Vol.21
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「お前はもう生徒じゃねぇ。ヴィラン同然だ」
「―――」
そう言い放った瞬間に、柳崎は絶望のどん底に突き落とされてしまったかのような表情を浮かべた。
つい、だなんて済まされないことは百も承知だ。
だが、それでもこいつが今どれだけ馬鹿なことをしているのか叩きつけてやらないと気が済まなかった。
俺はあいつの必死な姿を見てきた。
補習でどれだけ俺に厳しい訓練を課せられようとも笑顔で必死に食らいついてきた。
だから、だろうか。
妙な情が移ってしまったから、なんて理由は当の昔なら通用したが今はそうじゃねぇ。
生徒と教師。
それはお互いの信頼関係でこそ成り立つもの。
柳崎一人をエコヒイキするつもりは微塵もねぇ。
それ以上に。
俺の想像を上回るくらいにあいつは努力してきた。
半年。半年にも満たない。
これからだっていうのにあいつはその努力を棒に振るつもりだ。
それが許せなかった。
それ以上に俺は。
…俺の本音は。
vol.21 『教師』としての、思考
記者会見が終わり、俺達に大きな衝撃を残した事件は、今も余韻を引きずりなが俺達の日常に傷跡を残していた。
雄英再起のため―――なんて言葉は大げさすぎるかもしれないが、それくらいに世間から雄英の信頼はガタ落ちだ。
終いには週刊誌まであることない事吹き込みやがって…これだからメディアは嫌いなんだ。
「―――…君」
ぼんやりとした目を擦って、俺はパソコン画面を見続けた。
机の周りに散らばる資料。ちらりと手元の時計を見やれば午前10時を回るところだ。参った、朝飯まだだったな。
思い出したかのようにお腹が空腹を訴える。
そういえば朝飯どころか昨日の夕飯さえも食ってなかったな…。
「相澤君!」
「っ、オールマイトさん…いつからそこに…」
「もう!ずっと私が呼びかけてたのに全然気が付かないから…」
「すみません…」
どうやら夢中になりすぎていたようだ。
職員室をちらりと見れば、珍しく大人しかったマイクの姿も今はない。
今朝の5時から学校に来たものの、あまりに集中しすぎたせいでオールマイトさんのことは本当に意識の外にあったようだ。
「今日は三軒のお宅を回る予定だけど…相澤君大丈夫?」
家庭訪問予定の時間ぎりぎりまで資料に目を通していたから、急いで支度をしなければならない。
スーツも更衣室にかけてあるし、速やかに着替えれば問題ない。
「大丈夫ですよ」
「ちゃんと寝た?いつにもましてクマが酷いよ?一体何を調べて―――」
心配するオールマイトさんは徐に散らばる資料を手に取った。
それから文字を目で追い、資料と俺を交互に見ながら驚いた様子で口を開いた。
「"アキレス腱手術後の治療方法"…"負担のかからないリハビリ方法"…"個性と怪我の治り方の相性"…
……これって、全部………相澤君…」
「…俺の責任でもありますから」
ふう、と小さなため息をついて椅子の背もたれに深く寄り掛かる。
あの時の事が鮮明に頭に焼き付いている。
―――油断していた。
柳崎の個性の強力さ故に多少のヴィランなら追い払えると過信していたのは事実だ。
実際にあいつの姿を目の当たりにしていれば過信もせざるを得ないのだろうけど。
生徒だからこその可愛さで慢心したってか?面白くねぇな、そんな冗談は。
手を伸ばして、必死に俺に救けを求めてる柳崎の表情は。
多分、この先も。
ずっと忘れられない気がした。
「いや、その責任は相澤君だけじゃないよ」
「…」
「私にだってあの場で生徒を守り切れなかった責任はとても大きい…」
「やめましょうよ、そんな事言うのは」
少し口端をついっと上げて、俺は椅子から立ち上がる。
「…今日は柳崎の家にも行きます。現状、あいつは家に一人きりなのが心配です。
……何か思いつめてないと良いんですけどね」
先日の柳崎の父親の発言もひどく胸に引っかかる。
いつもヘラヘラしてた柳崎でもさすがに今回の事件は本人に大分堪えている様子だった。
…少し嫌な予感がしたのは、俺の考え過ぎだろうか。
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