ショート

深夜の午前3時。


「桜を見に行きたい」


と、ユチョンが言ったのをきっかけに、ユノとユチョンは近くの公園に花見をしに来ていた。

街灯に照らされる桜は、昼に見るよりもなぜか綺麗だとユチョンは思った。



「桜の木の下には、死体が埋まっているらしいよ」



そうつぶやくと、つないでいたユノの手に力が入る。


「・・・そう思えるくらい桜には怪しい魅力があるってことだよ。なんか、小説の一説らしいんだけどね。」


解る気がするとユチョンは笑いながら言った。

ユノは、そんなユチョンの顔を見つめていた。
自然に手が離れる。
ユチョンが桜の木の下まで歩いていき、振り返った。



「俺も死んだら桜の木の下に埋めてもらおうかな?ユノのためだけに綺麗に咲いてみせるよ。」


柔らかに吹く風に薄紅色の花が散り、ユチョンの髪に舞い降りる。


「花が散ったら夏が来て暑くなるから、いっぱい葉をつけてユノのために日陰を作るよ。」


はらはらと舞い散る花弁が、ユチョンの肩に舞い降りる。


「冬は雪で出来た白い花を綺麗に咲かせてあげる。風邪をひかない程度に見てね。」


花弁が積もり、ユチョンの肩の線を消していく。


「……そして、春になったらまた桜の花を咲かせるよ。ずっと、ずっとだよ。」


ユノをまっすぐ見ながら、ユチョンは微笑む。

街灯に照らされる、ゾクッとするくらいの綺麗な笑顔。

ユノは駆け寄ると、ユチョンに寄り添うように積もる桜の花を取り払った。

消えかけていた肩が見え始める。


「ユノ?」


すべてを取り払うと、不思議そうな顔をしているユチョンにキスをした。

ゆっくりと唇を合わせるだけのキス。

伝わってくる体温に、ユノはなぜかホッとした。


「どうしたの?」


「なんでもない。……もう帰ろう、まだ寒いから体を冷やしたらいけない。」


もうちょっと見たいというユチョンの肩を抱き、来た道を戻り始める。




ユノは怖かった。

先ほどのユチョンの笑みが、人がするような表情ではなかったから。

本当に桜の精になってしまったみたいで。

そして、それを綺麗だと思ってしまった自分も怖かった。



――――ユチョンの血液を全部吸い上げた桜は、どんなに綺麗なのだろう。



そしてそれは自分のためだけに咲き誇るのだ。



一瞬でも見て見たいと思ってしまった自分が怖かった。


ユチョンを隠すかのように自分の胸に引き寄せ、振り向くこともせずに足早に公園を後にする。



2人が去った後、ユチョンが立っていた桜の木はまるで諦めたかのように散るのを止めた。


そして、公園には静寂が戻った。



End

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