」
純は少しだけ口端を釣り上げ、空高く手を伸ばした。
「私は誰よりも高みを目指している人間さ」
Vol.5 感情の凍結
(騎馬戦の)
(スタート合図が鳴り響く)
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