第2話 赤い〈シルシ〉
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福岡空港ハイジャック事件から1か月後。
退院後、一斉にメディアに迫られ質問攻めをうんざりされ、バラエティ番組にゲストとして呼ばれるなどメディア露出が一気に増えた。
しかしそれにしても多すぎるメディア出演の連絡にさすがのボクもある程度以降は断りをいれた。
やっと落ち着き始めたころに、ホークスの事務所に正式にサイドキックとして配属された。ほぼメディアのせいで配属が遅くなったといっても過言ではない。ちくしょうなのだ。
基本的にボクのやることと言ったらホークスの後ろを追い、倒されたヴィランの回収を行っているだけなのだが。
あの事件以来、ボクが個性を使ってヴィランを倒すことはしていない。
ホークスが「俺の背中を見ていて」と告げたから。
若くして圧倒的ヒーローとしての力を持ち、配属されてすぐに彼がこの街をどれだけ守ってきたかよく理解できた。
街の人々のホークスへの信頼は固く、安心してホークスに全てを預けているように感じられた。
「速すぎる男」の名前は伊達じゃないようだ。
今日も巡回のために羽ばたくホークスの後ろを追っていた。
「…」
先行していたホークスが速度を落として、ボクの隣に並ぶ。
赤い翼と光の翼が揃うとそれは壮観だった。
「どうしましたか?」
「アンジュちゃん、もしかして俺に遠慮してるんじゃない?」
その言葉に思わず目が点になった。
まるで何か含みを帯びているその言葉にボクはホークスの真意を受け取る。
実力を見せてみろ。と。
彼はいつも笑っている。けれど鋭い鷹の眼光は何もかも見透かしているように感じるんだ。
別に手を抜いていたわけではない。
ボクはホークスに対して憧れ、尊敬、敬意の念をもってその動きを
確かにずっとホークスの後を追うだけで、本当にただそれだけだった。
「遠慮なんて、してないですよっ!」
ボクも良く笑う。
天使の名を冠するヒーロー名をつけたのだから、天使のように振舞うと『あの日』決めたんだ。
クラスメイトにも先生にもインターン先にもよく言われた。
『君は笑顔以外を知らないみたいだ』
だって笑っていればみんな幸せになれるから。
オールマイトのように安心させることができるから。
だからボクは『笑う』んだ。
しかし、ホークスはそんなことも見透かしていると言わんばかりに肩をすくめた。
「じゃ、次俺より先にヴィランを確保できたら良いものをあげるよ」
「ほんとですか!じゃあ頑張っちゃいますね!」
くるりとその場で一回転し、ホークスと向き合った。
行ってきます。と告げてボクは今いる位置からさらに上空へ。
太陽に近づくためにスピードを上げて飛んでいく。
「…アンジュちゃん、マジ?」
その場に取り残されたホークスは唖然と、飛んでいくボクの姿を見ていた。
光の速度はホークスさえも凌駕する。
ホークスに追いつくことは今のボクにとっては容易である。
今までは彼の動きを学び取り入れ、自身の糧にするために『視』ていた。
鳥は親の飛び方を見て巣立つ。
ホークスの飛び方は本当に綺麗だ。美しいと思う。
ボクは飛び方をカラスやスズメなど身近な鳥を参考にして飛び方を学んだ。
それでもホークスの翼の筋肉の動かし方は均等に力強くそして洗練されている。
何度も彼の姿をTVで録画してはリモコンのボタンがそれだけですり減るほど見返した。
恍惚と。
目の前で見るほどその姿に見惚れてしまうほどに。
ボクが天使だというのなら彼はボクにとっての『神』同然だ。
でもそれは絶対本人に言わないし、素振りも絶対に見せない。
一人のファンとして彼を敬う。ファンとしてただ、ミーハーに彼に黄色い声援を送る程度だ。
厚い雲を突き抜け、静かな空に一人残される。
空気も薄くなり肌寒い。が、個性のおかげで光を吸収するから体内の体温を維持することができる。
