第1話 福岡空港ハイジャック事件
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『皆さま、今日も日本航空800便、福岡行をご利用くださいましてありがとうございます。この便の機長は、新城祐希、私は客室を担当いたします、森宮あかりでございます』
3月末。冬の厳しい寒さも終わりをつげ、暖かな春の日差しが心地よい。
ぼんやりと窓から空港を眺め、今から自分が向かう飛行機がいよいよ出発するのだと、アナウンスの後に少し遅れて理解した。
淡々と告げる機内アナウンスはどこか業務的であり、でもCAの物腰の柔らかさが伝わってくる心地の良い声音だった。
『まもなく出発いたします。シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。福岡空港までの飛行時間は2時間を予定しております。ご利用の際は、お気軽に乗務員に声をおかけください。それでは、ごゆっくりおくつろぎください』
「(…シートベルトしとったかな。)」
右手で腰に巻かれているベルトに触れ、確認した。
うん、大丈夫。ちゃんとベルトできているね。
飛行機は動き出し、初めてのる乗客が多いのだろうか。離陸の際に「怖い」や「ドキドキする」といった声が聞こえ、機内が少し騒がしかった。
「(またね、雄英)」
雄英高校3年A組。それも数週間前の話だ。
こうしてみれば本当にあっという間だった。
入学してから体育祭、文化祭、ヒーロー仮免許、そして本免。
やっとボクは念願の《本物》のヒーローになった。
様々な事務所から声を掛けられ、何度もインターン先からオファーが来た。
けれど卒業前に根津校長から直々に話があり、3月末日に福岡のある場所に向かってほしいとのことで。
今後のことはそちらで対応するそう。
どのクラスメイトも就職先が決まっているというのになぜボクだけこんなにも曖昧なのだろうかと不信感を抱いていたが、根津校長直々の話だ。悪いものではないだろう。
「…福岡かぁ」
生まれは福岡。幼少期は福岡で過ごし、その後は進学のため東京へ引っ越した。
両親共々プロヒーローの道を諦めざるを得なかったゆえに、我が子がプロヒーローになる夢を渇望していたのだろう。
ボクがハイハイをできるようになる頃から英才教育が始まったそうだ。
幼稚園は国会の議員の子供や、名のある名家の子供達が集まる所へ入園し、その後優秀な個性持ちがかき集められた小学校へとお受験。
なんとか合格するも、小学生に教える内容とは思えない勉強と個性強化の日々。
国から特別認可された教育機関は幼少期からのヒーロー育成に力を入れており、小6時点で優秀な成績を修めた者には海外留学への切符に手をかけることが出来る。勿論試験は必須だが。
両親もボクが海外留学するのを夢見ていたのだろう。常に期待の眼差しの中育っていった。
「ママ、パパ見てみて!お空飛んでるよ!!」
「そうね!すごいわね!」
「オールマイトみたいに空飛んでるぞ~!良かったな!」
「うん!」
ボクもあんな無邪気な頃があったが、その無邪気さはいつの間にか消え、夢は絶望へ。両親の期待は蔑みへと変貌するまで時間はかからなかった。
どれだけ努力しても厳しい『教育的指導』
どれだけ優秀な成績をとっても褒めることはしなかった。
だから。
だからボクは反抗してやった。
海外留学のための試験には本気で臨まず、案の定不合格を押された。
ざまぁみろと思って嬉々として両親に報告すれば絶縁を告げられたのだ。
なんと―――
なんと脆い家族関係だったのだろうか。
滑稽すぎてその場で笑い転げてしまった。あの時の両親の軽蔑の目は一生忘れないだろう。
これをいい機会だと判断してボクは家を出ることとしたのさ。どちらにせよ家はもうボクの家では無くなったのだし。
そのため福岡を飛び出して東京にある中学を選んだ。
理由としてはまずは寮制度があることと、優秀な成績を維持していれば好きにやっても問題ないそう。
だが、当面の問題は生活費だ。
寝食は寮の管理人さんが提供してくれるそうだが、それ以外での必要経費、または高校進学の際に必要になるお金などなど...
とにかく親の援助を受けないのだから、お金を貯めて損は無い。
だからボクは東京の中でも特に入学に難関であり、ヒーロー科特化の学校を選び特待生として入学。
学年1位とまではいかなかったが、上位をキープし続け、先生に許可を貰いアルバイトをしお金を貯めた。
中学時代はちょっとしたトラブルにも巻き込まれつつも、無事に夢の雄英へ進学することが出来た。
「(既に人生波乱万丈な気もしたけど、これであの人と同じ舞台に立つことができるんだ!)」
あの日、TVで見た姿が目に焼き付いて離れない。
18歳にしてヒーロー事務所を立ち上げ、オールマイトに比べたらそこまで目立ってはいなかったが、次期注目ヒーローとして取材を受けているのを目にしたことがある。
「ホークス…」
あなたに憧れて。
あなたが太陽のように眩しくて。
ただの一般人が。
あなたの隣に立ちたいと、願い、夢を抱いてしまったボクは。
「なんて強欲なんだろう」
自虐気味に、笑って見せた。
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