Vol.10
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最近、ベッドが友達じゃないかって思ってる。
vol.10 これからのこと
いつも思う。
目を覚ますときは海の底から這いあがってきたかのような感覚に陥ることに。
私は、本当は海の底で生まれたんじゃないかって思うくらいに。
何度も、思う。
「…」
清楚な、真っ白い部屋。
傍には誰かがお見舞いに来たであろう、フルーツの入った籠が置かれていた。
…傍には、勿論誰もいない。
「…病院か」
あの後、心操君は無事だったのだろうか?
あいつらは逮捕されたんだろうか?
疑問ばかりが残される。
コンコン
病室のドアが、ノックされる。
今更ながら、ここ、個室か。と理解した。
「…おや、目が覚めたかい?」
入ってきたのは、片手にお見舞い用の花束を持った男性だった。
私はこの人を知らない。
スーツを纏った人物は、手際よく傍にあった花瓶に花を入れた。
…この花、名前、なんだっけ。
「僕はこういうものです」
といって、男性が見せたものは、警察手帳。
手帳には雪村航平、と書かれていた。
雪村さんは近くにあった椅子に腰かけると、穏やかな表情で続けた。
「まず、君には謝らないと、だね。本当に申し訳なかった」
「…??」
そもそも雪村さんに謝れる理由が分からない。
寧ろ謝らなきゃいけないのはこっちの方じゃないか?
「8年前の女児誘拐事件の担当は既に変わってしまっていてね。ほら…ゴリラみたいな、お巡りさん、覚えてる?」
女児誘拐事件。これは、私が小学1年生の時の出来事だ。
元々何度か誘拐されそうにはなったが、その度に逃げ出していたがついに捕まってしまったことがあった。
そう言われて私はようやく思い出した。
ゴリラ刑事。覚えてる覚えてる。
ゴリラな刑事さんだった。顔が本当のゴリラで。事件解決の際にはバナナを贈呈した。すっげぇ喜んでた。
「あの時の事件は既に解決したはずだった。
でも、仲間がまだ数人いて……結果、刑務所から彼らが脱獄してしまった。
君にはまた…怖い思いをさせてしまったね」
だから。
二度と会うことは無いと思っていたのに、再び私の前に現れたと言うわけか。
「今度はこちらも厳重体制で彼らを見張るし、これ以上仲間がいないか調査もする」
「…」
「本当に申し訳なかった」
「…いえ、それより…心操君は…一緒にいた子は…?」
「彼なら無事だよ。お母さんも無事だった」
「…なら、良かった」
深く深呼吸して、安堵する。
「それから君には言わなくちゃいけないことがある」
「…はい」
「…君が個性を使った事に関してなんだけど」
「…私も牢屋行きでしょうか?」
「いや、相手に危害は加えていない。事実、あのチームの連中で怪我をしているやつはいなかった。
銃声が何発か聞こえたという地域住民からも証言を得ているが、銃にも犯人たちの指紋しか残っていないし、仲間割れでもしたんだろう。
それに多少の打撲やかすり傷は君のせいじゃない」
と、雪村さんはウィンクをしてみせた。
…恐らく、仲間割れは心操君の個性による洗脳。
そして打撲程度とは言ったものの、全力で吹っ飛ばした記憶はある。
本当に大目にみてもらえたのだろう。
「でも」
雪村さんは神妙な表情になって続けた。
「獣のような声が響いたという証言も上がっている」
「…」
「犯人を捕らえ、個性の検査や周辺の操作も行ったが、獣のようなものは何一つ見つからなかった」
「…」
「だがそれでも地域住民からの不安の声はぬぐえない。得体の知れないものだからこそ、余計に不安が増加する」
「…」
「未成年の個性使用の件についてだが危害は加えはしないものの、一般人に"恐怖"を植え付ける結果となった」
「…」
「…どういう意味か、分かるね?」
「…はい」
「今回の事件は取材陣にも取り上げられて獣の声も話題になってる。
それに君が雄英体育祭で見せたあの咆哮に似ているという声も上がっている」
「…そうですよね」
「…たとえ正当防衛だろうが、確かに他の人たちに恐怖を感じさせてしまったのは事実」
「私は…どうすれば…」
「その前に一つ。犯人たちの身体からは薬物が検出されててね」
「…はぁ…?」
雪村さんは何が言いたいのだろうか。
「薬物中毒者はありえない行動をとる。勿論奇声も例外ではない。
だから頭の狂った薬物中毒者が獣ののような奇声を発したということにも出来る」
「っ…!」
つまり、もみ消しと言う事なんだろう。
雪村さんはちょっと困ったように笑った。
「グレーゾーンってとこだね。我々警察は君を守る立場にある。
本当は病院の前に取材陣が今回の事件について君に聞きたがっていたけど、お帰り頂いたよ」
「…」
「今回は、我々は君を保護する」
「…」
「けれど、次があった場合は僕たちでも君を守ることが出来なくなってしまう。
個性をコントロール出来ずに、何か事件をおこしてでもしてみたら―――」
「…」
「今度は君を捕まえなきゃいけない」
ヒーローと悪は表裏一体といったものだが、私に表裏もないのではないだろうか。
私と言う存在が既にグレーゾーンそのもので。
悪意無き悪、とでも言うのか。
それは結果的に同じ意味になるのだが。
次、個性を公の場で暴走させてしまったら、私は本当にヒーローになれない。
勿論それだけの問題じゃないのは、重々承知している。
警察が警告をしてきた。
それだけこの個性は危険と言う事。
私は、心にかかる重圧を拭いきれなかった。
「雪村さん、そういえばこの花の名前ってなんでしたっけ」
大きな花弁の、ピンクの花。
「この花は―――"シャクナゲ"、だよ」
―――確か、花言葉は。
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