誰も何もいないこの空間が好きだ。余計な騒音も雑音も聞こえない。
まるで世界で独りぼっちのだと錯覚してしまうほどに。
ボクは深呼吸してから光翼を大きく広げた。
きらりと輝く翼はホークスの翼と同じくらい大好きだ。
ボクの翼は光。
光はどこへでも駆け行く。
「さぁ!行こう!みんな!」
上空から一気に光の羽を地上に向けて放つ。
少なくなっていく傍から背後の太陽から光を吸収して、翼の形を保っている。
飛ばしていく羽にホークスのように細やかな指示はできないが、光は闇に敏感である。
どこにヴィランが潜み、企み、悪事を働いているのか感知し、ボクに伝わる。
「!」
飛ばしていった羽に反応が3つ。
羽を飛ばすのを中止し、すぐさま下降を始める。
「アンジュちゃん!?」
ホークスの傍を物凄いスピードで駆け抜け、あっという間に地上へと舞い戻る。
少し張り切りすぎたか、思ったより地面ぎりぎりまで迫ってしまったので直撃する前に慌てて立て直す。
ちょっと危なかった。いや、マジで。ちょっぴり地面に手、掠めちゃった。恥ずかしい。
人知れず冷や汗をかきながら、1つ目の反応のあった位置に到着。
ヴィランが女性のカバンをひったくって逃げ出していた。
「やーやー!こんにちは!」
「!?」
とんっとヴィランの肩に触れ、その部分から大きな翼が生えてヴィランを空中へと浮かす。
ボクの個性は触れた場所から光翼を生やすことができる。自分自身の体は自在にどこでも生やすことは可能で。
ついっと指揮を執るかのように指を動かせばヴィランは光翼によって物凄い速度で警察官の元まで飛んで行った。
その際に落としていった鞄を拾って盗まれたであろうおじいさんに渡した。
あまりの出来事の速さにおじいさんはポカンと、口を開けたまま鞄を受け取っていたがボクはすぐさま次の目的地へ向かうべく翼を広げた。
2つ目の反応はそんなに遠くない。
今度は宝石を盗み出す複数のヴィランがいた。
「めっ!です!盗んじゃダメでしょ!」
左手で弓を作り、右手で羽を引き抜く。
これがボクの2つ目の技『光弓』
雄英で編み出した自慢の技の一つだ。
羽一枚一枚自体にそこまで力はなく、相手に触れて初めて翼として大きな力を振るうことができる。
そのため遠距離攻撃が苦手だったが光弓のおかげでそれが解決できた。
光全てにボクの意志が乗るため、狙いが定まらなくとも自動的に飛んでいく。
あの時のハイジャック事件の時もこの技でヴィランを捻じ伏せた。
放った矢はそれぞれヴィランの足や手に命中し、地面に倒れ伏す。
何が起きたのかわからないと言わんばかりに彼らは叫んでいた。
手に持っていた宝石は地面に飛び散り、太陽光を反射してきらきらと輝いていた。
「残念でした♡」
ボクの姿を見つけたヴィランは悔しそうにその顔を歪めて「クソッタレ!」と捨て台詞を吐き捨てた。
急いで宝石をかき集めて、とりあえずヴィランが盗みに使った袋に戻してしっかりと強く蝶々結びで閉ざした。
ぽんっと袋をたたけばミニ光翼が生えて、店の前で項垂れている宝石店の店員の元へふわふわと飛んで行った。
彼は諦めていたのだろうか。
項垂れたその顔の前にパンパンにつまっている宝石の袋が目の前に現れるなり、物凄勢いでそれを抱えるとこちらを見て滝のような涙を流しながら、
「ありがとう!!!ヒーロー!!!!」
ボクはニカッと笑って手を振ってその場を発つ。
店員は何度もお礼を述べていて、最後に聞こえた声は「クビが飛ばずにすんだよ!」と聞こえた。
どうやら彼の店員としての命も守れたようだ。良かった良かった。
最後のポイントは速い速度で進んでいる。恐らく、車か何かで移動しているのだろう。
今日は調子がいい。とても良い天気だからだね。
晴れてる日は好きだ。心がぽかぽかして、あったかくてなんでもできる気しかしないんだ。
「きゃあああ!!」
見つけた!
