Vol.18
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あの事件から、一夜明け傷の処置を施した医師は重々しく口を開いた。
「え…?先生、今なんて…」
病室の中で、医師に告げられた言葉。
それを理解するまでに、時間が掛かった。
「君の場合、アキレス腱が鋭利な刃物のようなもので切られてしまっている。
車のタイヤがパンクしてしまったらもう走れないだろう?それと同じだ」
「…手術でどうにかできないんですか」
「…スポーツでアキレス腱を痛めるのとは話が違ってくるんだ。
君の場合、タイヤと同じようにアキレス腱の一部が欠損してしまっている。これが治るのは難しい」
「…そんな…」
「治っても歩くことで精いっぱいだ。走ったりジャンプするのは無理だろう。
松葉杖なしでは到底生活なんて見込めない」
「…っ!?」
「残酷なことを告げるけど、君はもうヒーローになれない」
vol.18 だいすきなひーろー
「由紀」
病室に入ってきた人物を見て、私は驚いた。
「お父さん…」
久しぶりに見る父は、少しやつれていた。
目の下に隈も出来ている。疲労がその表情に浮かび上がっていた。
「…大変だったな。って、俺が言っても…その、…すまんな」
「…お母さんのことで手一杯なのに、私まで、ごめんね?」
父は少し、笑った。
私達家族の経緯を簡単に説明すると…
父が大手企業の社長で、母がその秘書を務めていた。
けど、母は自身の腹から竜という化け物を産み落とし―――
精神が、おかしくなってしまった。
私は赤子の姿で生まれたんじゃない。
竜の姿だったんだ。…そんなの母親として、あまりにもショックだろう?
どちらの両親も竜なんて個性は持っていないのだから。
それに気持ち悪いでしょう?そんなものが、自分の腹から出てきただなんて。
錯乱した母は精神科の病院に入院。私は一切の面会謝絶だから父がその負担を負わなければならない。
「…お母さん、元気?」
「…ああ」
そう、と告げてそれから父から視線を外した。
「"弟"も、元気?」
「っ…あ、ああ…元気だよ…お母さんと仲良くやってる」
「…なら、良かった!」
母は現実から逃げるために"私"という娘の記憶を一切捨てて"弟"のみを育てている。
私はその弟に会ったことはない。その子は、後に施設から引き取ってきた子だからだ。
写真を父に見せてもらったことはあるけれど、とってもかわいい子だった。
父と母と弟は今は別の家で暮らしているそうだ。
その代わりに。父は有り余る膨大なお金を私に譲渡し、あの家を譲ってくれた。
一人で住むにはあまりにも…広すぎる。
私は、そんなもの望んじゃいない。
本当に私が欲しいものは―――…
「しみったれた話はここまで!まーみんな元気なら何よりって感じ?」
「…そうだな」
「お父さん、忙しいでしょ?まーまー、私の事なんていいからさ!お見舞い来てくれただけでも嬉しいし」
「…すまんな」
「謝んないでよ、辛気臭い!ほら、笑って」
私はにっと笑って見せると、父は再び微笑んだ。
そして、家から持ってきてくれた私の荷物を置いて病室を去っていった。
その時の父の後ろ姿が酷く寂しく見えた。
「…」
再び、自分一人の世界。
父と話すのは久しぶりだったから、ちょっとドキドキした。
緊張してたかも。
父が去って数時間後に、再びドアがノックされた。
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