怨念のハジマリ
理のモノノ怪の名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「及第点。」
波の音と絶え絶えな息の音。
そして、地面には真っ赤に染まった男。
「いやはや、あそこまで俺と打ち込める人間はお前だけだよ。」
懐に忍ばせておいた煙管を吹かす。
俺は非常に機嫌が良かった。まさか、人間の身でこの原初のモノノ怪と張り合える人間がいるとは。
しかし、それを壊してしまうのは惜しい。
「……ゴフッ!」
瞳は虚で、男は大きく咳き込み、鮮血を吐き出す。今にも消え入りそうな男の命は、男の浮世離れした雰囲気をより色濃くする。
恐らく視界は無くなり、音すらも聞こえず、身体中が冷たく…石の様に動かなくなっているに違いない。
ふと、俺の耳に"声"が聞こえる。
『…殺してやる』
あぁ、面白い男だ。
その"声"にみるみる口角が上がるのを感じる。
『…モノノ怪…憎い…』
男の負の感情が滝のように俺の中へと流れ込んでくる。
凄まじい殺意と憎悪。
ふと、それを大きくしたいと思ってしまうのは、俺の悪い癖だ。
ふふっと自分の端麗な顔で笑う。
次の瞬間、俺の体は"元の姿"に戻る。
男の姿に慣れていたせいか、胸が重い。しかも、めんどくさがって着物の下に裾除けも下着さえ着ていないのが何とも気持ち悪い。
「うえー…、今度からはちゃんと着よう…。」
声を出して、驚いた。
いや、自分ってこんなに声高かったっけ?なんだか不思議な心地だ。
ふと、男の虚ろな瞳が此方を向く。
先程の憎悪に満ちた"声"が、違うものに一変する。
『助けて…くれ…』
ははん…。
俺がさっきのモノノ怪だと気づいてないな…。
虚ろな瞳が懇願する。
「…そう、助けてあげる…。」
戻った自身の声に未だ違和感を感じながら、俺は男と目線を合わせる。
カヒューッと男が息を強く吐く。
肺に穴が開いていては、声も出ないだろうに。
しかし、男の意思があることは見て取れた。
「一生苦しむかもしれない…。それでもいいの?」
ゆっくり、赤子に言い聞かせるように言うと、男は数回瞬きをする。
自分の中で悪魔が笑った。してやったり…と。
「お前の理…しかと聞き受けた。」
パチンッと指を鳴らせば、男の周りに黒い靄が漂い始める。
男はそれに驚く間もないまま、靄に包まれてしまった。
「ぁああ”…!!」
男の唸り声が聞こえる。
その様が面白くて、俺は先程の姿へと戻る。
その途端に靄が濃くなった。
靄に取り込まれながらも、男の目線はしっかり俺を捉えて離さない。しかも、殺気の籠った目で…。
「…あぁ、そうそう。」
自身が"人でなくなる"、そう感じたのか男は大きく暴れ始めた。
そんな体じゃあどっち道死ぬのに。
ふと、俺の頭の中にとある考えが過る。
最低な考えだ。重々承知しているが、如何せん俺はそういうのが好きな変態野郎だ。
口角が緩む。
「お前がやり遂げたかった事…。それを手っ取り早く達成できる方法を教えてやるよ。」
靄に包まれた男の体が、バキバキと音を立てた。
しかし、充血した眼は今もなお俺を見続けている。
「俺を殺せば…全てのモノノ怪は消滅する。」
男の眼がこれでもかという程開く。
それとともに靄が大きくなり俺の方へと襲い掛かってくる。
あぁ、その心意気。こんな生意気な奴初めてだ。
数百年生きただけでこんなにも性癖が歪んでしまうとは…。
我ながらどうかしている。
「じゃあね。また逢えたらいいね。」
そう言って俺は男へと背を向ける。
後ろの殺気に期待しながら…。
4/4ページ