Vol.19
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(side相澤)
柳崎の部屋の部屋を後にし、帰路に戻ろうとすれば見覚えのある顔が俺の横を通り過ぎていった。
もしかして、と思い、俺は声をかける。
「柳崎さんの、ご両親の方ですよね」
「…ああ、あなたは」
「今回の騒動につきましては、誠に申し訳ございませんでした」
「い、いえ!!俺は…あの子を心配できる立場には…いないので…」
「それは…」
「…少し、由紀のことについてお話してもよろしいでしょうか」
柳崎の父親は、そういって語りだした。
今までの経緯。硬くなにあいつが"家に誰もいない"と言っていた真相がはっきりと分かった。
あいつがずっとインスタント食品で生活している理由も。
「親として、俺も最低です…あの子の事を一番に考えてやれない。
あの子は本当は…傍にいてほしい筈なのに…昔から変なところで強がりで…
俺に迷惑かけまいと、いつも笑うんです…本当に、情けない話です…」
「あなたはそう思いながらもあの子の傍には居ないんですか...?」
ふと、口を突いて出た言葉。
俺がこんなこと言える資格は断じてない。
だが、それ以前に教師として、あいつを見てきたからこそ込み上げる思いがあった。
「あなたには笑っていたかもしれませんが、由紀さんは少なくとも私の前では泣いていました」
「由紀が…?」
「あなたは由紀さんに甘えていませんか?由紀さんが本当に必要としているのはあなた達じゃないんでしょうか」
「……すみません」
「っ、不合理の極みだ…」
あいつと同じ言葉を、つい零す。
煮え切れない怒りが込み上げ、それを静かに押し殺す。
「あの子は誰よりも一番努力しています。それは少しでもあなた方に振り向いてもらうための、精一杯の呼びかけなんじゃないんですか」
「…すみません、次の仕事がありますので」
表情を曇らせたまま、ぺこりとお辞儀をすると、その場を去っていった。
柳崎に怪我をさせた原因を作った俺に対して怒るわけでもなく、ただ無気力に、全てを諦めたかのような態度だった。
こんな両親だったのか、と俺は唇を噛みしめた。
数回言葉を交わしただけなのに、あの親は親として機能をしてない。
文字通りあいつは孤独なのだと。
痛感してしまった。
建前だけの、世間体を保つだけに親の皮を被った偽物だ。
あいつは今まで。
今も。
独りでその現実と向き合っていたのか。
vol.19 落ちて、落ちて、堕ちた。
ポチャン
シンクに水道の水が滴る音が、室内に響いた。
現在午前10時を過ぎた所だ。
リカバリーガールのおかげで怪我も速やかに回復し、数日ぶりに我が家に戻ることが出来た。
雄英からの通達で、教師の家庭訪問があるそうだ。
ようは合宿での謝罪参りなのだろうと。思って、プリントを丸めてゴミ箱に突っ込んだ。
私に必要ない。だって誰に謝罪するの?
私?そんなの必要ない。
自業自得じゃないか。自分が招き入れた事態を受け止めなければいけない。
入院中ずっとそればかりを考えていた。
自分でちゃんと考えて、砕いて、飲み込んで。
納得して、整理もちゃんとつけたつもりだったのに。
私は、あの事件から一歩も前に進めないでいた。
ホントのことを言えば、ひたすら後悔。
気持ち悪くなって何度も吐いた。
松葉杖を持つのが億劫だ。
走れない足が妬ましい。
こんなことになるだなんて、微塵も思ってなかった。
「…」
リビングで椅子に腰かけながら、私は背中をさすった。
外傷は綺麗に消えたけども、それ以上に見えない傷が深く爪痕を残していた。
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