パトカーに追われるトラックは警察官の忠告も無視し暴走を続ける。
そのまま赤信号を突っ切り、横断歩道を渡る女子高生二人に猛スピードで突っ込んでいく。
大丈夫、間に合う!!
猛スピードで突っ込むトラックの上に回り込み、天井に触れる。
奇妙な光景ではあるがトラックの屋根から光翼が生え、ふわりと空中に浮かび上がる。
タイヤのみが空振り、エンジンがむなしく轟いた。
横断歩道へへたりこむ女子高生の元へ駆けつける。
「大丈夫?ケガはない?」
「…て、天使やあぁ~~~」
「わあああああ私たち死んじゃったんだああ!天国にきちゃったああああ~!!」
「えっ!?」
想定外の反応をされ、女子高生二人は泣き喚いてしまった。
二人は死んで天国に来てしまったのかと勘違いしているというのか。
結構メディアに出ていたつもりだったが、見ていなかったのかな。
もしくは恐怖で動揺してしまっているか。
確かにヒーローコスチュームもこの姿もまるで天使そのものではあるし、ボクも確かにそれをリスペクトしてそういった振る舞いをしてきたが。
天国に来ちゃった、と言わせたのはこれが初めてだ。
わんわんと泣く女子高生はお互いの体を抱きしめあっている。
怖かったね、大丈夫。もう大丈夫だよ!
「ちゃんと君たちを護れたから安心して。ねっ!もう大丈夫だよ!」
「なんて優しかばい!やっぱり本物ん天使や!!」
「こげん天使様に導かるーなら本望や~~~!!!」
「…ちょっと、アンジュちゃん、この状況どうなってるの?」
二人をなだめていると、空中に浮いているトラックからヴィランを引きずり出し、地上に降りるホークスがいた。
結構スピードを出して3つの事件を片付けていたはずなのに、追いつくとはさすがホークスだ。そこに痺れる憧れる!
ホークスの姿を見た二人はぴたりと泣くのをやめて、一気にきらきらした目を輝かせながらホークスの名を呼んでいた。
さすが福岡の人気者だ。
「JKが泣いちゃって…私を本物の天使だと思っちゃって…」
「ブハッ!なにその面白展開!」
「「本物んホークスや!」」
写真撮って!とカメラを構える女子高生。
ホークスも「イェーイ」と言いながら気前よく写真に写っていた。
ちょっとうらやましい。今度頼んで撮ってもらおうかな。
それにしてもこの女子高生たち切り替えが早すぎる。
まぁ変なトラウマになるよりはマシか。今日の出来事を学校でみんなに話して面白話として消化してくれれば良い。
「ホークス、こん天使ちゃん誰や?」
「ふっふっふ~!何を隠そう彼女こそ俺の新しいサイドキック!アンジュちゃん!」
ホークスは自慢げに私を紹介してみせた。
急に紹介されたから驚いた。女子高生がホークスに夢中になっている間に空中にいるトラックをゆっくり下していたからだ。
ちょっとトラックが傾いたが、問題なく地面へと着地。
オーライ、オーライ!ハイッ!OK!
「エンジェルヒーローアンジュです!よろしくねっ」
ニカッと笑う。
女子高生二人はがばっと私に抱き着くと、
「こげん愛らしかヒーローがおったんや!」
「サイン頂戴~!!写真も!!」
ぐいぐいと迫る女子高生二人を相手していると、先ほどまで見物していた市民たちもそれに乗じて私たちの周りに集まり始めた。
あっという間に群衆に囲まれ、サインやら写真やら迫られる。
ファンサを怠らないのがボクのモットー。ちらりと横目でホークスを見れば親指を立てて笑っていた。
よし!市民たちよ!思う存分堪能(?)するがいい!