「あ、あとウチ女です。」

そう付け加えると学園長はガッツポーズをした。
何故に。

「なんて事でしょう！！今まで一度も闇の鏡が女の子を連れてきた事はなかったのに！！！」

文面では嘆いているようにも聞こえるが、当の学園長本人から全くの嘆きを感じられなかった。

おい、嘆けよ。

心の中でツッコミながら、若干嬉しそうに「どうしよう、どうしよう」と言い続ける学園長を眺めた。

早速原作と違う方向行っちゃったよ。
まぁ、悪いのは紛れもなくウチだけど。

「とにかく！詳しい事は後で"ゆっくり"話しましょう！！」


なんでそこだけ強調した？
しかも、女だって言ったじゃん。絶対男子校入れないの確定だって。


「今は、入学式に行かなければ！」

ウチの心の声はどうやら無視されたようだ。

上機嫌に前を歩く学園長の後に付いて、鏡の間へと向かった。







＊＊＊＊＊



自分がグリムから逃げ回っていた道を通り抜け、廊下を歩いていた時だった。

「それにしても学園長はどこに行っちゃったのかしら？式の途中で飛び出して行っちゃったけど……」

明らかに鏡の間らしい部屋の扉から声が聞こえる。

「職務放棄…」

「腹でも痛めたんじゃないか？」

原作同様、学園長の酷い言われように内心で大爆笑した。
学園長は、声のする扉を大きく開け放つ。

「違いますよ！」

バァン！と、扉が大きく音を立てる。

「まったくもう。新入生が1人足りないので探しに行っていたんです。さあ、寮分けがまだなのは君だけですよ。」

学園長が控えめにウチの背中を押す。

「え…、あの？！」

いやー、やっぱ前言撤回。


人の話聞いてねー！！！！


式典服に身を包んだ、やけに顔面偏差値の高い男たちが白い目でウチを見た。

「狸くんは私が預かっておきますから、早く闇の鏡の前へ。」

鏡の前に半ば無理矢理立たされる。

先程「たぬき」呼ばわりされたグリムは、更に手足をバタつかせた。


てか、誰かウチが女だって気づいてよぉ！！

たしかに強さのある男顔だけども…。
泣きそう…。

諦めモードで闇の鏡と目を合わせる。


すると、一瞬闇の鏡は驚いたような顔をした。
しかしそれをすぐさまムッツリ顔に戻す。

「汝の名を告げよ」

緑の炎が後ろでゴウゴウと音を立てる。


「ナマエ…あー、ナマエ•ミョウジです。」

そう言えば、此処はカタカナ表記だったな。
そう思い咄嗟に英語の自己紹介のように自分の名前を言った。

日本語名だからか凄く違和感がある。


「ナマエ•ミョウジ。…汝の魂のかたちは…」


闇の鏡が目を瞑る。

場の空気が嫌に静かになった。


そして紛れもなく胃がキリキリ痛むのはウチだ。
この先の展開を知っているからか、正直此処から今すぐにでも逃げたかった。
ただでさえ今でも白い目で見られているというのに。


しかし、そんなウチに構う事なく、闇の鏡は告げた。





「…分からぬ。」

周りがガヤガヤと騒がしくなる。

あぁ、最悪だ。


この時ウチは、自分に気を取られすぎて気がつかなかった。



闇の鏡の少し言い淀んだ様子に。