一次創作 短編
「こっち行くよー」
「早く動いてー」
窓の外から部活動を行う生徒たちの声やバイクのエンジン音が聞こえた。その音をBGMにノートにペンを走らせる。誰もいない教室で机に向かう。やっているのは、ただ明日の小テストに向けて単語を書き取っているだけ。
しかしページを埋めていく単純作業でも、止める訳にはいかなかった。
『ちゃんと部活に来なよ』
『今日は勉強する予定だから無理』
勉強するためと言い訳すれば、他の人は何も言えない。内心ではきっと、部活に来ないならさっさと辞めればいいのにと思われているんだろう。親は私が部活をサボっていることなんて知らないし、何て言い出せば良いのか、意地になって分からなくなっていた。
それに、サボるならもっと楽しい時間の使い方をすれば良いのだけれど、駅に遊びに行くでもスマホを見るでもなく、私は無駄な作業を律儀に繰り返している。
もし人が来たらどうしようなんて考えて、体裁を整えるために単語の書き取りなんてしているのだ。自分の中途半端さに嫌気が差す。
ふと、外から声が聞こえなくなった。窓の外を見てみると、雨が降り始めている。静かすぎて聞こえなかった。
元気に聞こえていた声がなくなり、教室では私がペンを動かす音だけが聞こえる。声も騒音も雨が静かに
包み込む。
そろそろ外で部活をしていた子たちが教室に移動してくる頃だ。鉢合わせる前に帰ってしまおう、とリュックを手に取った。
昇降口でリュックのポケットに傘が入っていないことに気づく。雨は段々強くなっていて、さっきまで聞こえなかった雨音がはっきりと聞こえる。
でも、今日くらいは雨に濡れてしまってもいいだろう。ブレザーから靴下までびっしょりになって帰ろうか。