第一幕
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ウチのために作られたドレスは物凄く素敵なものだった。
オペラ座で映えない、かつ美しく見えるような夜空色のドレス。
それは薄く透ける生地を上にあしらっているため、ミステリアスな魅力を生む。マーメイドドレスのようになっているので歩きやすさが問題点だが非常に美しい。
肩が露出しているデザインなので、今のウチの容姿と相性抜群。
流石は有名なモード商。
誰にどのデザインが似合うのかよく分かっている。
そうこう考えている内に二人の支配人に連れられ、ボックス席のある廊下へと案内される。
本当にゲームの通りの内装だ…。
「支配人!」
ふと、大きな声がボックス席の廊下に響き渡る。
その声に支配人の二人は顔を青くした。
目の前からはパープルのドレスが猛スピードで近づいてくる。
「やめんか…!侯爵令嬢の前だぞ!」
ポリグニーは目の前の夫人にそう静かに怒鳴る。
しかし、夫人は悪びれる素振りを見せず、ウチの方を驚いた表情で見つめた。
「まぁ!マルクス様!ご機嫌麗しゅう…。マダム・ジリーと申します。」
大きくお辞儀をする夫人。
「ご機嫌麗しゅう、マダム。ナマエ・マルクスです。」
ドレスを摘まんで、軽くお辞儀をする。
マナーのレッスンをサボらなかったのはナイスだ、元のウチ!
マダムは、先ほどの二人のように目を輝かせた。
「こんなに素敵なお方でしたのね!」
まるで近所のおばちゃんだ。
なんとなくゲームで遊んでる時から感じてはいたけど…。
「オッホン!…少し席を外してもよろしでしょうか、ナマエ様…。」
「えぇ、構いませんよ。」
話が長くなりそうな予感はしたので助かった。
支配人とマダムジリーは、ボックス席の廊下の端でなにやらヒソヒソと話している。
マダムの手に手紙があったのを見たところ、どうやら怪人関係の話だろう。
その証拠に、話をしている三人の顔には切羽詰まったものがある。
ウチには関係ないが…、気になるな…。
「…だが…。」
「怪人がそう言ってるんだ…、ここは言うことを…。」
「ですが、何故ご令嬢を…?」
聞き耳を立ててみたが、よく聞こえない。
そうこうしている内に、顔面蒼白な支配人が帰ってきた…。
「も…申し訳ございません…。」
顔には笑みを浮かべているが、無理をしているようだ。
「只今…お席にご案内いたします…。」
「え…えぇ、ありがとう。」
デビエンヌにチケットを渡すと、何故か二人はウチを五番ボックス席へと連れていく。
なんで?!チケットには三番ボックス席って書いてあるのに!
「あの…」
「ささ!着きました…!」
ウチの言葉を遮り、二人は五番ボックス席の扉を開ける。
いや、いくら公爵令嬢だとしても…五番ボックス席…。たしかに、いい席だって言われてるけど…。
困惑するウチに、二人は終始申し訳なさそうな顔をしている。
「何か事情がありそうだ…。」そう思い大人しく五番ボックス席へ入ってしまうウチは、お人好しなのか馬鹿なのか…。
「で、では、ごゆっくり…。」
二人の声と同時にボックス席の扉が閉まる。
一人にしないで…と泣き叫びたかったが、自分の理性でそこは抑えた。
五番ボックス席でオペラを見ていいのは"オペラ座の怪人"、たった一人なのに…。なんでエキストラのウチが此処にいるんだろう。
考えたって仕方がない。
取り敢えず、殺されないように大人しくしていよう…。
しかし、オペラが始まると怪人のことなど頭から消えてしまった。
「あぁ~♪」
クリスティーヌ・ダーエのマルグリートは本当に天使のようで感動した。金色の美しい髪、あどけなさの残る顔立ち…。怪人が恋してしまうのが分かる気がする。
「はぁ…。」
うっとりと、ため息が漏れた。
クリスティーヌの歌声も、『ファウスト』の恋模様もとても素敵だ。『ファウスト』を見たことがなかったウチは、登場人物の一挙一動に心揺さぶられた。
「…帰ってきて~ファウスト~♪」
「うそぉ…、なんで行っちゃうの…?」
ファウストとマルグリートの別れのシーンは、特に悲しいものだった。愛するファウストの為に、自分から離れてほしいと告げるマルグリート。だが、心の奥底ではファウストに帰ってきてほしいと願っている。そんなシーン。
「うぅ…。」
号泣に近かったと思う。
嗚咽も止まらないし、鼻水のせいで上手く息もできない。やけに豪勢なハンカチをぐちょぐちょに汚してしまった…。あとでユーリに謝らなければ…。
『ファウスト』が幕を降ろしたときは拍手喝采だった。
割れんばかりの歓声がオペラ座に溢れかえり、今日の歓送式の夜に相応しい物となった。
「あぁ~、面白かった!」
泣きすぎて重くなった瞼。
きっと目も鼻も、すべて赤くなっているだろう。しかし、それくらい面白かったのだからしょうがない。
興奮が冷めきっていないまま、ウチは五番ボックス席を後にするのだった。
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