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一次創作 短編


熱い。

熱い。

アツい。

 真っ赤な炎が周り全てを薙ぎ倒していく。そこには地獄が広がっていた。
 肌は焦げて、体には酸素が回らなくなり、呼吸が苦しい。逃げたくても逃げることなんて出来なくて、その場に座り込む。

 見えるものが全部赤かった。メラメラと燃え上がる炎が近くの壁を倒した。酸素が足りなくて頭がクラクラしてくる。


 ここで死ぬんだろうな、と思った。


 どうして、こんなことになったのだろうか。何度も何度も繰り返してきた、答えのない問いを探す。死ぬ間際までそんな往生際の悪いことを考える自分に嫌気が刺した。

 この熱い炎の中で、真っ黒に焦げて死んでいく。独りぼっちで、全て消えてしまうのだろう。なんだか、それは凄く嫌だった。

「なら……いっそ……」

 口元が歪むのが分かる。私はたぶん笑っていた。
 自分の首に手をかける。少しずつ、少しずつ力を込めていく。目の前が真っ暗になり、意識が遠のく。炎に焼かれて死ぬよりも、自分で自分を殺す方が幾分か素敵だ。ただ、最後にそう思った。








 ぱちり、と目を開けた。まず初めに飛び込んできたのは石造りの天井。苔がびっしりと生えていて、長らく放置されていたことが窺えた。どうやら自分は硬いベットで寝ているらしい、肩と背中が痛かった。

 さて、ここはどこだろうか。何故こんな所に自分はいるのだろう。さっきまで何処にいたのだっけ。

いや――そもそも、自分は誰だ?

「あ、起きたんですか」

 声のした方を咄嗟に向くとそこにいたのは、長い銀色の髪を持つ美しい人だった。綺麗なのに少しくたびれたシャツを着ていて、どうにも胡散臭い。

「今代の死神さんはお寝坊さんですねぇ。大丈夫ですか?私のこと見えてます?」
「あな……たは……?」
「初めまして、死神さん。私のことは……うーん、アレクとでもお呼びください」

 アレクと名乗ったその人は、底なしに深い蒼色の瞳をしていた。美しい人に見つめられるのは慣れていないから、少し緊張してしまう。

「随分と大人しい死神さんですね。前は殴りたくなるくらい騒がしかったのに」
「……?しに、がみさん……?」
「へ?貴方、何も知らないんですか?」

 あり得ないものを見る目で言われても、こちらとしては自分が誰なのかさえ分からないのだ。首を傾げたままでいると、「はぁ――」と大きなため息をつかれた。

「面倒なのが選ばれましたねぇ……ま、やる事には変わりがありません。とりあえず、貴方は今どんな感覚を得ていますか?」
「感覚……」

 急な問いに、自分の中を探ってみる。
 でもそれもすぐに終わる。自分が何処の誰なのか、どんな人だったのか、どんな経験をしてきたのか――全て、分からなかった。過去のことは何も分からないのに、何故か体感だけはある。記憶を伴わない感覚は、正直気味が悪かった。

 そのことを素直に伝えると、またもや「はぁ――」とため息。困ったように頭を掻きながら、近くにあった机から紙を取り出して何やら書き始める。

「名前もない、記憶もない、おまけに使命も忘れてる。なんて使えない死神でしょう」

 あんまりな言い分に流石にカチンとくる。睨まれても気にする様子は全くなく、気怠そうに「なら今後は……いやでも……」とぶつぶつ独り言を呟いた。

 手持ち無沙汰になったため、周りを観察してみる。部屋全体は石を組み合わせて造られており、通気性は良すぎるほど抜群。というか、ほぼ屋外なのでは。ますます謎が深まるばかりだ。

 ベッドから降りて自分の足で立とうとすると、バランスを崩した。転びそうになった私を止めたのは、アレクの手だ。
 軽々と私を支える手はびくともしない。凄いな、体重は平均くらいあるはずなのに。

 あれ、平均って何の?

 混乱する頭で少しでも何か思い出そうとするも、頭痛がひどい。割れそうな痛みにまたベッドに座り込んだ。

 頭を抑える私を気にも留めず、アレクは何やら考えながら
 すると、急に立ち上がりこちらの手を引いて硬いベットのある部屋から連れ出される。
 引っ張ってこられたのは、石造りの壁に奇妙な紋様が刻まれた部屋だった。

 世界が変わる。空気が変わる。

 気怠げで胡散臭い雰囲気だったのが、冷たく無機質で恐ろしいものに。存在の格が違う。どう足掻いてもコレには勝てない。身動き一つすれば殺されるような威圧感。震えそうになる体を押さえつけてアレクを見つめる。

 だが恐ろしいと感じると同時に、大したことは無い、と感じる自分もいた。存在として強いのはこちらだ、恐怖するほどではない。

 相反する感覚に酔いそうになる。ぐるぐると視界が回って、心臓がバクバク音を立てる。恐ろしい、格下だ、怖い、弱い、殺される、殺せる――が、まだその時ではない。
 
「……っ、は、はぁっ、はぁっ……」
「ねえ、死神さん?分かりましたか。貴方のやるべきこと。この世に存在する意味。与えられた使命を」
「……あぁ、十分に」

 先程の感覚に翻弄されながらも見つけた、自分が生まれた意味。この世界で生きる意味。

「……私は、貴方を殺しに来た」

 蒼い、蒼い瞳を見つめて答える。その回答にアレクはにんまりと笑って、「大正解、ですね。」と言った。
 
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