Vol.3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
雄英高校職員室にて、相澤は純の身体測定の記録と入試時点の記録が描かれた書類を眺めていた。
その包帯の隙間から見据える眼光は決して生易しいものではなかった。
「相澤君、いつになくしかめっ面してるね。どうしたんだい」
あまりにも相澤が殺伐とした空気を放っていたものだから、オールマイトは気になって声をかけた。
「氷崎の個性について気になることがありましてね」
「氷崎少女かい?この間の事件でも思ったけど、彼女、あの年であそこまで繊細に個性をコントロールできるのはまさに”天才”だと思ったよ」
「…”天才”か。世間も氷崎に注目して”天才”なんて言葉でもてはやしちゃいるが、所詮はまだ高校生。そんなレッテルを貼るのは早すぎる気がしますよ。でも正直、プロヒーロー顔負けの活躍でしたが…どうにも合わないんですよ」
「合わない?」
「入試時点の個性の使い方と、入学後の個性の使い方が」
「それはどういう…」
「不正入学でもするために個性を強化するドーピングでも使ったのかと思いましたが、仮にやるとすれば普通は入試でそれをやる。でも、氷崎は入試の時よりも入学後の方が明らかに個性を使いこなしている。それに雄英は不正を許すような生半可な場所でもないし、氷崎自身になんの問題もなかった。本当に天才というならば、あいつはわざと入試で手を抜いていたことになります…普通そんな事しますか?仮にも、ここは雄英ですよ?」
「…氷崎少女は同年代よりも遥かに個性を使いこなせているからこそ、あえて入試では目立ちたくなかった?いや、でもそんなことをする理由がない…万が一落ちてしまった時のリスクが高すぎるな…」
「ヒーローを目指す奴の中には稀に目立ちたくない奴もいるが、氷崎の場合は明らかにその類の種類じゃない。寧ろ、爆豪と同じようなタイプだ」
相澤は登校初日の純の好戦的な目を思い出していた。
光のない冷たい眼差しは、何を見据えていたのだろうか。
「オールマイトさん、あの事件でネットにアップされていた氷崎の動画みました?」
「ああ、勿論。テレビでも流れていたしね」
「あの迷いのない行動、判断、ヴィランの捕獲、救助にいたるまで完璧だと言わざるを得ない動きでした」
「とっさに体が動いていた、とインタビューで答えていたけど、私には素人の動きには見えなかったよ」
「だからこそ世間は氷崎を天才だと煽る。でも俺からしてみれば氷崎はどこかで戦闘・救助・捕縛に関する知識を学び経験しているように見えましたがね」
「まさか公安…?」
「俺も公安絡み…かと思いましたが、どうなんでしょうね。色々辻褄が合わないような気がしますが」
「HEYHEY!お二人さん、そんなにサヴィシィー話題してンなら、本人に直接聞きゃあいいだろ?」
横からプレゼントマイクが顔を出してきた。
相澤は小さくため息をつくと、書類を机の上に置いた。
「もう聞いたよ。本人も入試では緊張して力が出なかったんじゃないか、だとよ」
「まるで他人事みてぇな言い方だな」
「緊張して記憶が飛んだ生徒はよく見かけるけど…」
「オールマイトさん、今度氷崎と話してみてくださいよ。そうすれば俺が悩む理由も分かると思いますよ」
「…」
オールマイトと純は軽い会話こそしたことはあるが、まだ純自身の腹の底を見たことがなかった。
あるいは、見せていないのか。
「さっき演習場の使用許可申請出しに来てたんで、恐らくそっちにいますよ」
「ありがとう、相澤君。少し私も話してみるよ」
***
体育祭に向けて、純は誰もいない演習場で氷焔を操っていた。
純の周囲は青い焔に包まれ、一見火事でも起きているような錯覚に陥る。だが、吐く吐息は白く、気温もかなり下がっている。
純は片手を上げると、周辺の焔は一気に鳥籠を形成した。純自身をその鳥籠の中に閉じ込めた形となる。
「素晴らしい焔じゃないか!」
「オールマイト…」
「これ熱くないんだよね?わっ、冷たっ!」
オールマイトは、やぁ、と片手を上げて軽く挨拶をしたかと思えば、興味本位で鳥籠をつついた。
思ったよりも冷たかったのか、触れた指先を温めようと手で擦っていた。
「私の焔は2パターンあるんですよ」
指をぱちん、と鳴らすと焔は氷へと姿を変える。
「さっきみたいな焔の姿のままでいる状態と、こうして氷へと形を保つ状態。氷にするほうがより集中力がいりますね」
「じゃあ例えば気合で焔の檻を突破することもできるってこと?」
「極論可能ではありますが、普通の炎を通り抜ければ火傷するように、これも凍傷しますし、それは私が許しません。通過しようとすればそのまま氷にして捉えます」
オールマイトは鋭い眼光のまま淡々と告げる純を見て、少し背筋が凍った。
この場が寒いという理由だけではない。
純はあまりにも覚悟が決まりすぎている―――オールマイトはそう、直感した。
「氷崎少女、君はヒーローになるべく雄英に来たんだろう?」
「はい」
「確かに君は入学から少し遅れての登校となった。でもそんなに焦る必要はないんじゃないかな?」
「…焦る?」
「私には君が切羽詰まっているような、何かに追われているように見えたよ」
「私は、焦っている…のか…?」
「!」
純は、驚いた表情でオールマイトを見つめた。
その表情の温度差に思わずオールマイトは純のプライドを傷つけてしまったかと心配するが―――
「…なんで、焦ってるんだろうか」
ぽつり、と純は呟く。
そのまま鳥籠を両手で掴んで、檻の外にいるオールマイトを見つめる。
「オールマイト、あなたは平和の象徴だ。その背中に背負っているものは私の想像を超えるほどとても重いものだと思う。その中に、助けなければならないものがあるのに、どうやって助けたらいいか分からないものは、ないか?」
「…氷崎少女?」
「……すみません、私も何言ってるか分からないです。忘れてください」
オールマイトが純の手を掴もうとした瞬間、氷の鳥籠は再び青い焔に包まれる。まるでオールマイトを拒むかのように。
咄嗟にオールマイトはその手を引っ込めた。
「私が焦ってるように見えたのは、多分、私が相澤先生と勝負をしているからですよ」
ぱっと、両手を離すと焔は消え、その時には氷の鳥籠も姿を消していた。
純は先ほどの表情から一転し、にこやかな笑顔を見せた。
「体育祭で3位に入らないといけないんですよ。じゃないと相澤先生に馬鹿にされたままですからね」
「相澤君、何したの…?」
「いえ、これは私の幼稚なプライドの問題です」
純は肩をすくめて見せた。
「ところでオールマイトは何しに?」
「あ、ああ。皆体育祭に向けて頑張ってるからね!君たちにエールを送ろうと思って様子を見に来ているのさ!」
「そうですか。あのオールマイトに見てもらえるなんて、光栄です」
オールマイトはほんの少しだけの違和感を感じる。
それは純の瞳の中にオールマイトが映っているようには見えなかったからだ。
尊敬や憎悪の眼差しとも違う。
純はオールマイトを通して何を見ようとしているのか。
冷たい氷のような純の心を溶かすまでには、もうしばらくかかりそうだ、とオールマイトは心の中で呟いた。
Vol.3 違和感
(体育祭まで)
(あと数日)
