Vol.8
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
初めてあいつの個性を見た時、俺は素直にあいつが凄いと思った。
同時に、なんで普通科にいるのかと妬ましく思った。
…いや、"思った"だなんて、自分を正当化しているが。
それは過去形ではなく、現在進行形の話だ。
俺は今もあいつを妬ましく思ってる。
俺には何物を、あいつは持っていながらここにいる。
胸の奥に深く沈むわだかまりが時折心苦しい。
本当に自分の器量の小ささを実感する。
そもそも馴れ初めは、本当に些細なものだった。
帰宅途中、偶然あいつと一緒になって、他愛も無い話をして帰って。
それが何度か続いて、気が付いたら一緒に帰るのが当たり前になっていた。
…時折見せるあいつの素直な笑顔が。
俺にとっては心苦しかった。
お前は俺の事をどう思ってるか知らねぇ。
でも俺はお前を素直に見ることが出来ない。
vol.8 擦れ違い
「心操君、昨日はありがとね。心配してきてくれたんだよね?」
昼休み、由紀は俺の机の元に来てそう言った。
「ごめんね?」
何が、だ。
俺が不服そうな表情を浮かべていれば、由紀は俺の気持ちも知らずに淡々と告げた。
「ずっと待っててくれたみたいだし…」
しろどもどろになりながら、目を泳がせていた。
やっぱりコイツ、分かってねぇな。
俺がなんで怒ってるのか。
「なんで帰りが遅かった?」
「相澤先生が私の個性のコントロール出来るように補習授業やってくれて…あ、でも他の先生もいたよ?
オールマイトとかミッドナイトとか…すごいね、ヒーローって。私なんか簡単にあしらわれちゃって…」
…また、"相澤先生"だ。
何度こいつからその名前を聞けばいいんだ。
「…」
「足怪我しちゃったから、相澤先生がね、家まで送ってくれたんだ」
「…」
「…え、えっと…」
「お前は恵まれてていいよな」
「っ、心操君…」
違う。
俺はそんなこと由紀に言いたいわけじゃない。
「敵に向いてる個性?昔から悪役だった?
でもさ、よく考えてみろよ。
お前の個性でヒーローになったら最強じゃん。飛べるし、力もあるし、カッコイイしさ。
俺なんて特徴の欠片もねぇぜ?人を操るってさ。全く、俺なんてヒーロー科に向いてなくて当然じゃねぇか」
違う、違う!
こいつだって散々周りから言われてきている。
分かってんのになんで俺は同じことを―――!!
ビダンッ!!
「!」
由紀が尻尾を床に叩きつけていた。
…やっちまった。
「私の悪口は好きなだけ言えばいい…そんなのどうだっていい…でも…」
「…!!」
「心操君が自分の事、そんなふうに言うのは許さない」
「っ…」
「そんなふうに言うのは止めて」
「っ…!うるせぇなお前に何が分かる!!」
―――限界だった。
胸の奥底で燻っていたものが、弾けた。
「分かるよ!!!私だって今まで散々同じように言われてきたから!!」
「だから何だっていうんだよ!!!お前は俺じゃねぇし俺はお前じゃない!!
どれだけ理解されようが俺はお前に勝てねぇんだよ!!!」
「なんで勝ち負けの話になるの!!?おかしいよそんなの!!!」
「じゃあお前が個性使って俺を殴って見ろよ、なぁ!!!俺はお前には勝てねぇんだよ!!」
「殴れるわけないじゃん!!!何言ってるの!!?」
「なら俺がお前を殴ってやるよ!!そしたらお前も存分に殴れるだろ!!!」
「っ!!」
バキッ!!
つい手が出てしまった。
そんな理由で許されるわけがない。
俺は、由紀の顔を殴ってしまった。
「馬鹿!!心操何やってんだお前!!!」
クラスメイトが俺達の中に割り入って喧嘩の仲裁に入る。
「オールマイト先生、あそこで…!!」
「なにっ!?…こらっ!喧嘩は止めないか!!」
教室にオールマイトが入ってくる。
俺は終わったな、と心のどこかで思っていた。
…悪役は、俺だ。
だが。
ばきっ
由紀に逆に殴り返された。
個性は使っていないようだ。
口の中に鉄の味が広がった。
「ちょ、由紀ちゃん!?何してるの!!?」
「…殴ったよ。心操君」
「…個性つかってねぇだろ。ふざけんな!!」
「心操君こそ!!なんで個性使わないの!!?」
「知ったことか!!お前だって俺を殴らなきゃ俺が悪いままで話は片付いたのによ!!馬鹿じゃねぇのか!!!」
「殴られたら殴り返すに決まってんじゃん!!その辺のシジミみたいな女子と一緒にすんなバカァ!!!!
勝手に悪役ぶって終わらせようとしないで!」
クラスメイトに由紀は抑えられながら、悲痛な表情で俺を見据えた。
「こらっ!!」
「「いてっ!!!」」
オールマイトの拳が俺達の頭の上に振ってきた。
「とりあえず、担任の先生に報告させてもらうからね!二人とも先に保健室に行くこと!!」
オールマイトに怒られて、それから俺はようやく冷静になれた。
…由紀は、もう俺を見ていなかった。
.