05
夢小説設定
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「―――っ!」
ばちっ、と瞳を開いた。
額や背中を、冷や汗が伝い落ちる。
ぎゅうっといつの間にか握りしめていたベッドシーツには皺が寄っている。
高校生にもなってらしくないが、目元には涙まで浮かんでいる。
ああ、情けない話、怖い夢を見ていたようだ。
未だに心臓がばくばくと脈を打つ。
何の夢だったか。目を覚ましてしまえば思い出せないけれど、良い夢ではなかったと断言できるのは確か。
暗くて、冷たくて、まるであの場所のようで。
顔を両手で覆えば目元に溜まった涙が零れ落ちた。
05 悪意の匂い
授業が始まって数時間後。
エンデヴァーさんから連絡を受けて、急ぎ現場へと到着した。
そこは集合住宅地だったようで何件もの家が燃え尽き、倒壊していた。
嫌な臭いが鼻をくすぐる。煙と建物などが燃えた匂いの中に、人が焼けたにおいが混じっている。思わず眉間にしわを寄せた。
既に消火活動は終わっており、犯人は確保できていないとこと。
出火を発見した通報があってから僅か5分足らずでここまでの建物が全焼してしまったとこと。
炎のことはエンデヴァーさんの隣にいたからよく知っている。
こんな短時間でこれだけの数が全焼するのは、複数犯人による一斉放火か、恐らく高火力による行いではないだろうか。
エンデヴァーのサイドキックが珍しく沢山駆けつけている。
今日の現場は人手がかなり必要になるからだろう。
まだこんな状態でも希望が見いだせるとしたら、平日の日中ということ。
いつもよりは家にいる人は少なかっただろうが、ここは新しく作られた集合住宅地で、引っ越してきたばかりの家族が多いそうだ。
埋もれた瓦礫が崩れる音に交じって微かに赤ちゃんの泣く声が聞こえる。
それも次第に弱くなっている。非常にまずい。
…あくまで私の推測でしかないが、犯人はわざとここを狙ったのではないか。
「フェンリル」
「…」
「フェンリル!」
「…私は冷静ですよ」
「喉が唸ってるぞ。今やるべきことを迅速に判断しろ馬鹿犬」
「……了解」
自分でも驚くほどの低い声が喉から出たとは思えなかった。
私はエンデヴァーさんの傍を速やかに離れ、まずは聞こえた赤子の元へ。
近くに空いているサイドキックが何名かいたため、声をかける。
「ここに赤ちゃんがいます!声が徐々に小さくなっているため迅速に撤去を!」
こういう時、いつも思う。
災害救助犬という名目でこそ活動しているが、実際の犬より数倍も大きいこの体は瓦礫の中を通ることはできない。
大きすぎる力は、大きすぎるこの体は繊細な作業に向いていない。
だから私は耳を駆使して指示を出すことしかできないのがもどかしい。
「待ってください!その木材を引っ張ると中が崩れます…そこは崩さず、支えて瓦礫を抜いてください」
数人がかりで瓦礫をどかし、瞬間、一人のサイドキックが声を上げる。
赤ちゃん見つかったんだ!と安堵するも。
「…これは…もう…」
「…っ」
サイドキックに抱えられた赤ちゃんは力なくくたりとその腕に身をゆだねていた。
その無垢な体は黒く焼け焦げ、顔すらわからないほどに。
そして赤ちゃんの体を包むように千切れた左手が添えられている。
その薬指には指輪だったものがぼろりと風にあおられて崩れて空へ舞って行った。
私が泣き声を聞き間違るはずがない。だからきっとこの赤ちゃんで間違いはない。
きっとお母さんか、お父さんがこの子を守っていたんだろう。
だからギリギリまで生きていた。
私に見つけてもらうために。
せめて、せめてこの子たち家族をこんな熱い場所じゃなくて、心地よく静かな場所に眠らせてあげるために。
「…傍にこの子の家族が埋まっています。急いでください!」
大丈夫、きっと大丈夫。
生きている人がいるはずだ。
私は駆けずり回った。
煙と建物が焼け焦げた匂いに交じって人の焼ける匂いが充満するこの場所を。
走って
走って
僅かな希望のために
走った
救けを求める人のために
でも
誰も生きていなかった。